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フリー朗読台本│私たちは空を飛ぶ

【概要】女声・1人用・朗読
【目安】約2200字・7分程度

本文

時計の針は10時をまわり、それでも私たちのお喋りは止まらない。
夏休みといえば!と勢いで始まったお泊まり会。
女子2人が集まれば、あれもこれもと話題は尽きず、話の内容はコロコロ変わる。
それでも、その言葉は笑っちゃうほど唐突だった。
「ね、空が飛べたらどこに行く?」
彼女の言い方は、まるで夜風に乗った羽根のように軽やかで、でも一瞬だけ空気が止まったかのように静かになった。私たちは並んでベッドに横たわり、天井を見上げて、わざわざ顔を見合わせることはなかった。
でも彼女が考えるよう促している雰囲気は感じて私は少し考えてみた。
「空、かぁ…」
答えはすぐには浮かばなかった。だって、そんなこと考えたこともなかったんだもの。現実離れしすぎていて、いつも話していた学校のことや、好きなアイドルの話とはまるで違う次元の質問だった。
でも、不思議とその言葉が私の心を掴んで、胸の奥でゆっくりと何かが膨らんでいくような感覚がした。
「うーん、そうだなぁ…」
私は天井の模様をぼんやりと眺めながら、言葉を探した。
その間も、隣で友達が待っている気配がする。急かすわけでもなく、ただ私が答えるのを、静かに待っている。
「そうだね…南の島に行ってみたいかな。青い海と白い砂浜の上を飛び回ったら、気持ちよさそうだし、綺麗だろうなぁ。」
そう言って、私は自分の答えに微笑んだ。南の島…確かに美しい場所だし、誰でも一度は行ってみたい場所だ。
でも、どこか無難すぎる気もしていた。答えながら、もっと特別な場所を思い描けばよかったかも…と少し後悔した。
すると、隣で友達が「へぇ、いいねぇ」と、少し笑い声を交えて返してきた。どこかその声には、私の思いを全部見透かしているような、そんなニュアンスが含まれているように感じた。だから、私は急いで問い返した。
「じゃあ、あなたはどこに行きたいの?」
少し意地になったように聞いてみる。
なんとなく、友達ならきっと、もっと面白い答えを持っているような気がしたから。
「んー、私?そうだね…」
友達は少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「宇宙かな。遠い星まで行ってみたい。」
そう答えた彼女の声は、いつもと変わらない穏やかさだったけれど、その言葉には確かな夢があった。
宇宙…そんなの、すごすぎるじゃない。
私が考えもしなかったような、ずっと先を見据えたような答えだった。
「宇宙って…ほんとに?」
私は驚いて、思わず起き上がって彼女の顔を覗き込んだ。
けれど、彼女は変わらず天井を見上げていた。その横顔は、ほんの少し真剣な表情をしていて、でもどこか遠いところを見ているような、そんな感じだった。
「うん、だってさ、空を飛べるんだったら、ただの空じゃ足りない気がするんだ。もっとずっと遠くに、私たちが知らない場所まで行ってみたいなって思うの。星って、すごく綺麗でしょ?あんな遠くにあるのに、毎晩私たちの目に映るんだよ。それって、なんか不思議じゃない?」
彼女の言葉は、静かに響く夜の空気に溶け込んでいく。
私は再び天井に視線を戻して、彼女の言葉を反芻する。
確かに、そうだ。星はいつも遠くにあって、だけど、
私たちが手を伸ばすことはできない場所に輝いている。
それでも、その光は毎晩、私たちのところまで届いている。
「宇宙かぁ…すごいな。確かに、私たちが知らないことって、まだたくさんあるんだよね。」
「そう。だから、もし空を飛べるなら、そんな場所にも行ってみたいなって思うんだ。」
彼女の夢は、私の想像をはるかに超えていた。
私はただ、地上の綺麗な場所を思い浮かべていたけれど、彼女はもっと遠く、未知の場所へと思いを馳せていたんだ。
そんな彼女が少し羨ましいと思った。
「でもさ、もし本当に飛べたら、怖くないかな?」
私はふと、現実的な不安を口にしてみた。
だって、宇宙なんて、未知の場所だし、何があるか分からない。飛べるという能力があったとしても、それがどこまで通用するのかなんてわからないし、何より、遠くに行くということは、今いる場所から離れることでもある。
それが怖いという気持ちは、どこか心の奥底にあった。
彼女はその言葉に一瞬黙り込んだけれど、やがて静かに答えた。
「うん、確かに怖いかもしれない。でも、怖いからこそ、行ってみたいんだと思う。だって、怖いことって、きっとそれだけ大切なことなんじゃないかな。」
その言葉に、私ははっとさせられた。
怖いことが大切なことだなんて、そんな風に考えたことはなかった。
いつも、怖いことは避けたいと思っていたからだ。でも、彼女は違った。
恐怖を受け入れ、その先にあるものを見ようとしている。
「そっか…大切なことか。」
私はその言葉を口に出して、噛みしめるように繰り返した。
彼女の考え方は、私とは全然違うけれど、その違いが新鮮で、少し羨ましくもあった。
もし私がもっと勇気を持てたなら、もっと遠くに行けるのかもしれない。
もっと、大切なものに出会えるのかもしれない。

その夜、私たちはそれぞれの夢について、そして怖いことについて、たくさん語り合った。お泊まり会で話すには、少し大人びた話題だったかもしれないけれど、それでもその時間は、私たちにとって特別なものだった。

朝が来る頃、私たちは眠りに落ちた。
そしてその日を境に、私たちの友情は、より深く、そして強いものになった気がした。
まるで、どこか遠くの空に向かって飛んでいくような、そんな感覚を覚えながら。

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