【欅坂46】表現者・平手友梨奈

※乃木坂46に関する他の記事は以下:
<索引>【乃木坂46】
https://note.com/bunko_x/n/n63472c4adb09

僕は、グループとしては乃木坂46の方が圧倒的に好きだ。齋藤飛鳥を始め、考え方や価値観に共感できたり、その特異さに惹かれたりするメンバーがとても多いからだ。ただ、楽曲だけに限ってみると、欅坂46の方が好きだ。大人への反抗だったり、自分の中の抑えがたい衝動だったりを、パフォーマンスまで含めて見事に歌い上げる欅坂46は素敵だと思う。特に僕は「エキセントリック」が好きで、自分のテーマ曲だとさえ思っている。乃木坂46の楽曲にも共感できるものはたくさんあるけど、「エキセントリック」ほど心を掴まれた曲はない。

その欅坂46の背骨として、結成当時から不動のセンターとして牽引しているのが平手友梨奈だ。

平手は凄い、という話は、様々なインタビューを読んでいて知っていた。欅坂46のメンバーのみならず、乃木坂46のメンバーからもそういう話が出る。また雑誌には、アイドルという枠を越えて、様々なアーティストたちが欅坂46を支持する記事があり、そういう記事の中でも、平手友梨奈の凄さに驚く反応が載っていたりする。

しかし僕自身は、自分の感覚として、平手友梨奈のどこが凄いのか、きちんとは理解できていなかった。

もちろん、外側の情報だけからでも、平手友梨奈は十分に凄いと感じる。デビューは弱冠15歳。最年少メンバーにしてセンターに抜擢された。憑依型とも呼ばれる圧倒的なパフォーマンスで度肝を抜き、不動のセンターとして欅坂46を支えている―。しかし、そういう情報では捉えきれない何かが、彼女にはあるはずだと思っていた。

僕は、乃木坂46のライヴに行ったことがない。欅坂46にしても同様だ。欅坂46のMVを見る機会はある。しかし僕自身は、欅坂46全体、あるいは平手友梨奈単体のパフォーマンスを見ても、自分の言葉で凄さの本質を捉えられないでいた。MVを見て、「凄い」とは思う。思うのだけど、その凄さが何から来ているのか、ずっと分からないでいた。

また、欅坂46をきちんと追いかけていたわけでもないので、乃木坂46のインタビューが載っている雑誌に平手友梨奈のインタビューが載っていれば読む、という感じでしか彼女の考え方を知る機会はなかった。平手友梨奈の凄さについて、気にはなっていたのだけど、自分の中であまり掘り下げることはしなかった。

そんな状態で、「ロッキンオンジャパン 2017年12月号」の付録を読んだ。平手友梨奈を特集するブックレットのような中身で、そこに長大なインタビューが掲載されていた。ビビった。そうか、平手友梨奈はこんなレベルで物事を考え、行動をしていたのかと驚愕した。そして、彼女の凄さの一端を理解できたような気がした。

平手友梨奈は「表現者」だ。

【―いただいた曲を覚えて、振り付けを覚えて歌う―今やっていることは言ってみればそういうことなんだろうけども、曲の魅力や曲で伝えようとしたことや、あるいは曲に懸けた自分たちのエネルギーを全力で伝える手段ありきで考えないと、平手さんはパフォーマンスできないんですね。
そうですね。曲順にストーリー性がなかったり、ちょっとしたことでも『だったらやめよう』『出たくない』っていう人間なんで、スタッフさんにはすごい迷惑かけてるなと思うんですけど。でも立つなら思いっきりやりたいからっていう感じです。
―大げさな言い方になるけど、背負っているなあと。「欅坂とはこういうものなんです」という一番重要な本質の部分を。自分はそこから目をそむけずに行きたいという。単に「自分のわがままや理想を叶えたいんです」という自分本位ではない話をしてくれていると思うんだけども。
『これを伝えたいんだ』っていうのはあります、『このライヴを通して』とか。そういうものがないとできないです、逆に。私はストーリーがないとできない。私の切り替えもあるんですけど、逆にそのストーリーがあるから、そっちの波に乗れば行けることもあるから、そこは(振り付けの)TAKAHIRO先生とも相談しつつ今後もやっていかなきゃと】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

