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2000年代雑誌ガイド 日本の場合 The magazines of the decade 2000 - 2009 in Japan(2010年『アイデア』339号)

これは2000年代の日本の雑誌を客観的ではなく主観的に選出したものである。この10年の動向を一まとめに語ることはできないが,広告主との共犯関係をより強めたファッション誌,今いる読者と年齢を重ねることを決めた専門誌,ウェブのまとめと追随を選択した情報誌,これらは特に目立ったと思う。デザイン面では余白が増え,ロゴがキラキラし,モリサワ書体が席巻した。速報性ではウェブが先陣を切り,手軽な情報集約は新書が台頭した。他メディアと比較して残る雑誌の役割とははたして何なのか。改めて問われた10年だった。ZINEで注目された自主出版と,Kindleで広まりつつある電子出版の波は,2010年代の雑誌に確実に影響を与えるだろう。10年後にまたこのような形で雑誌をまとめられるかどうかは分からない。傾向と対策のうち,とりあえず「傾向」である。

Power 影響力で

1-1-流行通信

流行通信
(INFAS)
2002年9月号~2004年8月号における服部一成のエディトリアル・デザインは日本の雑誌デザイン史において一つの革命だった。視線があちこちに散らばるレイアウトが雑誌の「雑」を体言し,見る楽しさと読む楽しさが両立した奇跡的なバランスを保っていた。

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ku:nel
(マガジンハウス)
『Casa BRUTUS』より物欲刺激感が少ない,大人になったオリーブ少女の受け入れ先筆頭ライフスタイル誌。ベネッセの『ゆめみらい』を先駆けとする,有山達也の明朝体を丁寧に活かした余白の多い誌面デザインが,21世紀の書店の一角の風景を一新させた。

1-4-実話ゴン!ナックルズ

実話GON!ナックルズ
(ミリオン出版)
暴力団や芸能界をはじめとする裏社会の噂話/裏事情をルポタージュしていく21世紀型実話誌。類似誌も多数登場し,コンビニの書棚に不穏なムードの一角を作り上げた。初めて手に取った時の一冊の読み応えの半端なさは忘れられない。漫画版もあり。

1-5-ファウスト

ファウスト
(講談社)
太田克史編集,新伝綺ムーブメントを打ち立てた新感覚文芸誌。独特の佇まいがティーンエイジャーの心をわしづかみにし,新書サイズながら製本の限界に挑むページ数,小説によって書体を変えるInDesignを駆使したDTPシステムも度々話題を呼んだ。

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BURST HIGH
(コアマガジン)
体験告白とデータ集ばかりだったドラッグ出版物の常識を変えたマリファナ・グラビア誌。「エロさえ載せれば何やってもOK」の「エロ」を「マリファナ」に変えたのが現代的だった。麻薬から文化を捉える視点が面白かったが,後期は栽培マニュアル化した。

1-7-季刊エス

季刊エス
(飛鳥新社)
『Comickers』の流れをくむイラスト/キャラクター誌。『夜想』のゴス/アングラ感を現代に受け継ぐ際に,教条的でなく,華やかなカラーイラストで挟んでポップに魅せたことが新鮮だった。表紙の丸ゴシックは雑誌の主張をうまく表していたと思う。

1-8-小悪魔ageha

小悪魔ageha
(インフォレスト)
2006年創刊,ギャル向けインテリア誌『ルームパラダイス』にいた中條寿子が別冊nutsに移って立ち上げたキャバ嬢向けヘアメイク/ドレスの教科書。Pen&Pixelのblingスタイルを日本に根付かせたのは間違いなくこの雑誌だ(ただし『popteen』の方が先)。

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relax
(マガジンハウス)
岡本仁が編集長となり,小野英作がADを担当した2000年2月号~2004年10月号の4年間は,東京の若者のライフスタイルに密着した美しい存在感を放っていた。フリーペーパー配布などのスタイルも,コレクション欲を刺激した。現在も根強いファンが多い。

1-10-ネットランナー

ネットランナー
(ソフトバンク・パブリッシング)
当初はビジネス寄りのパソコン雑誌だったが,ネットバブル崩壊後の2001年7月号で黒い背景に「先行者」を表紙にした大リニューアル。「ぶっこ抜き」「悪用厳禁」を謳ったダウンロード文化の礎を築き,日本のインターネットの風景を確実に変えてしまった。

1-2-アイデア

アイデア
(誠文堂新光社)
2000年代はタイポグラフィ,国別,巨匠が傾向としてあったが,一方でWARP,ダイアグラム,花形装飾など激シブな特集を連発した。情報はウェブで,というムードに対抗するような超ツメコミ型の方向性を選択し,分厚さと濃度で印刷物の意地を見せつけた。

Explosion 爆発的で

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