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お寺を福祉避難所に 地元行政と提携

※文化時報2021年9月2日号の掲載記事です。

 曹洞宗高雲寺は8月20日、地元の茨城県つくばみらい市と「災害時における福祉避難所の設置運営に関する協定」を結んだ。米沢智秀住職(53)は災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(支援P)=用語解説=委員で茨城県社会福祉協議会・防災活動アドバイザーも務める。防災週間(8月30日~9月5日)に合わせ、災害時に寺院が果たすべき役割や可能性などについて、米沢住職と共に考えた。(山根陽一)

経費は行政負担

 協定では、災害時につくばみらい市が管理する福祉避難所が不足した場合、高齢者や身体障害者が高雲寺で避難生活を送れるよう定めた。稼働した場合の主な経費は市が負担する。

 同寺は、市内で標高の高い場所に立地しており、水害に遭う可能性が低い。また、バリアフリー設計になっており、駐車場から39畳の客間まで階段を一切使わずに行き来できる。専用の風呂や洗面所も備えているという。

曹洞高雲寺1

駐車場から客殿にスロープを設置してある

 つくばみらい市防災課の鈴木了平主幹は「新型コロナウイルス感染拡大下での自然災害への対応は喫緊の課題。高雲寺は福祉避難所として最適な建物で、プライバシー保護も万全。妊産婦にも対応できる」と語る。

災害支援のプロ

 米沢住職は大本山永平寺で1990(平成2)年から3年間修行した後、自坊に戻った。「葬式仏教」と揶揄される僧侶像に疑問を抱き、さまざまなボランティア活動に参加。97年1月にロシアのタンカー・ナホトカ号が座礁した重油流出事故では、永平寺近くの海岸で復興支援に携わった。

 2007年3月の能登半島地震では現地に40日間滞在し、僧侶として被災者に寄り添う「傾聴サロン」を展開した。「家族や友人を亡くした被災者にとって、僧侶は信頼できる話し相手。安心して心を開いてくれる」という。

 同年7月の新潟県中越沖地震後に、支援Pが派遣する運営支援者(アドバイザー)となった。交通費や宿泊費が支給される有償のボランティアで、まさに災害支援のプロ。その後も11年の東日本大震災や16年の熊本地震、18年の西日本豪雨など、毎年のように起きる自然災害で現地に赴いた。「スーパーボランティア」として有名になった尾畠春夫さん(大分県日出町)とも知り合いだという。

 支援Pの運営支援者は、被災地の行政や社会福祉協議会と連携を取りながら、全国から訪れるボランティアを指揮し、復興への道筋を立てる。被災地で働く地元の人々に、支援を求めることもある。

 被災地が何を求めているのか。手弁当でやって来るボランティアの熱意をどう生かすのか。調整は一筋縄ではいかない。「最も重要な任務は、地元への引き継ぎ。支援部隊が退いた後も、滞りなく復興できる体制を築くことが大切」と語る。

理にかなった拠点

 一般寺院が災害時にできることは何か。

 米沢住職が最もふさわしいと考えるのは、大規模災害のときに遺体や遺骨の安置場所になることだという。

 死者が多く出ていない災害でも、行政との協力は欠かせない。政教分離の原則=用語解説=が壁だと指摘されることもあるが、「災害時にお寺が被災者を受け入れることを認めない行政などない」と強調する。

曹洞高雲寺2

室内に上がるスロープ

 つくばみらい市のように宗教施設と災害協定を結ぶ自治体は増えている。稲場圭信・大阪大学大学院教授の調査では、こうした自治体は14年に95だったのが、20年には121となった。

 東京都は、都内の区市町村と帰宅困難者の受け入れ協定を締結する民間一時滞在施設を対象に、3日分の水や食料、生理用品や粉ミルクなどの備蓄品を購入する補助制度を設けている。寺院も協定を結べば、こうした制度を活用することが十分可能で、負担感は減る。

 何よりも寺院には、境内や建物に避難者を受け入れられる広いスペースがある。防災・減災の拠点になることは、理にかなっている。

 米沢住職は「日頃から住民に『あそこの寺なら、いざというときに受け入れてくる』と思われることが重要。さまざまな手段でアピールし、開かれたお寺を目指したい」と力を込めた。

曹洞高雲寺3

米沢智秀住職   

【用語解説】災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(支援P)
 企業や社会福祉協議会、NPO法人、中央共同募金会などで構成される災害支援のネットワーク組織。2004年の新潟中越地震を受け、05年に中央共同募金会を主体として設立された。災害時は運営支援者(アドバイザー)を派遣するなど、被災者中心・地元主体のさまざまな支援を行う。平時は災害支援の調査研究・人材育成などを行っている。

【用語解説】政教分離の原則
 国家の政治と宗教を分離させる原則。政治と宗教が互いに介入することを禁じる。日本国憲法では信教の自由を定めた20条と、宗教団体への公金支出を禁じた89条で規定される。

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