乃木坂46にも、「表現者」だと感じるメンバーはいる。生田絵梨花や若月佑美、卒業を発表した伊藤万理華などが代表的だろう。しかし乃木坂46の場合、「表現者」としての表現の場は、乃木坂46としての活動以外の場所であることが多いように感じる。生田絵梨花はピアノやミュージカル、若月佑美は絵画やデザイン、伊藤万理華は映像作品やファッション、あるいは女性誌のモデルなども乃木坂46以外の表現の場と言えるだろうか。

繰り返すが、僕は乃木坂46のライヴにも行ったことがないので、どんな感じなのか分からない。しかし、メンバーのインタビューを読んでいる限りは、先程引用した平手友梨奈の発言ほどに、ライヴの演出などに自分の考え方を投影させようとするメンバーはいないように思う。生駒里奈は、いかにライヴで自分を表現するか、そして乃木坂46全体を輝かせるかを考えていると感じるが、しかし「私はストーリーがないとできない」というほどの決然とした意思までは持っていないように思う。

乃木坂46は、アンダーライブも有名で、パフォーマンスとしてはアンダーライブの方が圧倒的にレベルが高いという話も聞く。しかしこちらにしても、「こうしたい」「この方がいい」と主張するメンバーはもちろんたくさんいるだろうけど、「こうじゃなきゃ出来ない」とまで言いそうなのは寺田蘭世ぐらいだろうか。うん、寺田蘭世からは確かに、平手友梨奈に近いものを感じる。寺田蘭世も、平手友梨奈と近い境遇に立たされれば、近い雰囲気を醸し出したかもしれない。

しかし、平手友梨奈の「表現者」としての資質は、努力や実力や才能ではない部分にも及ぶ。

彼女は前述した通り、「憑依型」とも呼ばれる。楽曲やパフォーマンスの世界に憑依して圧倒的な表現を見せるのだ。しかしインタビューの中で彼女は、こんな発言をしている。

【―(4月にリリースされた)“不協和音”は平手さんにとってとても大きい曲だと思っていて。
ほんとに大変だった(笑)
―大きいという以上に、「大変だった」という感じなんだ?
全然わからないし、あまり憶えてないんですよね。周りのみんなからの視線をすごく感じる時もあったし、いつも何かを言われているような気もしたし、誰ともしゃべりたくなかったし。そんな時期に“不協和音”っていう曲が来たので『え?』とは思わなかったですよね。普通に『うんうんうん』『これ、私の気持ちじゃん』みたいな感じになって歌いました
―時には曲の世界に自分を近づけていく作業が必要だと思うんだけど、“不協和音”に関しては「今の私のままだ」という感じだったんですか?

“サイマジョ(サイレントマジョリティ)”から、自分が思ってることがそのまま曲になってたので、あまり自分から成りきろうみたいな感じではなかったです。】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

彼女の感覚では、その時々で目の前にやってくる歌うべき曲は、その時々の自分の感覚にピッタリはまってしまうのだ、という。もちろんこれは、色んな説明をつけることが出来るだろう。作詞の秋元康が彼女の状態を見極めて当て書きのように歌詞を書いているのかもしれない。あるいは、自分の気持ちに合った楽曲が目の前に現れるというのは彼女の勘違いで、楽曲で描かれていることに無意識の内に自分を合わせているということだってありえるだろう。しかしいずれにしても、彼女の感覚の中では、楽曲が自分の気持ちにピッタリとハマってしまうのだという。


