今さらだけど、『2.5次元の誘惑』を読みました


感想。

めっちゃ面白いなコレ。
―以下、感想。

僕は「愛がある」って誉め言葉は好きだけど「愛が無い」って批判は嫌いで、だって「愛」って数値化できないしベクトルも人それぞれだし…そもそも主観じゃないですか?

他人の愛を測れる物差しを持っている人間なんてどこにもいないので、僕はこの「愛が無い」って感想は批判はもとより批評のレベルにすら達していない、叫びみたいなものだと思ってるんですね。

特にコスプレに関するこの叫びを深く理解して、かつエンタメ化できているいい作品だなと思いました。
主人公達が次々と対峙していくのはよく一般のレイヤーが「愛が無い」みたいなこと言って批判の矛先を向けている有名レイヤー、或いは自分の事を「愛が無い」と思い込んで暗黒面に堕ちたとされるレイヤー達で、10年間コスプレやってた自分からしてもここの解像度がバリ高いです。
この悪役たちが魅力的過ぎる。

そんな僕のコスプレ人生は夜姫さんのアンチやってた顔文字絵描き歌みたいな顔のコスプレイヤーみたいな【持たざる者】みたいな感じで過ごしてきた10年間だったんですけど、
この「愛が無い」って批判の成分、そういう思想に引きずり込んでくるヤツらの正体も別に綺麗なわけでもなくて、多分に【持たざる者】側のレイヤー達の嫉妬や妬みも含んでるんですよね。それは単純に一般化や理論化できない、もっと個人的でドロドロの汚い感情とかが入り混じっているんですが、そこも非常に上手く汲み取れていて素晴らしいなと思った。

あと「コスプレバトルマンガ」とか「少年ジャンプしてる」みたいな前評判は聞いてて、だから「わたしの戦闘力(フォロワー数)は53万です。」みたいな事言い出すと思ってたんですけど、個人的にはそれよりも今流行りの芸大受験系の漫画やアート漫画の系譜を感じました。

青春がメインテーマで、そこにお色気を加えた感じにはなっているんですけど…バトルに関しては、確かに囲みバトル…みたいな展開にはなるんですけど、実はこの勝敗ストーリー上にはあんまり絡んでこないしコスプレ天下一武道会みたいなのもなくて…そこはまぁ実際に読んで欲しいんですけど、
外側(敵)よりも内側(仲間)との人間関係を描いていて、どちらかというと彼らがバトルに挑む決意の話、「なぜコスプレをするのか?」ひいてはアートや二次創作、芸術活動とは何たるかの言及が凄まじく丁寧で、ここが読み応えのある重厚なベース音になっています。

確かにキラキラの青春マンガなんですけど…大人向けのクリエイティブ系お仕事マンガでもあるんですよね。個人的には広告のビジネス的な側面とアート的な側面を扱ってた「左ききのエレン」とかのが近い気がして、こっち好きな人に刺さる気がします。

クリエイティブな側面と消費型趣味である側面、その2つをもつコスプレならではの葛藤をきちんと理解して描いてて、その根源であるアートに対してしっかり深く掘り下げている。美大の話とかチャート式(大学を数学受験する人の参考書)の話とかもしてるし、恐らく作者さんはアーティストである事に加えて大学かどっかで学問として芸術を学んでいたんじゃないかなと思います。

というか、絶対全部拾いきれてないんですけど、往年のジャンプ名作やゲームのパロディが多くて…それだけでも楽しい。どれだけオタクなんだって感じだし、もちろんストーリー用にウソをついている部分もあるんだけど、コスプレ文化に対する勉強も凄まじくて、多分知識量はコスプレ題材漫画の中で一番だと思う…。何でウィッグにアラビックヤマト塗って顔につけるみたいなコスプレイヤー界の示準化石みたいな文化知ってるの…。

ただし、その分すごく狭い人(コスプレしてた人)にしか伝わらない事を言うと、1話で女の子がカート引いてるシーン…そこで「あっ、これもうコスプレネタだ。」ってなるので共感性羞恥が半端なくヤバいです。ジャンプラで読んだ時は正直ここでブラウザ閉じました。もう読めないと思いました。
僕はここでブラウザ閉じて数年間封印してました(笑)、…んでいまがその数年後です。

加えて最初はお色気で引こうとしてたのか、短期連載のつもりだったのか…正直1~2巻はシンプルなお色気漫画なので…面白くない訳じゃないんだけどここで離れた人も多いんじゃないかなと思うんだけど、3巻からむっちゃ面白いので読み進めてみて下さい。

…という訳でオススメ漫画です。

追記:2024年9月10日

これ恐らく2期のテーマとなるので多くは語らないのだけど、
二次創作をしている人間なら誰しもが陥る課題のひとつとして。「創作と二次創作の境目。その中で作家としての自分を出すのはどこまで許されるか」という課題があると思います。
そこ(原作)に近づけば評価は高まるのに、自分をゼロにしちゃうとそれはもう元の原作に収束する訳だし、他者と関わる趣味である以上は他人からの評価から自由でいられないんですよね。
(一切他人と関わらずに家で引きこもって遊ぶこともできるけど、それはまた別ジャンルな気がします)

コスプレの場合はこれに近い課題として「2次元と3次元の境目」っていうのがあります。
コスプレしてない人にめっちゃ分かりやすい例を言うと、遊戯王やドラゴンボールのコスプレをするときの髪型再現、名探偵コナンの蘭姉ちゃんの「ツノ」とかですね。ゼラチンとかノリとか使って完全再現する人もいれば、もし3次元にいたらこういう髪型だろうな~というところまで落とし込む人までいます。
こういう主張ってメイクや写真や髪の色、ひいては所作などにも表れていて、これどっちが正しいというのではなくどっちが好きかって話なんですですよね。

二次創作をやる事の意味や意義についてキャラクター達がアンサーを出すのが恐らく2期でやる合宿会なんだけど。ここにきて読者はある名セリフと共に「(タイトルの)2.5次元ってそういう事かー!!」に至るんですけど、いやまぁ、ここの名セリフとタイトルの伏線回収がまぁほんと天才的なんですよ。

コスプレ界では一時期「完コス」とか「コスプレ愛」なんて言葉が流行ってたんですが…納得できる反面で少しだけ感じてたモヤモヤも上手く言語化されていて、尚且つ青春ストーリーに落とし込んでるのが見事なので、良かったら観て下さい。

アニメの最終回終わったら多分また追記します。


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