『ベルヴィル・ランデブー』は日本アニメを侵犯する?(2004年8月)

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『Les Triplettes de Belleville(ベルヴィル・ランデブー/The Triplets of Belleville)』
•監督・脚本:シルヴァン・ショメ
•音楽:ブノワ・シャレスト
•2003年/78分/35ミリ/フランス・ベルギー・カナダ・イギリスの合作
•日本公開:2005年正月、テアトル・タイムズスクエアでロードショー

私が影響を受けたアニメーション……「101匹わんちゃん」「おしゃれキャッツ」「ジャングル・ブック」といった、ディズニーの黄金時代の作品。他にもシュールな「ベティ・ブープ」や、前世紀の作品ながら未だ現代的であるウィンザー・マッケイの素晴らしいアニメーション。 - Sylvain Chomet

07-16に東京日仏学院で行われた『ベルヴィル・ランデブー』の先行上映に行ってきました。フランスで100万人動員し、アメリカでも大ヒットした何かと話題のアニメです。

大まかなストーリーは「内気な少年が自転車にだけは興味を持ち、ツール・ド・フランスに出るまでに成長したが、それを狙うマフィアが」という感じですが、ストーリーはあちこちに掲載されているのでここでは感想文を。ひとまずトレーラーは観てください。→予告編動画

2004年夏のベルヴィル・ランデブー

上映後に今敏(監督)と井上俊之 (アニメーター)の対談が行われていて、それがわりと面白かったで、聞いてる時にメモったものをここにも書いておきます。ほとんどベルヴィルとは関係ない、日本アニメの現状を嘆くような言説に終始していましたが。ちなみに意訳がほとんどですので、これを誰かの発言として引用するのは避けてください。

•監督の前作『老婦人とハト(La Vieille dame et les pigeons)』(1996年)は20分のショートムービーで、広島国際アニメーションフェスティバル第7回大賞を取り、日本で当時それなりに話題になった。井上俊之が言うには、その『老婦人とハト』のビデオを大友克洋が持っていて、それを親しいアニメーターに薦めていたとか。

•日本では(漫画文化等の影響もあるだろうが)物語を描き、そこに侘び寂びを表現することで評価される傾向がある。けど『ベルヴィル・ランデブー』はアニメーションのためのアニメーションというか、キャラクターを動かす原始的な喜びがある、つまり物語以前にアニメーション自体が表現として成り立っている、という評価。

•日本のアニメのキャラクターはもうパターンが決まっている。もちろん細部は様々だけども、ある種の前提の上に成り立っているのがほとんどだ。キャラクターは何かパーツを付け足すことで他者との違いを表している。ベルヴィルは逆に、必要のないものを削り取って、言いたい所だけを残したようなキャラクター作りだ。例えば自転車選手なら、足の筋肉だけが異常に描かれているように(この話を聞いて東浩紀曰くのデータベース消費というヤツかな、と思いました)。

•(日本のアニメーターは海外作品を観ているのか?という質問に対して)全然観ていない。薦めても興味を持って貰えない。日本のアニメだけを観て日本のアニメを作る。異種配合による化学反応が起こらない内輪の世界に入り込んでる。最もアニメーターには時間もお金も足りないせいもある。世界中と相互影響の関係になれたらいいとは思うが。

他にベルヴィルに対して言われる特徴は「可愛いキャラクターが一つもでてこない」「実はCGシーンが多い」「台詞が少ない」など。個人的には音楽の使い方に強く惹かれます。これはアニメに限らず日本の映画作品すべてに言えることですが、製作者側が音楽にあまり関心がないのがバレバレというか、フィルム自体は職人技のクオリティで提出するのに、どうして音楽だけこうなの? という作品が多いですね。90年代半ば以降、映画のサウンドトラックをコンピレーションアルバムとして扱う流れが出来たと思いますが、日本でそういうことをする人が居ないのは楽曲使用料のせいなのかな。特にアニメってどうして“アニソン”ばかりなんでしょう。当り前っぽいことを言ってますけど。

このアニメをインパクトとして感じない人が多いかもしれません。異質すぎて、関係ないモノとして処理されそう。ただ、「アニメが話題になっていて興味もあるけど、テレビアニメってどれもなんとなく馴染めない」と感じている、サブカルチャー趣味の人達には薦められるでしょう。なんにしろ来年話題になることは決まっているので、今のうちに。今年の広島国際アニメーションフェスティバル(08-19~08-23)でも上映されます。

<!--以下2020年コメント-->

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