【ちょうどそう思っていた時にいただいた曲がまさにそういうことを歌った曲だったり、だからこそ表現しやすかったり。『成りきる』とか、最近だと『憑依型』って言われるけど、成りきってるわけじゃなくて楽曲が合ってきちゃってるので、そのままの自分っていう感じでもあります。】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

運命論者ではないので、こういうことは言いたくはないが、平手友梨奈のこういう発言から僕は、彼女は「表現者」として選ばれているのだな、と感じてしまう。この点が、平手友梨奈が、乃木坂46のメンバーの表現と決定的に違う点なのかもしれない、と思う。彼女には、「楽曲に自分を合わせていく」という作業が不要だった。今の自分そのものが、その時出すべきものに合致していた。だからこそ彼女は、その時々で迷いのない全力のパフォーマンスをすることが出来た。表現に関しては「これが正しいのだろうか?」という葛藤などとは無縁で、1ミリの躊躇もなく動くことが出来た。この強みは計り知れないだろう。

表現すべきものに自分を寄せていくのではなく、表現すべきものを自ら引き寄せる。それが神の配剤なのか、あるいは欅坂46の戦略の結果なのかは僕にとってはどうでもいいことだが、彼女のこの「表現者」としてのあり方が、欅坂46の支柱であることは間違いないだろう。

今の自分に表現すべきものが合ってくる、というのは、そう表現してしまえば楽にも思えるかもしれない。何も考えずに、その時その時の自分の「今」を出せばいいのだから、難しくないと感じる向きもあるかもしれない。しかし、それは違う。

【逆に言えば“不協和音”は気持ちが入ったり、その世界に行かないとできないです。だから、できる時とできない時がだいたいわかるので、(ライブで)『今日はできないな』と思ったらできないし、やれるとしても自信はないですし、もうあの時とはモードが変わってるので、その点については大変だったりはしますね】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

平手友梨奈は現在16歳。アイドルであろうがなかろうが、変化の激しい時期だろう。欅坂46のセンターとして、あり得ないほど過酷な環境にいる彼女なら、その変化はなおのこと激しいだろう。だからこそ、シングルCDの収録のために楽曲が目の前にやってくる時と、その後ライブをする時では、もう「今の自分」は変化してしまっている。だから、CDの収録の時に出来ていたことが、ライブでは出来ない。出来ない、という感覚に支配される。「今の自分」を全力で表現することで圧倒的なパフォーマンスを生み出す彼女は、それ故に、変化する「今の自分」をその都度その都度で思い出すような作業をしなければ、楽曲の世界を表現できなくなってしまう。

【―“不協和音”という曲は本当にすごい曲だと思うんだけども。というのも、ただ歌詞を追って歌うだけでは成立しない曲ですよね。自分の何かを削らないと成立させられないという。
どうだろう、今の自分ではわからないです。その人にならないと何考えてるのかわからない
―曲のなかの「その人にならないと」という感じなんだ、“不協和音”を歌う時は。
はい。『あの子』っていう表現のほうが合ってるのかもしれない。『あの子、すごいなあ』とか思います。だからライヴが大変です
―ロック・イン・ジャパンの時も最後まで“不協和音”をやるかやらないか悩んでくれてたもんね。
自分のなかで勝負に行かなきゃいけない場っていうことはわかってたし、だからできるだけ今までのツアーのなかでやってこなかったんです。スタッフさんも理解してくださったので。で、ここでやってしまったら、できたらすごくいい気分になるけど、できなかったら心が折れるから、そうなった時にどうなるかが自分でもわからないから、ほんとにギリギリまでスタッフさんと相談しました】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

日々変化する「今の自分」を、彼女は「その人」「あの子」と表現する。かつては自分自身だった存在を、「その人」「あの子」と呼ばなければならない程遠く感じられる中で、自分が納得できるパフォーマンスを成立させることは非常に難しいだろう。

