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DXとマーケティングその44:顧客のデジタル化とデジタル顧客基盤

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの44回目です。

ここ数回は、最近発売された『コトラーのマーケティング5.0』におけるDXとその他のDX書籍での方法論とがどのように関わり合うのかを分析しています。

DXが全社的な取り組みであるとした場合、その実行のプロセスには、整合性や一貫性が求められます。各DXの方法論において、マーケティング5.0がどのように関係するのかを分析することで、それら方法論にマーケティング5.0の考えを組み込めるかどうかを評価でき、その評価に基づき、適切な方法論を作りだせる可能性があります。

分析の最終的なアウトプットは、各方法論をベースに、マーケティング5.0の要素を組み込んだ新たな方法論となります。

今後の連載の議論の流れとしては以下を考えています。
1.マーケティング5.0におけるDXを確認する(第40回の内容)
2.これまでの連載で扱っていたDX関連書籍である『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』『DXナビゲーター』との関係を分析していくにあたり、準備を行う(第41回の内容)。
3.各DX関連書籍での「DXの定義」と比較を行い、共通点や異なる点を明らかにする(第42回の内容)。
 3.1.比較を行うにあたり、枠組みを定義する(今回の内容)。
4.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0でのDX」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。
5.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。

これまでの記事

これまでの連載記事に関しては以下の記事から確認できます。

おさらい:マーケティング5.0におけるDX

これまでのおさらいです。

まず、『コトラーのマーケティング5.0』においてDXについて触れられているのかどうかを確認しました。結果としては「デジタル変革」という言葉がありました。具体的な定義はありませんでしたが、どのように位置付けられているのかを確認しました。

『コトラーのマーケティング5.0』では、デジタル変革の意味合いとしては、「自社のデジタル能力を構築すること」、あるいは、「自社をデジタル化すること」、といった使われ方であると解釈しました。そして、デジタル変革は、マーケティング5.0の必要条件であると位置づけられていることも確認しました。

最後に、「自社のデジタル能力を構築すること」とは具体的にどのようなことを意味するのかを整理しました。

以下、全体感を掴むために『マーケティング5.0』の目次をもとに概要を説明します。『マーケティング5.0』は、以下の図のような構成になっています。

・第1部:序論
・第2部:課題
・第3部:戦略
・第4部:戦術
という流れです。

第1部では、マーケティング5.0の背景や概要が述べられています。

第2部では、デジタル世界でマーケティング5.0を実行するときにマーケターが直面する課題が議論されています。課題は、世代間ギャップ、富の二極化、デジタル・デバイドの3つです。

第3部は、戦略に関わる内容であり、マーケターが技術の戦術的利用(戦術に関しては第4部に対応)を検討する前に適切な基盤を得るのに役立つとされることが議論されています。以下の三つの章で構成されます。
・デジタル化への準備度が高い組織:企業が高度なデジタルツールを利用するための自社の準備度を評価する助けになる。
・ネクスト・テクノロジー:ネクスト・テクノロジーに関する初歩的な内容を含んでおり、マーケターがネクスト・テクノロジーを理解する助けになる。
・新しい顧客体験:新しい顧客体験の創出で実績のある様々な事例について検討がされる。

「デジタル変革」という言葉は、1つ目の「デジタル化への準備度が高い組織」の第5章で使われています。この章では、デジタル変革という言葉は、「デジタル化」や「組織」と関係のある文脈で使われます。なお、デジタル化や組織といった概念は、他のDX書籍でも主要な対象として議論されますので、おかしなことでは無さそうです。

第4部は、戦術に対応する部分となります。マーケティング5.0の構成要素5つがそれぞれ議論されています。

これまでの記事では、マーケティング5.0と関係する要素を含めて、次の図のように整理を行いました。

マーケティング5.0の例としては次のようなものがあげられています。
・バックオフィス業務に関するもの
 ・機械学習により、新製品の成功確率を予測する。
 ・AIで購買パターンを明らかにして、特定の顧客集団に基づいて適切な製品やプロモーションをレコメンドする。
 ・広告のコピーをAIに書かせる。
・顧客対応に関するもの
 ・顧客サービス用のチャットボット。
 ・AI搭載型ロボットによるコーヒーの給仕(ネスレ)。
 ・小売店における顔検知スクリーンにより、買い物客のデモグラフィック属性を推定して適切なプロモーションを行う。
 ・ARにより買い物客が購入を決める前に製品を試せるようにする。

