見出し画像

2-2.褒め言葉の効果<大罪

(『1.君に俳優を志すのをやめさせたい』の一部ですが単独でも完結しています。落ちやすく這い上がりたくない穴(後半))
 自己評価を妨げる恐ろしい邪魔も存在します。みなさんは「呪いの言葉」のイメージを顔にしてみたら、どんな見た目をしていると思いますか。緑の皮膚の、溶けた感じの、目の玉がないような……。そういうのもコワイですね。でも実はそういうコワイ見た目は長い目で見ればあまり怖くありません。生理的に離れようという気持ちが働きます。その影響を遠ざける事ができると思うのです。一番最強の呪いの言葉は「世界で最も美しい顔ベスト100」みたいな顔をしています。ずっと寄り添っていたい。自分の人生大半を捧げても。

 先ほどの年配の女優、幸子(仮)さんの印象深い言葉があります。「養成所で講師に言われたんです『さっちゃんには世に出てほしい』って。それをきっかけに……」初めて私が個人的にお話させてもらった時と、他の役者達を前に自己紹介した時、2回聞きました。短くとも2回の「自己紹介」に挿入されていた事でいかに大切な言葉だったのか分かりました。40年近く前の当時の呼び名のまま、セリフを再現したのも興味深いものがあります。糧にされていたのです。その時、演技を見せてもらったのですが、基礎的な事ができておらず、脚本の意図を汲む事ができませんでした。(経験のない若者でも理解できるホンです)舞台女優として活躍もされていた時期もあり、身体の基礎についてはできておられたと思います。ただ、演技の作り方をご存じないようでした。

 何事においても善悪を付けるのは難しいと思いますが、人の勇気を削ぐ事、労働意欲を削ぐ事は私にとって明確に「黒」です。大嫌いです。それでも、です。「君には無理だ」の方がよほど愛ある時があります。
 実力相応の褒め言葉なら、励みになり、前へ進む勇気になります。そうでなければ努力を怠らせ、長年にわたって本人を違う角度から苦しめ続けます。その言葉がぎりぎりの彼女を励まし続けてきたのなら、それでもいいじゃないか、と言う人もいるかもしれません。でも売れない現実のギャップに苦しみ続けているのは事実です。俳優を目指す人には一般人より外見が素敵な人も多く、意図的にもそうでない場合にも、過剰に良い評価を受けてしまいがちです。実際、先に挙げた男性も笑顔が魅力的でした。女性も若い頃は美しかったと想像できました。
 苦しむ事も美しい人生の一部だ、とそういう考えもあるかもしれません。でも私なら、こんな種類の苦しみは嫌です。現在地を知った上で、どこにもいけないとあがき続けるのならいい。でも、現在地はどこだ、とあがき続ければ自分を認める気持ちが萎えていきます。哀しい消耗です。

 実は、女優さんの言葉を聞いた時、かくいう私も同じようだったのを思い出しました。性同一障害かと夫に思われていた見た目なので、下心の存在は皆無と自信を持って言えますが。それでも、新人賞をもらった事、先輩脚本家からの「(制作の)金なら出す」、ずっと年上の女性プロデューサーからの「泣けた」、知れた男性プロデューサーの「これから一杯いいことあるよ」、自主映画を見てくれたごく一部の知らない人が喜んでくれた事、一つ一つ、それは大事に喜んでました。私の作品を褒めてくれる人はきっと素敵なはず、とシラフでは到底考えにくい謎の認識にも縛られました。惨めすぎる現実はすぐに目覚ましになりました。3年ぐらいは夢の中にいました。短くないですね。パートをしながら脚本で稼いだ金は100万にも満たなかったと思います。今はそれらが「呪いの言葉」に着地しないように、風も止んだというのに、凧を自走だけで浮かせています。惨めに見えると思いますが、実は楽しいです。現在地が分かっているからです。

 そうです。いつか私の遠い親戚が不動産で生計を立てながら趣味でエキストラをやっていましたが、そういう人は別にいつか売れようなんて思ってないので楽しいのです。当たり前ですが同じ場所にいても苦しさは同じとは限りません。その人の自己認識に基づいた希望が決めるのです。だからもし、あなたが、良い俳優になりたいわけではない、というのであれば、私の雄たけびはただの雑音ですので聞き流してください。

 もし、私が出会った売れない高齢の役者さん達が楽しそうであったらなら、私はここに彼らの事は書きません。「どうして自分は売れないんだ」という思いで一杯だったのです。

 「私はそんな風にならない」と思っている方が大半でしょうか。でも、売れない人が大半なのです。

 でも頑張り方を知っていれば、それができるかできないかは自分で選べます。どうぞ最後まで読んだ上で自分が役者を本当にやりたいのか判断してみてください。

 次回から、役者を始める時にすっぽり抜け落ちている(少なくとも私はまだ一度も出会えていない)けれどとても大切な「表現とは」という根本的な事について伝えたいと思います。引き続き、ついてきてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?