また、こんな難しさもある。

【いつも重めに考えちゃうから、こんな軽やかに考えるのは難しい。でも、ほんとに楽しまなきゃ損だし、高校生活も高校生という時代も今しかないから、『絶対楽しんだもん勝ちだ』と思って、そういう気分で(“風に吹かれても”を)歌ってるところもあります。
―平手さんはそう思えるようになったよね。
この曲を歌えるようになった平手を褒めてほしい(笑)。監督と話した時に『どう?気分こんな感じ?』って訊かれたから『いや、まだ大人嫌いです』って言ったら『そうだよね』って(笑)。めっちゃわかってくれるんですよ、監督さん。『大人はほんとヤダよね』とか『平手はそこから抜け出せないと思ってるから』って(笑)。でも『人生は楽しんだほうがいいんだよ』って。】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

欅坂46の歌は、表題曲は特に、「反抗」「抵抗」「反逆」と言ったことがテーマになっているものが多い。「大人が嫌い」だと思っている平手友梨奈には、そういう世界観が合っていると、彼女自身も周りの大人も考えている。しかし、アイドルグループとしては当然、そういう曲ばっかり歌っているわけにもいかないのだろう。欅坂46もどんどんとファン層が広がっており、「反抗」なんかを中心に据えない曲ももちろん必要とされる。しかし彼女は、恐らくそういう曲が必要だということを理解しながら、どう歌ったらいいか分からず戸惑っている。


【でもやっぱり、すごい強いメッセージ性がないと落ち着かない自分もいます。“不協和音”はカメラに向かって『嫌だ』とか『もっと反抗していいんだよ』っていうメッセージを伝えてたけど、『今は何を伝えたらいいんだろうなあ』ってちょっと思いますね】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

歌は彼女にとって、「何かメッセージを伝える手段・表現」だ。だから、「メッセージ」を感じ取れない楽曲では、彼女はどこに焦点を合わせてパフォーマンスしていいのか捉えきれずに悩む。楽曲が自分に合うことで圧巻のパフォーマンスを生み出すことが出来る彼女は、それ故に、自分の合ってこない楽曲をどう消化すればいいのか、まだ捉えきれていない。

もちろん、彼女はまだ若い。若すぎると言っていいくらいだ。だから焦ることはないのだが、欅坂46を結果的に背負ってしまっている格好になっている彼女には、焦る気持ちもきっとあるだろう。デビューから鮮烈なインパクトを与えてしまった宿命として、毎回最高以上のパフォーマンスを求められるという重圧の中で、どう表現すべきなのかという問いは、常に彼女を追い詰めるだろう。

そんな平手友梨奈を救ったのは、メンバーだった。

【とりあえずメンバーとアイコンタクトをとって、笑顔で踊るしかないなと思ってます(笑)。確かに命削ってる感はないですよね、この曲(“風に吹かれても”)は
―でも命を削ってきた自分がアリにしてくれる曲なんじゃないのかな。
ああ、1コ言えるのは、メンバーという存在が大きいかもしれない。メンバーを見られるようになったというか、しゃべれるようになったというか、受け入れてもらえるようになったというか。うまく説明できないけど、メンバーが話しかけてくれるようになったので、ツアーを通じて。メンバーに心を開けるようになったのかなあ…。今までは私はちゃんと見てなかったんだなっていう。たぶん“不協和音”と“月曜の朝、スカートを切られた”がつながっていて、その期間にいろいろ起きて、本当に長く感じられて。今はメンバーといて楽しいなって思いますね。】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

彼女は元々人見知りで自分から行動出来ない性格だったという。そんな自分を変えたくて欅坂46のオーディションを受けた。欅坂46としてデビューして、デビュー曲の「サイレントマジョリティ」で一気にブレイク、センターとして最年少ながら絶大な注目を集めることになった平手友梨奈は、恐らく孤独の中にいた。


【私に直接言う子はいないけど、メンバーによっては「私、(MVに)映ってないから…」と漏らしている子もいるみたいで、そういうのを聞くと、それはまあそうだよなぁ、と思うし。だから、悩みとかも、人には言わないようにしてるんです】「AKB新聞 2016年12月号」

