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DXとマーケティングその18:顧客は誰かとDXの背景

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第18回目です。

これまでの4回で、DXと経営とがどのような関係にあるのかを見てきました。DXを企業全体としての取り組みと捉えるならば、経営との関係性があると考えられるためです。

ドラッカーによれば企業の目的は「顧客の創造」です。そして、企業は顧客の創造のために、マーケティングとイノベーションの2つの機能を果たすとされます。では、DXの取り組みは、これらの2つの機能とどのように関係するのでしょうか。

この疑問に答えていくこれまでの4回でした。今回も続きます。

DXの考え方に関してはこれまで通り『DX実行戦略』の書籍での考え方と方法論をもとにしています。

経営の枠組みとしてはドラッカーの考えを参考にし、以下のことに着目しています。
・企業の目的は何かということ
・事業の定義を行わなければならないということ。具体的には、事業は何か、何になるか、何であるべきかを定義すること。
・事業の定義から8つの目標を定義すること

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そして、これまでの記事で、これら「経営での考え」と「DXでの考え」とを関係付ける候補となる要素を特定しました。

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今回は、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」と「DXが必要とされる背景の要素」との関係をみていきます。

この関係性を明確にすることは重要です。なぜなら、「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」には、「DXが必要とされる背景の要素」が含まれているかもしれないためです。このことは、事業の定義にあたり、DXが影響する範囲を規定することを意味します。多くの範囲に影響するなら、DXがいかに重要な取り組みなのかが明らかになります。大まかには、マーケティングとイノベーションの機能として、DXの取り組みは、どこに関わるのかということが明らかになります。

また、もう少し大枠の話をすると関係には、以下の図のような4つのパターンが考えられます。

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4つのパターンは以下となります。
・パターン1:互いに関係しない。
・パターン2:「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」に「DXが必要とされる背景の要素」が含まれる。
・パターン3:「DXが必要とされる背景の要素」に「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が含まれる。
・パターン4:「DXが必要とされる背景の要素」と「事業の定義を行うにあたって考慮するべき事柄」が部分的に重なる。

パターン1以外の場合の場合は、事業の3つの定義のどの考慮する事柄とDXの背景要素が関係するのかというサブパターンが考えられます。

これら4つパターンのどれかになるとして、そのパターンになることの意味の考察が必要となります。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。

今回の内容

前回は、DXの取り組みが必要となる背景の要素を特定し、最終的には以下の図のような関係として整理しました。

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経営側として、事業の定義にあたり考慮する事柄としては、次のようにまとめました。

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今回は、左の「われわれの事業は何か」において考慮する事柄と、DXの取り組みが必要となる背景の要素との関係を見ていきます。

具体的には、「顧客は誰か(図では顧客と表記)」と「DXの取り組みが必要となる背景の要素」である以下との関係をみていきます。
・市場
・デジタルディスラプターが市場の変化を生み出す
・企業とデジタルディスラプターが競争する
・デジタルボルテックス
・企業
・バリュープロポジション
・市場の地位
・物理的なビジネスモデル
・デジタル技術
・デジタルビジネスモデル
・デジタル技術がデジタルビジネスモデルを可能にする
・市場シェア
・デジタルディスラプターが市場シェアを獲得する
・デジタルディスラプター
・イノベーション
・デジタルディスラプターがイノベーション起こす
・製品やサービス
・ビジネスモデル
・バリューチェーン
・デジタルディスラプターが製品やサービスをデジタル化する
・デジタルディスラプターがビジネスモデルをデジタル化する
・デジタルディスラプターがバリューチェーンを破壊する
・デジタル化された製品やサービス
・デジタル化されたビジネスモデル
・デジタル化されたバリューチェーン
・顧客
・顧客はカスタマーバリューを受け取る
・カスタマーバリュー
・デジタルディスラプターがカスタマーバリューを生み出す
・デジタル化されたビジネスモデルがカスタマーバリューをもたらす
・コストバリュー
・エクスペリエンスバリュー
・プラットホームバリュー