第5章:デジタル化への準備度が高い組織

次に「デジタル変革」に関わるのは第5章ですので、以下の図に第5章の概要を示します。

この章では、以下の図のように、以下の二つの軸を用いて、4象限の状態をもとに議論がされています。
・「顧客のデジタル化への準備度」が低いのか高いのか
・「企業(自社)のデジタル化への準備度」が低いのか高いのか

企業は、この2軸での自社の準備度の評価を行い、自社がどの象限にいるのかを把握します。象限にはそれぞれ、オリジン、オーガニック、オンワード、オムニの名前が付けられています。

企業は、最終的には右上の「オムニ象限」に到達したいというのがマーケティング5.0での前提とされます。

自社がどの象限にいるのかをもとに、取るべき戦略が決まるというのが、マーケティング5.0での考えです。マーケティング5.0では、上記の図に示すように3つの戦略が議論されています。
1.デジタル能力を構築する戦略
2.顧客をデジタル・チャネルに移行させる戦略
3.デジタル・リーダーシップを強化する戦略

デジタル変革に関係するのは、1つ目の「デジタル能力を構築する戦略」です。

デジタル能力を構築する戦略は「オリジン」象限または「オーガニック」象限にいる企業がとる戦略とされます。図では、「デジタル能力を構築する」は「オリジン(左下)」から「オンワード(左上)」からの矢印だけですが、「オーガニック(右下)」から「オムニ(右上)」への意味も含みます。

デジタル能力を構築する戦略での課題、つまり、「オリジン」象限や「オーガニック」象限に入る企業にとっての課題は、「デジタル化した顧客のニーズに対応する能力を築くことである」とされています。

最終的には右上のオムニ象限に到達する前提であるため、戦略を実行しながらオムニ象限に到達するルートは二つが考えられます。現実的には、同時進行もあるかもしれません。

4象限の図は、「顧客のデジタル化への準備度」と「企業(自社)のデジタル化への準備度」の二つの軸で構成されていると述べました。後者の「企業のデジタル化への準備度」が低いか高いかを評価する基準の大枠は以下です。
・デジタルな顧客体験を開発できているかどうか
・デジタル・インフラに投資できているかどうか
・デジタルな組織を確立できているかどうか

これまでの記事では、これらの基準を満たすように戦略が実行されたとすると次の図に示すような準備が整っているとして整理を行いました。

次の論点に進みます。

デジタル能力を構築する戦略での課題は、「デジタル化した顧客のニーズに対応する能力を築くことである」であると述べました。

ここでいう「デジタル化した顧客のニーズ」とは、「顧客のデジタル化への準備度」の評価に関係すると思われます。「顧客のデジタル化への準備度」は、「企業(自社)のデジタル化への準備度」と同じく大きく3つの項目で整理されています。
・デジタル顧客基盤
・デジタル・カスタマー・ジャーニー
・顧客のデジタル化傾向
詳しくは過去の記事を参照してください。

すでに述べたように、右上のオムニ象限に到達することが前提とされているため、先に「顧客のデジタル化への準備度」ができているなら、それに応えるというのが、「デジタル化した顧客のニーズに対応する能力を築くことである」と解釈しました。

前回の話:分析のための枠組み

過去の記事では、マーケティング5.0でのDXとDX実行戦略でのDXの位置付けや定義を見比べ、どんな違いがあるのかを特定しました。

これまで述べてきたように、マーケティング5.0でのDXは「デジタル能力を構築する」という戦略に対応すると捉えています。そして、この戦略がどのような課題解決を目的するのかをもとに、DX書籍の一つである『DX実行戦略』を具体例として取り上げ、DXの定義を見比べました。以下の図に、それぞれの要素を示しています。

上記の要素をもとに、具体的には、以下の4つの違いを特定しました(詳しくは過去の記事を参照)。

1.「対応する能力を築くこと」と「業績を改善すること」の違い
2.「デジタル化した顧客のニーズ」を対象としているかどうか
3.「組織を変化」を対象としているかどうか
4.「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いる」を対象としてるかどうか