【(大丈夫と周りに言われないように距離を置くという話の中で)わかります!だって「大丈夫?」って聞かれたら、「大丈夫、大丈夫」って言うしかないわけで、もう自分のこの思いは消されてるじゃないですか。例えばパフォーマンスが終わったあとに、「わぁ~、終わった~!」ってなってる時に、自分では納得いかないことがあって一人でいたいなって時は、一人でいようと思っています。その方が考え方がいろんな方向にいかない気がするんです】「BRODY 2017年6月号」

想像でしかないが、彼女には忸怩たる思いがあったことだろう。欅坂46を大きくしていくために、彼女は全力を出し尽くす覚悟があったはずだ。しかし、楽曲が自分に合って来てしまう、というほどのパフォーマンスを見せる彼女は、「憑依型の天才」として、個人として注目を集め続けることになる。【センターばかりが注目されるのが怖いときもあって。(中略)全員を見てほしいっていう思いがあります】「BRODY 2016年10月号」とも発言しているが、欅坂46全体ではなく、自分一人に注目が集まっている現状に危機感を抱いてもいたはずだ。

しかし、その状況は彼女自身にはどうにもしようがない。欅坂46を大きくしていくためには、その時その時で出来る人間が最大限の努力を出し尽くすしかない。デビューからずっと、それを担わざるを得なかったのが平手友梨奈だ。状況としては、生駒里奈も同じだ。生駒里奈がデビューからしばらくセンターという重責を担っていたその頃の話は、インタビューなどで様々に読んだことがある。そのプレッシャーは半端なものではなかったそうだし、「メンバーに理解してもらえない」という気持ちもずっと抱いていたという。平手友梨奈も同じ状況にいた。しかし、頑張れば頑張るほど自分に注目が集まる現状であっても、頑張らないという選択などあり得ない。欅坂46のためには、平手友梨奈の全力は不可欠だからだ。だから彼女は、そういうことを全部理解した上で、欅坂46の中で孤立するしかなかったのだ、と思う。

しかし、ライブを通じて変化が生まれた。

【“エキセントリック”は意外と大変です。ツアー期間、表現ができなくなっちゃっていろいろ悩んでたんですけど、“エキセントリック”とか“不協和音”とか、私の得意な、気持ちを放出する曲なんですけど、そういう曲が逆にできなくなっちゃって。内側にこもるタイプの曲しかできなくなっちゃったんですよ】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

声が出なくなったこともあったようで、様々な形で彼女は「表現が出来ない」という苦しみにさいなまれるようになった。

そうなってみてようやく彼女は、メンバーに頼ることが出来るようになった。

【(メンバーに心を開けるようになった、メンバーといて楽しいと言えるようになったのは)また“不協和音”みたいな曲が来るかもしれないけど、みんな“不協和音”の頃の私を知ってくれてるから、きっとわかってくれるなというか、わかってほしいなと思うから。初めてメンバーに本音を言いました。『表現ができない』って。『だから助けてほしい』って。すごい勇気がいったけど。そしたらすごいみんなが助けてくれた。初めて本音を言ったツアーでした。何回かメンバーが楽屋に来て『平手と話したい』って言ってくれて、そこで正直に話したし、『できない』って。みんながほんとに支えてくれたので助かりました、このツアーは。】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

「出来ない」と口にするのは、勇気が要ることだ。特に欅坂46は、平手友梨奈の存在感がある種グループのベースになっているような部分がある。彼女にしても、そのことは自覚していただろう。そんな自分が「表現できない」と言うことには、非常に勇気が要ったことだろう。それでも、そういう弱さを見せることで、ようやく彼女は孤独を抜け出せる光を感じることが出来た。背負いすぎていたものをメンバーに分けられるようになった彼女が、それでも続くだろう重圧の中でどんなパフォーマンスを見せていくのかは楽しみだ。