顧客は誰か

まずは、ドラッカーがどのように述べているのかを再確認します。

企業のミッションを定義するとき、焦点とすべきものは一つしかない。顧客である。顧客が事業を定義する。
事業は、社名、定款、趣意書によっては定義はされない。顧客が財やサービスの購入によって満足させる欲求によって定義される。顧客を満足させることが企業のミッションである。したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部、すなわち顧客と市場の観点から見てはじめて答えられる。
顧客にとっての関心は、自らにとっての価値、欲求、現実である。この事実だけからも、「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客とその現実、状況、行動、価値観を原点としなければならない。
「顧客は誰か」との問いは、事業のミッションを定義する上で最も重要なものである。やさしい問いではない。まして、答えのわかりきった問いではない。だが、この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかが決まってくる。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.175-176

さらに顧客について。

最終需要者たる消費者は、常に顧客である。しかしほとんどの事業には二種類の顧客がいる。しかも顧客によって、事業の捉え方が異なる。期待や価値観が異なり、買うものも異なる。しかし、「われわれの事業は何か」に対する答えによって、彼ら顧客のすべてを満足させなければならない。
ほとんどの事業には、少なくとも二種類の顧客がいる。カーペット産業には住宅購入者と住宅建築業者という顧客がいた。カーペットが売れるには、この両者に購入してもらわなければならない。
生活用品のメーカーには、主婦と小売店という二種類の顧客がいる。たとえ主婦に買う気を起こさせても、店が置いてくれなければどうにもならない。店が目につくように陳列しても、主婦が買ってくれなければ、これまたどうにもならない。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.176-177

上記を素直に読むと、「住宅購入者」と「住宅建築業者」、「主婦」と「小売店」といったものが顧客は誰かとの答えに思えます。が、「顧客は誰か」との問いはやさしくは無いと述べているので、そういうことではないのかもしれません。もっと具体的にどんな「主婦」が顧客なのか、ということなのかもしれません。

答えは分かりませんが、いったん、「主婦」や「もっと具体的な主婦」といったものであると仮定して次に進みます。具体的に、DXでの背景要素を順に関係性を見ていきます。今回の関係性の分析はかなり曖昧です。分析の枠組みは作れたとして、詳細な理解が求められるかもしれません。

・市場

「顧客は誰か」と「市場」はどう関係するでしょうか。市場の定義を確認しておくと『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』では以下の定義でした。

交換、リレーションシップという概念の先には市場という概念がある。市場とは、製品やサービスの実際の購買者と潜在的な購買者の集まりである。
─『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』, コトラーら, p.9

この本では、顧客と購買者は厳密に区別されていないように読めました。とすると「市場とは、製品やサービスの実際の顧客と潜在的な顧客の集まりである」ということで良いのかもしれません。

DXにおいては、市場は変化するもの、あるいは、変化させられるものであるという前提がありそうです。もし、変化しないのであればDXは必要がないといえるのかもしれません。

市場の変化をどのように定義するのかは分かりません。顧客の集まりが変わるとはどういう意味なのか。
・実際の顧客や潜在的な顧客の数が増減するという意味での変化
・顧客の属性や価値観が変わるという意味の変化
・実際の顧客と潜在的な顧客の割合が変わることの変化
・その市場での製品やサービスが変わることで、上記が変わるという変化
・その市場での企業の数が変わることで、上記が変わるという変化

DXにおいては、市場における「製品やサービス」「ビジネスモデル」「バリューチェーン」がデジタル化されるという意味での変化がありそうです。

一方で、「顧客は誰か」との問いは、変化しない市場、あるいは、今ある市場における顧客に関する問いに思えます。

このような意味では、「顧客は誰か」との問いに答える上では、DXでの「市場」の話は関係がなさそうです。

・デジタルディスラプターが市場の変化を生み出す
・企業とデジタルディスラプターが競争する
・デジタルボルテックス

これら3つは、「市場」での議論と同じく、「顧客は誰か」に答える上では、関係なさそうです。市場の変化と、その変化に伴う競争の発生、それら変化と競争はデジタル化が避けられないこと(デジタルボルテックス)に原因がある、という話です。

