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電子契約サービス導入検討に際して法務観点で気にする点は?

リモートワークが定着しつつある中で、出社することが前提となっていた紙とハンコから電子契約・署名へと移行しつつあり、電子契約サービスの導入を検討していらっしゃる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今日は、電子契約・電子署名についてポイントを説明しようと思います。

1 電子契約って

(1)紙の契約書とハンコ

上記のように最近電子契約が話題になっておりますが、そもそも契約は紙で署名・押印しなければ成立しないのでしょうか。(一部の契約を除き)そんなことはなく、口頭でも契約は成立します。

では紙とハンコで契約書を締結してきた理由は何かというと書面にして契約内容を可視化して証拠として残すためです。

そしてなぜハンコを押すかと言いますとハンコがあれば証拠として強いためです。当該書面に両当事者の押印がされていればその文書は真正に成立したもの(=当事者間の意思に基づいて作成されたもの)であると推定されます(民訴法228条)ので、そんな書類や知らない・偽造だと言った争いが避けやすくなるのです。

(2)電子署名

電子契約は電子ファイルに電子署名を施し締結する契約をいいます。この場合、上記の紙とハンコのように文書の成立の真正は推定されないのでしょうか。これに対応したのが、電子署名法になります。

電子署名法は、下記の要件を満たす電子署名(法2条)には、署名・押印同様に文書の成立の真正を推定する効果を認めることにしました。
・当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること(本人性)
・当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること(同一性)

電子署名法は2000年と20年前に成立したものなので、紙とハンコに代替できるはずなのに、電子契約サービスはここ20年なかなか普及しなかったのかという点は後述します。

(3)タイムスタンプ

タイムスタンプは、データに刻印される日時の記録で当該データが時刻以前に確実に存在していたこととやその時刻以降にデータが改竄されていないことを証明する目的で押されます。

契約書は税務の関係で7年間保存しなければなりません。電子契約書での保存が認められるためには電子帳簿保存法上タイムスタンプの付与が必要でこれがないと、電子契約で契約を締結しても別途ファイルをプリントアウトして紙で保存しなければならなくなります。

またタイムスタンプは上記のように「その時刻以降にデータが改竄されていないことを証明する」機能を持ちますので、電子署名の要件である「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができる」という点にも影響します。

2 電子契約に関する最近の動き

(1)前提:電子契約サービスの2類型

電子契約サービスには大別して2つの立会人型と当事者型(電子証明書型)があります。立会人型は、web上で当該電子ファイルが当事者の意思に基づくことをサービス提供事業者が立会確認の上で電子署名を行うもので、ドキュサインやクラウドサインといったサービスはこちらになります。
他方、当事者型は、認証サービスを行う事業者から所定の手続きをj経て電子証明書を発行してもらい本人署名であることを示すもので、e-TAXなどの行政手続きや電子署名法の認証事業者のサービスはこちらになります。

※ Great signの「電子契約の署名の仕方は?立会人型と当事者型について詳しく解説」という記事によくまとまっておりますので、詳細を知りたい方はリンク先の記事をご一読ください。

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弁護士 村上英樹「電子契約・電子署名 オンラインセミナー」 より引用

(2)電子契約・電子署名が急速に普及しようとしている背景

(ア)これまでなかなか普及しなかった背景

電子署名法が成立してから20年が経とうとしているのに、なぜ今回のコロナ・緊急事態宣言関係で話題になるまで普及がしなかったのでしょうか。その背景について説明します。

従前の電子署名法で電子署名として認められうることが明らかなのは当事者型だけでした。立会人型はサービス提供事業者のシステムにより電子サインがされるので本人性を欠くのではとしてという点が論点になっていましたし、法も電子証明書を主として想定し傍から要件を満たすか分かるのは認定事業者による電子証明書かという状況になっていました。

