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「聴く」ことは「歌う」こと ─長谷川白紙ライブ「ニュー園 ショーケース」レポート

はじめに

2021年7月20日、半年前に買った電子チケットが発行された。


僕、そしてこれを発行した全員が、半年という長い間にわたり待っていたのである。
天才・長谷川白紙の初ワンマンライブを。

めざましい活躍をみせる彼が、初のワンマン・ショーをやるとの一報を聞いたのは2020年の暮れ。あけて2021年1月26日に開催予定だったライブは、コロナのせいで1月15日に「5月6日まで延期」すると発表。ここまではまあ、昨今の音楽シーンじゃよくあることだった。それに国民のほとんどが「もう収束する」という楽観的でもある希望を抱いた観測も抱いていたから、5/6に開催するのだろうと思っていた。

月日は流れ、4月27日。再びの延期アナウンス。5月20日には「7月20日に開催する」というツイートが公式からなされた。天才は、行き場のない怒りをツイートという形で吐き出していた。


苦節を乗り越え、ようやく2021/7/20、初ワンマンライブ「ニュー園 ショーケース」が恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。

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緊急事態宣言下での開催。検温・消毒は完璧にされ、やって来た観客はマス目の中に閉じ込められながら、それでも音楽を聴きたい、という共通の思いを胸に会場へやってきた。この時点でもう、演者・観客が一体化している。

余談だが、コロナ禍のライブは独特な気がする。

リスクを冒してでも、「観たい」っていう思いを持っている人たちが集うから。

来ない選択も確かにあるけれど、それでもキチンとルールを守って来る選択を取った人間が集まった会場は、コロナ禍以前よりもシンクロ率が高い気がする。ハンズクラップが多いからかもしれない。


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あ、恵比寿の壁に平沢進を観測した。
そういえば客層、似てるところがあるな。



開場〜開演

整理番号が結構(かなり)後ろの方だったから、観客をじっくり観察できたのだが、所見としては、老若男女が入り乱れている…って感じ。若者ばっかりかと思ってたんだけどそんなことはなかった。


自分もようやく入場。中後方、ってくらいかな?LIQUIDROOM初めてだったから、すごい後ろなのかどうなのかがイマイチ分からなかった。

最近のライブハウスはめちゃくちゃ換気しているから結構涼しい。前は入場してから汗を結構かく…みたいなこともあったんだけど、あまりかかず。しかも夏だったのに。

かなり押していたみたいで、15〜20分遅れ?で開演。
半年間も待った、あの音楽が鳴り出す。



内容

セトリがぜんぜん思い出せないので、断片的にしゃべります。ごめん。


なんて書きながら調べていたら、やさしい人がツイッターにあげていました。ありがとうございます。

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(自分で書きなおしました)

先程も言ったとおり、かなり後ろのほう(だと思う)だったけど前方にそこまで大きい人いなかったから、見やすかった。全身が見えて、鍵盤弾いてる手元も見えたから言うことなし。


真っ暗闇の中に一筋の光が走る。待ちに待った本日の主役・長谷川白紙の登場だ。

「こんばんは、長谷川白紙です」という声。バックには大きく白地の細い文字で「長谷川白紙」の文字が躍る。


初手から知らない曲だな…なんて思っていたら、Soundcloudだけで公開されているっぽくて、サブスクにあがっていない「横顔S」という曲でした。

1st EP『アイフォーン・シックス・プラス EP』に収録されているらしい。いい曲だ。てかこれ聴いたことあったな。一回だけ。忘れちゃってたみたい。


「怖いところ」「o(__*)」「毒」と、ドラムン風味、だけどクセのあるリズムのアッパー曲が続く。「o(__*)」での鍵盤ソロに脱帽。ジャズでもない、クラブ・ミュージックでもない、唯一無二な音の狂乱。「生で弾いちゃうのかこのフレーズ…すご…」って感動しちゃった。

「リズムのとり方が楽しいけど、いざライブとなったらこれノリづらいかもな…」なんて開演前に考えていたのは杞憂に終わる。めっちゃノれる。逆にノリ方のフォーマットが確立されていなかった初ワンマンなぶん、まるでそれぞれがクラブみたいに、思い思いな楽しみ方をしていたように見えた。


先の3曲に比べたらダウナーめな「蕊のパーティ」。クールダウンを狙ってたのかもしれないが、この曲すきだからダウンしない。素朴なピアノにリズミカルな歌が乗っかるAメロが生で聴けて嬉しかった。


