演技練習用脚本「おやじ」 ・男30代1人、60代1人・テーマ:親子・ライバル兄弟・構造:複雑

 我ながらおとめな脚本を挙げた次なので、次はおじさん色の脚本を。仕事でなく好き勝手書いたやつから。

 家族がテーマで、女子高生とおじさんの事件・旅もの(2時間)より。(なんじゃそりゃ)2番手のおじさんサブストーリーから。

状況
 庵野(35)は報道テレビカメラマン、家族はいない。高学歴な一家から1人はみ出している。兄妹と比べられて育ち、劣等感の塊。その兄、明(38)は妻子があり、一流企業に勤めている。父周作(65)は庵野を認めてこなかった。
 ある日、突然周作から庵野に電話があり、死ぬ前にお前の声が聞きたい、と言われる。「一緒に死んでやるから待ってろ」と駆けつけると、首吊りに失敗した父親が喫茶店で座っている。
 最後8行の二人のやり取りについて。周作の財布には家族の写真がバラバラに入っている。両親、妻、長男、長女。次男庵野(=自分)の写真だけ入っていない事を庵野は知っている。

演技のポイント
 このシーンで一番大切にしたい事は、正当ではないが、ある意味、やっと認めて貰えたんだ、という庵野の気持ち。その表現を鮮やかに描くために、周作の心の状況をどう作るか、です。
 周作は他の家族に言うな、と。威厳を保ちたい一心です。庵野の寂しい気持ちを利用し、経済的に楽でない事を知りながら次男庵野に全ての負担を強いるつもりです。認められたい一心の庵野は全てわかって、喜んで受け入れる、という構図。周作に罪悪感はあるべきか、ない方が庵野の演技を引き立てるのか。考えてみる必要があります。
 元は2時間モノですが演技の練習なので、このシーンだけで一番おもしろくなるように考えます。

 脚本には必要悪があります。「笑う」とは、本当は脚本に書くべきではないのですが、複雑な気持ちのヒントとしてやむを得ず書いています。脚本内の喜怒哀楽の表現は読解のヒントでしかなく、シーンのテーマが伝わるならば自分が組み立てた演技を優先すべきです。私の場合、自分が書いたホンを演出すると役者の人に「そっちですか!!」とめちゃくちゃ驚かれる事も少なくないので、この場のように直接演出できない時は書いてしまってます。

 もう一つ。例えば、周作の声について、カスカスでやっとの事で声を出す。と書きました。一通り書き上げた後、補足として入れていました。実力ある役者が芝居を作る時、自殺に失敗してのどがつぶれている人の事が想像できれば、こんなト書きがなくとも準備してくるでしょう。たとえト書きに書いてなくともその状況から考えうるあらゆることを想像、創造してください。その架空のkyらクターをリアリティを感じるまで作りこめば、生身の自分自身をその場所に立たせた時、アイデアは色々生まれてくるはずです。もし何も生まれないのであれば作りこみが甘い。

 なんて。書いてあっても無視しろとか、書いてなくても作れ、とか。本当にそんなに難しい事かよ、と思うかもしれませんが、実際、最前線の人達は絶対にそうしてます。本全体のテーマが灯台の灯で、意識がそこに向かいっている限り、迷子にはなりません。生身の人間がやる事なのに、ある程度の揺れがないと面白味は生まれません。不自由で自由で、だから魅力的なわけです。

 ※男二人きりで練習、であれば「まだこの財布使っていたのか」から初めてください。どうして首を吊ったのか、という疑問はすっ飛ばし、という事です。


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