そんな平手友梨奈を、メンバーはどんな風に見ているのか。原田葵がインタビューの中でこんな風に言っていた。

【―2人も自分さえよければいいという考え方じゃないですよね
でも、その空気を作ったのは平手だと思うんです。先頭を切ってる子がそういう気持ちだから、他の子も「私もメンバーの役に立ちたい」と思える。最初の頃は他のメンバーに「負けたくない」という気持ちが強い子もいたと思うけど、平手の行動を見てると、誰も「自分さえよければ」とはならないはず】「Top Yell 2018年1月号」

この発言を読んで僕は、あぁ良かった、と感じた。平手友梨奈の想いは、きちんと伝わっている。彼女が、自分に向けられる注目に胡座をかくような人間だったとしたら、あるいは、自分が表現したいものだけをただ追及するような人間だったとしたら、彼女がメンバーに頼ってもメンバーは受け入れられなかったかもしれない。平手友梨奈は、自分ではなく、欅坂46のために全力を出している。そのことが、彼女の一つ一つの振る舞いからきちんと伝わっていたからこそ、メンバーも平手友梨奈の窮地にすぐに手を差し伸べることが出来た。

【今の時点で、自分がどうなりたいっていうのは全然ないんです…。「私は何のためにがんばっているんだろ?」って考えてしまって。今、欅坂46は注目していただいているのですが、これから私たちはどうなっていくのか不安な気持ちもすごくあります】「BRODY 2016年10月号」

2016年の時点ではこう発言していた平手友梨奈だったが、メンバーとの関係が大きく変化した2017年は、気持ちがまた変わったことだろう。今まではメンバーに頼れなかったことで「出来ない」と感じられていたことに、これからはどんどんチャレンジしていくことが出来る。楽曲の世界観を表現するパフォーマンスのベースも、「メンバーの役に立ちたい」という雰囲気も、自らの手で切り拓き作り出してきた彼女の意識は、やはりライブに向いている。


【―複雑だなあと思うんですね。「あれは夢だった」と平手さんは話してくれるんだけども、でも客観的に見ると明らかに自分を削ることで成立させているという。つまり自分を削り続けることが自分のなかの夢になっているという、そういうパーソナリティなんだよね。
自分を削ることに対してそういう気持ちはないですね。たぶんすごいものをやろうやろうとしてるんだと思います。『すごいものをやらないなら、もう出たくない』って言います】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

「パフォーマンスに満足したことがない」と語る彼女は、常に「すごいもの」を提示したいと言う。「びっくりさせたい」「鳥肌を立たせたい」「ファンの期待を裏切っていきたい」と彼女が思い続けていく限り、欅坂46のパフォーマンスは進化していくことだろう。

正直今まで僕は、「乃木坂46のライヴを見に行きたい」と思ったことがない。僕は乃木坂46のファンだけど、動いている姿を見ることよりも、思考や価値観を知ることに重きを置いているからだ。アンダーライブにはちょっと食指が動いたけど、凄く強い衝動ではなかった。でも、平手友梨奈のインタビューを読んで、「欅坂46のライヴは見てみたい」と思った。そう思わせるだけの言葉の強さが、平手友梨奈にはある。

【―そんな1年間、何が平手さんを走らせていたんですか?
大っ嫌いなものと戦おうとしたからかな。
―負けられなかった、ということ?諦められなかった、ということ?
仕返ししてやりたかった(笑)】「ロッキンオンジャパン 2017年12月号特別付録」

欅坂46という注目を集めるアイドルグループのセンターとして、常に視線を浴び続けてきた平手友梨奈だからこそ、「仕返し」という言葉がビビッドに響く。恵まれている、と言っていいはずの環境にいて、それでも「仕返し」という意識を持ち続けることが出来る、そのメンタリティこそが、平手友梨奈を、そして欅坂46を作り出しているのだろうと感じた。

サポートいただけると励みになります!