「妾薄明」をバックに一旦ひっこむ白紙。何?って思ってたらあのリズムが…あのメロディーが…まさかの「キュー」だ!!!!!!自分の持ち曲が増えたからカヴァー曲は演らないと思っていたんだけど、まさかのサプライズ…なんて考えながらボーッと見ていた視界の端、

下手から諭吉佳作/menが歌いながら登場

何これ?????頭バグっちゃった。「え?なんで歌ってるの?」って頭で必死に考えながら、まさかのゲストに気分があがる。「キュー」、生で聴きたい曲ランキング上位だったんだけど、来週のMETAFIVEライブで聴けるな…やった…と思っていたからフライング駆け込みキュー。いや、どちらにせよめっちゃ嬉しい。

MCもそこそこに、合作曲である「巣食いのて」を二人で演奏。イントロの「ポッ」「ピッ」みたいな音が大好きだから、鳴り始めた瞬間に心のなかで大絶叫。二人でデュエットする時とかも同じく。重ね合わせの美しい声が、きれいな色にみえた。


大喝采を浴びながら、諭吉佳作/menが退場。次なる一手を全員がはやくはやくと思いながら待ちわびていると「新曲やります」というMC。さらなる大喝采。

不安になる音色のピアノが鳴り響く。この前のbrainfeeder "FLYING LOTUS presents THE HIT"で初披露した「わたしをみて」だ。ライトが大暴れして超カッコいい。このときの照明がいちばん良かったかも。途中のブレイクで観客もノリノリ。ボルテージも最高潮に。


全体的にアッパーだった楽曲群を怒涛のごとく浴びせられて盛り上がっている観客を鎮めるように、カバー曲であり弾き語りでもある「セントレイ」を混ぜ込んでくる。ニクい。セトリの組み立てがなんとも上手だ。

踊り狂えるサウンドから一転、静かに聞かせる曲を選ぶのはもちろん、意図したとおりにちゃんと聞かせることができるほど実力を伴ったピアノ弾き語りが心に染み入る。

この「セントレイ」に限らず、弾き語りカバー曲が中心のアルバム『夢の骨が襲いかかる!』に収録されている楽曲群は、全てがちゃんと「長谷川白紙の顔」を持った曲へと様相を変えている。この記事を読んでいる人たちはとっくに聴いているだろうが、このアルバムは必聴だ。

次もまた弾き語りで「シー・チェンジ」が紡がれる。静かでどこか物悲しさを感じるような詞を歌い上げる彼が、背景で流れていたMVも相まって、なにか別の、どこか遠くにあるものに見えた。


再び、『エアにに』からいくつかの選曲。

「悪魔」「いつくしい日々」を演奏。で、跳ねるリズムがどこかジャジーで楽しい「山が見える」でやられた。失念したのだけれど、確かこの曲だったか、全体的にカラフルな感じの色彩調で4人の女の子が入れ代わり立ち代わり投影されていくVJがあって、「これすごい…いいな」と語彙を失った。

ライブでお気に入りの曲を聴いて嬉しい!ってことは多々あるけども、これまであんまり好きじゃない(あるいはあんまり聴き込んでいない)曲を生演奏+爆音で聴いて「この曲こんなに良かったんだ!」というふうに恋に落ちる瞬間がある。

あれが、もうたまらない。ライブにいく醍醐味の一つかもしれない。前述した3曲はあまり…だったのだけれど、このパターンにハマり、帰りの電車で鬼リピしていた。


MC。白紙愛用の鍵盤の横(上手側)に運び込まれるパソコンとDJ機材。ライブでどよめけない現在だが、みんなが心のなかでどよめいていた。

このとき僕は、”パソコン”をめっちゃ強調してMCで話している白紙を見て「パソコン音楽クラブだ…!」だと勘違いしていました。「hikari」が生で聴ける~~!と勘違いしていた。

白紙の盟友yuigotの登場。おい!!これもこれで最高じゃねーか!!!

同じ98年生まれの二人が演奏するのはもちろん「音がする」。天才の声に、DJのクラブ・ミュージック的で立体感のある音像が、yuigotの手によって重ねられていく。

途中で挟み込まれた白紙のピアノ・ソロ×yuigotのDJプレイの掛け合いで会場は大沸き。ハンズクラップを煽るyuigotに感極まる長谷川白紙。LIQUIDROOMが一つになる。多幸感に包まれた空間だった。打ち込み音源をただ流すだけではなく、聴衆を楽しませてくれた。これぞライブだな、なんて感動しながら、抑圧された2年間のすべてを発散させるように踊る。


