【映画】「ペンギン・ハイウェイ」感想・レビュー・解説

メッチャ面白いな!ペンギン・ハイウェイ!原作も読んだけど、大分昔(8年ぐらい前)だから、ストーリーはまったく覚えていなかった。自分のブログを読み返すと、ストーリー的には割とちゃんと原作に忠実なようだ。
<ぼく>(青山くん)は、小学四年生。大人になるまで、あと3888日掛かる。普段から様々な研究対象を持っていて、今はクラスメイトのウチダ君と「プロジェクトアマゾン」という、川の源流を探す研究をしている。他にも、近くの歯科医院の<お姉さん>も実に興味深い研究対象だ。<ぼく>は<お姉さん>によくしてもらっていて、喫茶店で一緒にチェスをすることもある。
チェスと言えば、クラスではハマモトさんという女の子がとても強い。<ぼく>は、自身のことをたいへん賢いと自負しているし、これから益々賢くなると思っているが、ハマモトさんとは互角だと考えているし、だから日々研鑽を怠らないのだ。
ある日、彼らが住む街に、ペンギンが現れた。何故こんな街中にペンギンが?早速<ぼく>は、ウチダ君と一緒に調査を開始することにした。しかし、調べれば調べるほど謎は深まるばかり。ペンギンたちは、食べ物を食べないし、突然消えたりするし、おかしなぐらい頑丈なのだ。
さらに<ぼく>はなんと、<お姉さん>とペンギンの関係まで知ることになってしまい…。
というような話です。

これは良かったなぁ。凄く良かった。原作を読んだ時と同様、ストーリー的にはまったく意味不明なんだけど、しかし面白い。これは、さすが森見登美彦という感じだ。森見登美彦は、ストーリー的には破綻しているような、訳のわからん物語を、最後まで読ませてしまうだけの強烈な何かを持つ物語をいつも生み出すし、「ペンギン・ハイウェイ」もそんな作品の一つだ。

ただ、小説と映画の比較で言えば、小説を読んだ時の記憶はもうまったくないのだけど、恐らく映画の方が分かりやすいだろう。どこまで原作に忠実だったのか定かではないが、この映画の内容が文字で書かれていたとしたら、恐らく僕の頭では映像化不可能である。色んな意味で謎めいたことが起こるし、理解不能な展開が現れるので、映像化してくれているものを見る方が、ストーリーを理解する上で受け取りやすいだろう。

この映画の魅力は、なんと言っても<ぼく>と<お姉さん>である。この二人のキャラクター、掛け合い、関係性が、この映画のすべてと言ってもいいくらいだ。

<ぼく>は、小学生にしていっぱしの研究者である。自室には「研究所」という札をつけているし、何冊も研究ノートを記している。父親が研究職かなにかのようで、そんな父親からもらったアドバイスを壁に貼っている。「問題を解く時は、問題を切り分けろ」などだ。

いきなり脱線するが、<ぼく>の父親も非常に良い。この父親の子どもに対する接し方は、仮に僕が結婚して子どもを持つことになった時、自分がそうしたいと思う振る舞いなのだ。

僕は、今もそうだけど、子どもを子ども扱いするのが好きじゃない。「子どもだから」という理由で許可したり禁止したりするのは、アンフェアだと思っている。もちろん、内服薬の処方量など、子どもであるということが絶対的な制限になることはある。しかし、考え方・価値観・行動などは、子どもと大人とで制約を課すべき状況などほとんどないと僕は思っている。そしてこの父親は、それを体現し、実行している。この親にしてこの子ども、という感じがしてとても良かった。

<ぼく>は、小学四年生ではあるが、研究者としての資質は十分だ。データをきちんと取る。仮説を立てる。仮説を検証するための実験を考案する。実験結果を分析する。分からないものは分からないと答え、始めた研究は粘り強く続ける。もちろんそういう中で、泣いているのに泣いてないと言ったりするような子どもらしさが混じりこむ。特に<お姉さん>との関わりにおいては、<ぼく>は自分をより一層大人に見せようとする。そうすることでさらにアンバランスさが強調されることになり、観ている側からは魅力的に映るのだ。

<ぼく>は<お姉さん>のことがたいへんに好きで、しかしその「好き」という気持ちさえも研究対象にしてしまう。クラスの中では確実に浮いているのだけど、ちゃんと話せる仲間もいるし、孤立しているわけでもなく、きちんと受け入れられているのも良い。そういう意味で、小学生という設定は絶妙だと思う。これが中学生だと…青山くんみたいな子どもは、集団の中にうまく溶け込めなくなっちゃう可能性もあるからなぁ。

<お姉さん>は、そんな<ぼく>を子ども扱いしないで、真摯に向き合ってくれる。恐らく<お姉さん>は、<ぼく>の好意に気づいているだろう。しかしだからと言って特別扱いするわけではない。いや、<お姉さん>が<ぼく>以外の人にどう接しているのか、ほとんど描かれないからはっきりとしたことは分からないのだけど、<お姉さん>は凄くフラットに<ぼく>と接しているように僕には見える。

<ぼく>と<お姉さん>との関係は、最初こそ“少年の淡い恋心と、大人びた少年を面白がる女性”という感じだったのだけど、物語が進んでいくにつれて、どんどん変わってくる。その理由は書けないのだけど、<お姉さん>がペンギンと関係していることが分かった辺りから、色んなことが変わっていくのだ。展開と共に、彼らの関係性の行き着く先が見えてくるようになり、なんとも言えない感情に襲われることになる。

ラストの<ぼく>の心中を想像すると、胸が痛くなる。泣くなんて思ってなかったけど、ちょっと泣けてしまった。<ぼく>の、研究者としての発言と、小学四年生としての発言が矛盾し始めてしまい、それでも<ぼく>は、ある決断のためにどちらかを選び取ることになる。少年には、辛い決断だ。<ぼく>は、そうせざるを得なかったとはいえ、絶対に避けたかった結末へと自ら誘導するような行動を取らなければならかったことは、本当に辛いだろうと思う。ここにきて、それまでの<ぼく>と<お姉さん>の関係性の積み重ねが効いてきて、観ている者の心を揺り動かす。

ストーリーがハチャメチャなのに、心を動かされるのは、やはり<ぼく>と<お姉さん>の存在と関係性が見事だからで、凄く良かった。

僕は、<ぼく>のような少年でいたかったし、<お姉さん>のような人に出会いたいし、<ぼく>のお父さんのような父親になりたい。そういう意味でこの映画には、僕の理想が詰まっているのだ。

サポートいただけると励みになります!