これらの違いを一つずつ分析していくことが今後の議論の流れとなります。まず項目2を対象に分析していきます。

順番に分析していきますが、前回は、顧客だけでなく、顧客との関わりのある要素を議論する方が良さそうだと思えため、そのための枠組みをまず議論しました。

この枠組みでは、3Cのように、「顧客」、「自社」、「競合」の要素を基本要素とした枠組みです。その他の要素は、必要に応じて拡張していきます。

3Cモデル

さらに、この枠組をデジタルの視点で表した枠組みは以下となります。

3DCモデル

ここでは、上記2つの枠組みは、各要素が変化するとして、関係づけられます。

そして、DXの取り組みとは、この変化に関わるものであるとして、マーケティング5.0でのDXとDX実行戦略でのDXの定義を関係づけました。

今回の話:デジタル顧客基盤と顧客のデジタル化

今回は、以下に示す前回の枠組みを使って、顧客をどのように位置付けているかという視点で、『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』とでどのような違いがあるのかを確認していきます。

3DCモデル

この枠組みに、『マーケティング5.0』でのDXと『DX実行戦略』でのDXの定義を関係づけたものが以下になります。上記の枠組みそのままでは乱雑になるため、枠組みを少し簡略化した上で、関係づけています。

今回の焦点は、左上の「デジタル対応顧客」に関係する「デジタル化した顧客のニーズ」です。

前回の記事では「デジタル対応顧客」が具体的に何を意味すのかの定義は、行いませんでした。どのように定義することができるのかは『マーケティング5.0』でされている議論を参考に考えていきます。

次回以降の記事のひとまずの流れは以下を考えていきます。
手順1.「デジタル対応顧客」の定義を行う。
手順2.『マーケティング5.0』での「デジタル化した顧客のニーズ」の定義の確認を行う。
手順3.これらの定義ともとに『DX実行戦略』における顧客の捉え方を見ていく。

補足の1つ目として、「デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)」とその顧客にとってのニーズは異なると解釈しています。

補足の2つ目として、『DX実行戦略』でのDXの定義には、顧客に関係する要素は、含まれていませんが、念の為に本文を踏まえて、確認を行います。顧客をどのように捉えるのかで、DXの捉え方が変わると思うためです。最終的に『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』の統合を検討する際には、両者の顧客の捉え方の違いが、整合性や一貫性に影響する可能性があるためです。

手順1の議論の出発点としては、2つあると考えられます。
1.「デジタル化した顧客」とは、「顧客のデジタル化への準備度」での顧客の性質のことを意味すると解釈し、性質の要素を特定する。
2.マーケティング5.0での課題の背景とされている「世代間ギャップ」、「富の二極化」、「デジタル・ディバイド」の三つの課題の議論の中から、デジタルと顧客が関係する要素を特定する。

どちらがいいのかは分かりません。ひとまず、1つ目をもとに議論したいと思います。

これまで見てきたように、『マーケティング5.0』では以下の図をもとに、企業がとる3つの戦略を議論しています(詳しくはおさらいの節を参照してください)。どの戦略をとるのかは、企業(自社)と、顧客のそれぞれのデジタル化への準備度を評価することで決まります。

「顧客のデジタル化への準備度」の評価項目の基準の大枠は以下となっています。
・デジタル顧客基盤
・デジタル・カスタマー・ジャーニー
・顧客のデジタル化傾向

詳細を以下に引用します。

・デジタル顧客基盤
 1.顧客基盤の大多数がデジタルに精通しているY世代とZ世代である
 2.ほとんどの顧客がすでにデジタル・プラットフォームを通じて会社と関わり、取り引きしている
 3.製品・サービスを消費または使用するとき、顧客はデジタル・インタフェースで接する必要がある
・デジタル・カスタマー・ジャーニー
 1.カスタマー・ジャーニーは、すでに全部または一部がオンラインで行われている(ウェブルーミングやショールーミング)
 2.顧客がイライラする物理的タッチポイントは、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ、強化できる
 3.顧客が独力で十分な情報に基づいた決定を下せるよう、大量の情報がインターネットで入手できる
・顧客のデジタル化傾向
 1.顧客は会社との物理的インタラクションを不必要、無意味、無価値とみなしている
 2.製品・サービスがあまり複雑ではないとみなされており、したがってリスクや信頼の問題が少ない
 3.ほとんどの顧客にとって、選択肢の増加、価値の低下、品質の低下、利便性の工場など、デジタル化を促す誘因のほうが多い