サッ…とyuigot退場。本当にありがとう、という全員の気持ちを物語るような、割れんばかりの大喝采だった。

2時間あっという間だったが、いよいよトリの曲。「あなただけ」。

これをトリに持ってくるのだろうな、と思ってはいたが、実際に聴くとやっぱりいい。長谷川白紙への入り口がこの曲だっただけに、感動もひとしお。何色にも踊るライトが、シュールなVJが、音源に重なる白紙の声と鍵盤が、最高のライブを締めくくる。


アンコール。このときだったか、

「聴くことは歌うことと同じだと思っているから、聴いていてくれてとても幸せ」

という発言があった。気軽に発声もできない現在のライブ・シーンではもちろん一緒に歌うこともかなわない。そんな環境のなかで、このように明るい考えを抱いているアーティストもいるのだな、と救われた思いになると同時に、天才の頭の中をすこしだけ覗くことができた気がした。


ストリングスが鳴り響く。日本語ではない言語で、彼は一筋の光のなか、歌っていた。どこか神秘的で、ポップさが一切ないオペラ曲。後追いMCで何という人が作曲したのかを教えてくれていたのだけれど、聞き取れず、Twitterにも情報が出回っていなかったので、調べるのが難しい。でも、いい曲だった。

アンコール2曲目は「草木」だ。最後まで走り抜く。

客電も点き、本当に終わりか…良かった…なんて噛み締めつつ、規制退場のために待っていたら、まさかのダブルアンコール。しかもノープランで飛び出してきたらしく、必死にメモ帳を確認する白紙。


始まる。本当に即興の弾き語りなのか疑うくらい、クオリティの高い演奏。初めて聴いたけど、すごくカッコいい曲だな~、なんて聴いていた。

SAKANAMONの「ミュージックプランクトン」という曲らしい。知りませんでした。

歌詞も雰囲気もどこか似ている気がする。楽曲はけして同じ雰囲気じゃないけれど、どこか通ずるものがある。「このバンドがなかったら今こういうことはしていなかった」というだけあって、無意識下にそっと置いてあるのかもしれない。「かなり昔のバンドなんで…」とも言っていたけれど、これ、2011年の曲じゃん。まだまだ最近じゃんか。


かくして、天才が送り出した初めてのライブは、本当に終演した。



全体的な感想

「最高でした…。」みたいなうっすい感想で締めてしまってもいいのだが、まだ書かざるを得ないことがいくつもある。


楽曲群(セットリスト)については、前述したとおり最高の組み立てだったと思う。ダンサブルな楽曲と弾き語り楽曲を分けることで、結果として一つのまとまりが生じたように思えた。

全18曲の中で、わずか2曲(本編に限るが)だったはずの弾き語り曲が深く印象に残った。それはやはり、静と動の対比構造だけでなく、その一端と一端がマックスまで徹底されていたからだろう。

パワーある楽曲は徹底的にリズムを強調しているし、「声」も一つの楽器となる弾き語りでは、それに留まらず、最も静寂がひそむ「間」すら使いこなしていた。音と音の隙間を聴かせるというのは、若干20歳前半のホープにできる所業ではない。感覚派なのだな、と改めて感じる。


照明。大暴れしていた。特に「音がする」の照明が最高だった記憶…!でも狂乱すぎてどのようなだったか思い出せない…!!無念です。

始まって何曲かは逆光だったから「やっぱり《ずとまよ》みたいに顔を隠してライブやるんだな」と思っていた。そしたら、途中から順光になったり、スポットライトに照らされたりで、普通にお顔を拝見できてビックリ。あ、ちゃんと存在してる人間が作曲しているんだな~と謎の安心を抱く。


VJ。めちゃくちゃサイケでした。現代美術を感じさせるような映像群に驚き。それぞれに沿った映像の組み合わせをしているみたいで、楽曲と非常にマッチしていた。

耳で楽しい、目でも楽しい、といったふうに、ライブ全体を支配していたといっても過言ではないかも。でもそれはやっぱり、長谷川白紙の楽曲があってこそだけれど。


さすが老舗のライブハウス・LIQUIDROOMだけあって、音のバランスも非常によかった。PAさんがどうやら有名な方らしい。最高のハコに強力なPAがついたら、あんなに素敵な音像が生まれるんだな。


こんな状況下のなか、素晴らしいライブを開催してくれた長谷川白紙と関係者様に、最大限の感謝を述べながら、今回のライブレポを締めたいと思います。

声に、楽曲に、演奏に、最高に沁み入れて踊れた素敵な2時間をありがとうございました。


あと、次のライブを…アルバムを…早く…!!!

いつになってもいいので、待っています。応援し続けます。


(終)

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