・企業
・バリュープロポジション
・市場の地位
・物理的なビジネスモデル

これら4つは、「顧客は誰か」に答える上では、関係なさそうです。デジタルボルテックスに巻き込まれる従来企業の話です。

・デジタル技術
・デジタルビジネスモデル
・デジタル技術がデジタルビジネスモデルを可能にする

これら3つは、「顧客は誰か」に答える上では、関係なさそうです。ただ、「デジタル技術」に関しては、定義次第では、もしかすると関係するのかもしれません。たとえば、スマホをデジタル技術だとすると「スマホを使っている主婦」というように少し限定した顧客になるとして考える視点もありそうです。

しかし、DXにおける「デジタル技術」の役割は、デジタルビジネスモデルを実現するためのものです。「デジタル技術」の存在が、顧客をより限定・具体化することがあり、「顧客は誰か」に答える上で思い浮かぶものだとしても、その役割はDXでの役割と異なるともみなせそうです。

したがって、「デジタル技術」も「顧客は誰か」に答える上では、関係ないとしたいと思います。

・市場シェア
・デジタルディスラプターが市場シェアを獲得する
・デジタルディスラプター
・イノベーション
・デジタルディスラプターがイノベーション起こす

これら5つは、「顧客は誰か」に答える上では関係なさそうです。「市場シェア」の話は、最初の市場と同じく関係なさそうです。

ディスラプターやイノベーションも、「顧客は誰か」には関係なさそうに思えます。

・製品やサービス
・ビジネスモデル
・バリューチェーン
・デジタルディスラプターが製品やサービスをデジタル化する
・デジタルディスラプターがビジネスモデルをデジタル化する
・デジタルディスラプターがバリューチェーンを破壊する
・デジタル化された製品やサービス
・デジタル化されたビジネスモデル
・デジタル化されたバリューチェーン

これら9つは、「顧客は誰か」に答える上では、関係なさそうに思えます。DXにおいては、デジタル化される対象とデジタル化されるプロセスを表しており、変化が焦点となっているためです。

・顧客
・顧客はカスタマーバリューを受け取る
・カスタマーバリュー
・デジタルディスラプターがカスタマーバリューを生み出す
・デジタル化されたビジネスモデルがカスタマーバリューをもたらす
・コストバリュー
・エクスペリエンスバリュー
・プラットホームバリュー

これら8つは、「顧客は誰か」に答える上では関係なさそうです。顧客という意味では関係しますが、DXでの顧客は、カスタマーバリューを受け取る対象という役割です。また、カスタマーバリュー自体は「顧客は誰か」には関係しないように思えます。

まとめ:顧客は誰か

「顧客は誰か」との問いと「DXの取り組みが必要となる背景の要素」とは、関係が無いように思えました。

特に、個々の要素だけを見た場合、関係がないことはないけれども、その要素の役割を見た場合には、関係がなさそうだと言えそうでした。たとえば「デジタル技術」です。

今回の結論としては、関係が見られなかった理由は分かりません。「顧客は誰か」との問いに答えようとするとき、我々はどのような考え方により、回答を得るのでしょうか。この過程にヒントがあるでしょうか。

ドラッカーの例では、生活用品のメーカーには、主婦と小売店という二種類の顧客がいる、ということでした。

主婦というのは、顧客または消費者を役割の軸でセグメント化し、多数ある役割の中で、主婦を選んだとも言えます。生活用品のメーカーの場合、どうして最終的に主婦を選べるのかは分かりません。あるいは、このようなプロセスではなく、観察ベースのプロセスであり、単に、購入している者を観察していると主婦のようだ、ということなのかもしれません。

小売店というのは、流通(? 詳しくないので分かりません)上の制約や仕組みから、発生するものなのかもしれません。つまり、比較的客観的に特定できるものなのかもしれません。

まとめ

今回は、「顧客は誰か」との問いと「DXの取り組みが必要となる背景の要素」との関係を分析しました。結果としては、関係はなさそうだということになりそうです。

次回は、「顧客はどこにいるか」に関して同様の分析を行います。続きはこちら

「顧客がどこにいるのか」を問うことも重要である。1920年代にシアーズが成功した秘密の一つは、顧客がそれまでとは異なる場所にいることを発見したことだった。農民が自動車を持ち、町で買い物をするようになっていた。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.177

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。

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