ただ、この当事者型電子署名は使い勝手があまりよくありませんでした。奥のサービスにおいて、電子証明書を利用するためには当該サービス専用のICカードとカードリーダーを購入しなければならなかったり、契約の相手方にも専用のソフトウェアのインストールをしてもらわなければならなかったりといったことがあり導入の阻害要因となったりしていました。

立会人型電子署名は成立の真正を推定する機能を果たすか疑義を呈され、当事者型は使い勝手がよくないという状況であったため、結局、紙とハンコでいいかとなっていたというような状況でした。

(イ)普及に向けた急速な動き

上記の状況を一変させたのが新型コロナウイルスの感染拡大のための緊急事態宣言になります。紙とハンコでもさほどの不便がないというのは皆が出社していたということが背景にありましたため、安全のために出社を控えなければならないという状況になりますと紙とハンコでは業務が滞ってしまうおそれが大きいのです。そこで注目を浴びたのが電子契約でした。

もっとも上記のような不便がありましたので、これを解消するような下記の動きが生じてきました。特に重要なものを以下に記します。

①立会人型サービスも電子署名法の電子署名に該当しうるとする政府見解の明示

上記した問題点に対し、総務省・法務省・経産省が三省連名で2020年7月17日付「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」で立会人型サービス(電子サイン)もタイムスタンプ等が付されたものであれば、電子署名法の電子署名に該当しうる旨の見解を明確にしました。これにより、立会人型サービスでは成立の真正を推定されないのではという懸念が解消されました。

②一部の立会人型サービスで取締役会議事録の署名をして登記手続きをできるようになった

法務省は5月に経済団体に対し、立会人型サービスの電子署名(電子サイン)も署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであるとの見解を周知し、かつ、6月にはクラウドサインとGMOサインのサービスを利用を登記手続きに利用できる電子署名サービスとしました。

このように社会からの高まる要請を受けて、政府はこの春から立会人型サービスについて門戸を広げる方向で様々な見解を出すようになりました。

3 どのような点に着目してサービスを選ぶべきか

UI・UXを含めたそれぞれのサービスの使い勝手や自社の予算とサービスの費用の関係等は当然のこととして、法務観点からはどのような点に注意するかという点を示すようにいたします。

(1)立会人型+タイムスタンプのサービスか

前述しましたように当事者型(電子証明書型)は前述した内容を含め難点が多い(カードとリーダーの数の関係から結局出社が必要等)ため、お奨めしません。そうしますと立会人型になりますが、このサービスが電子署名法の電子署名と認められる条件として、政府見解ではタイムスタンプを求めていますし、電子帳簿法における文書保存の観点からもタイムスタンプは必須ですので、「立会人型+タイムスタンプ」のサービスかという点には注目すべきです。

(2)シェア、知名度、サービスの継続性

シェアや知名度も重要になります。電子契約は相手もあるものですので、電子サイン・電子署名のサービスが相手にとって不安を与える・使いづらいといったものでしたらたとえ自社は使い方に熟知していても全体としては使い勝手が悪いものになります。シェアや知名度が高いものでしたら、そのブランド力により反発されにくかったりそもそも相手も使用経験があるので抵抗が少ないといったことが期待できるためです。なおこの点ですが、国内限定ですとクラウドサイン、海外も含めるとドキュサインが知名度は圧倒的でしょう。

また、文書は長期間保管しなければなりませんので、すぐに終わってしまうおそれの大きいサービスは避けるべきとなります。

既にある程度の期間サービスを継続しておりシェアや売り上げを伸ばしているサービスであれば継続性や使い勝手の点で一定程度の信頼がおけるでしょう。

(3)契約以外にも使うか

例えば、取締役会議事録に使い当該議事録を登記手続きの添付書類とするということもしたいとなりますと、その目的に対応しているサービスでなければなりません。登記でしたらクラウドサインかGMOサインになりますがそのような目的がなければそのためにこの2つのいずれかにしなければならないということもありません。

※ http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html


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