コトラーら、『コトラーのマーケティング5.0』, p.142

今回はデジタル顧客基盤での3つの項目が、それぞれどのような要素で構成されているのかを確認していきます。

【デジタル顧客基盤】顧客基盤の大多数がデジタルに精通しているY世代とZ世代である

Y世代とは、1981~96年生まれを、Z世代は、1997年~2009年生まれをさします。Y世代は、若いときからインターネットを知っていたとされます。Z世代はデジタルネイティブと呼ばれ、インターネットが主流になっていたときに生まれました。インターネットがない生活をしたことがないという特徴をもち、日常生活にデジタルは欠かせない要素としているとされます。

自社の顧客基盤が、デジタルに精通している世代で構成されるならば、その世代のニーズや価値観に合わせる必要が出てきます。

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客がデジタルに精通しているかどうか」であると捉えました。精通の意味も細かくあると思いますが、必要に応じて深堀りしたいと思います。

少し曖昧ですが、次の図で表現しました。「製品・サービス」と「顧客」は3Cの枠組みと同じ意味を表します。「顧客の世代構成情報」は、「顧客」に関するデータを分析することで、得られる情報だとしました。

【デジタル顧客基盤】ほとんどの顧客がすでにデジタル・プラットフォームを通じて会社と関わり、取り引きしている

ここでは、デジタル・プラットフォームの具体的な定義は見つかりませんでした。ただし、次のような使われ方はしています。

デジタルへの移行を促す正のインセンティブや負のインセンティブを提供するのも一案だろう。正のインセンティブは、デジタル・プラットフォーム上でのキャッシュバック、割引、消費者プロモーションなど、即時の満足という形をとるかもしれない。負のインセンティブは、インタラクション中にオフライン・メソッドを選んだら追加料金を課すという形をとるかもしれないし、極端な場合はオフライン・モードを利用できないようにすることもできる。

コトラーら、『コトラーのマーケティング5.0』, pp.143-144

読み取れるのは、デジタル・プラットフォームとは、恐らく、製品やサービスの購入などができる、自社のサイトを指すということです。

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客がデジタルプラットフォームで取引しているかどうか」であると捉えました。

図に「デジタルプラットフォーム」を追加しました。

【デジタル顧客基盤】製品・サービスを消費または使用するとき、顧客はデジタル・インタフェースで接する必要がある

これは、具体例がないためどういう意味か分かりませんでした。もしかすると、かなり限定的な意味なのかもしれません。たとえば、塾サービスであれば、従来はオフラインで行っていたものを、オンラインで実施できるようなサイトやアプリが、ここでデジタル・インタフェースに対応するなどです。

ここでは、「顧客がデジタル化されているかどうか」は、「顧客が製品・サービスを消費または使用するときデジタル・インタフェースで接しているかどうか」であると捉えました。

図に「デジタルインタフェース」を追加しました。

まとめ

まとめると、顧客がデジタル化されているかどうか(デジタル対応顧客かどうか)には、以下がありそうです。
・顧客がデジタルに精通しているかどうか
・顧客がデジタルプラットフォームで取引しているかどうか
・顧客が製品・サービスを消費または使用するときデジタル・インタフェースで接しているかどうか

ただし、概念として曖昧な点は残ります。たとえば、「デジタルプラットフォーム」が存在するなら「デジタル・インタフェース」が存在することになるのか、などです。

次回は、「顧客のデジタル化への準備度」の2つ目である、デジタル・カスタマー・ジャーニーに関して、同様の分析を行います。

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まとめ

今回は、前回定義した枠組みの詳細化を行いました。枠組みの要素である、「デジタル対応顧客」の定義を、マーケティング5.0での議論をもとに、少し行いいました。

次回は、「顧客のデジタル化への準備度」の2つ目である、デジタル・カスタマー・ジャーニーに関して、同様の分析を行います。

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