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「いい加減な僧侶で式が台無し」葬儀社の本音を聞いた寺院は…

※文化時報2020年10月24日号の社説「『チーム葬儀』の進め方」の全文です。

 浄土真宗本願寺派の本願寺鹿児島別院・教区には、将来展望委員会という組織がある。その一角を担う伝道検討委員会が昨年10月、地元の葬儀社6社と意見交換会を開いた。

 家族葬や直葬は、どこまで増えているのか。お墓や納骨堂以外の埋葬を選ぶ遺族は、どれほどいるのか。葬儀社にとっては企業秘密にしたい部分もあっただろうが、一定のデータが示されたことで、鹿児島における葬儀離れの現状を寺院側が確認できたという。

 こうした情報収集は、有力寺院が業者を呼び付けるだけでできるわけではない。本願寺鹿児島別院・教区がうまくできたのには、理由があった。

 質問内容を事前に葬儀社側へ知らせ、「忌憚のないご意見を寄せてください」との設問を設けた。意見交換会は「寺院側の要望を伝えるものではない」と念を押し、結果として葬儀社側からさまざまな苦情を受けた。

 例えば、「表白で名前の読み間違いがあった」「姿勢や作法がいい加減な僧侶がいて、式が台無しになっている」との指摘だ。式場での勤行が長すぎるので、40分以内で収めてほしいとの要望も相次いだ。

 僧侶としては、首肯しがたい意見もあっただろう。だが、寺院側からは「葬儀社と寺院がコミュニケーションを取ることの重要性を感じた」との声が上がり、葬儀社側からは「初めて本音が言えた」との感想が漏れたという。

 これは、寺院が葬儀社と対等に意見交換したことの証しだといえる。寺院経営に直結する貴重な情報を得られたのは、葬儀の在り方を共に考えたいという真摯な姿勢を、葬儀社側に示したからにほかならない。

 葬儀は僧侶の専売特許ではない。宗教儀礼を行えるのは僧侶しかいないが、人が亡くなってから埋葬されるまでの実務には、葬儀社や石材業者などさまざまな専門家が携わる。関係者がチームを組まなければ、成り立たない。

 だが、チーム医療が医師を頂点としたヒエラルキー構造になりがちだと指摘されるように、「チーム葬儀」もまた、僧侶が一番偉いという勘違いがあるのではないだろうか。僧侶を含む専門家は本来、故人や喪家のためにそれぞれの役割を果たすのであって、そこに上下関係はないはずだ。

 伝道検討委員会の委員長を務める井上從昭妙行寺住職は「寺院が葬儀社を下に見てきたことが、葬儀離れを加速させた一因ではないか」と話す。

 薩摩藩による念仏禁制が敷かれていた鹿児島は、約300年にわたって浄土真宗への過酷な弾圧があった。信仰は「かくれ念仏」によって受け継がれ、かえって強固になった。

 それでも、葬儀離れへの危機感は強い。チーム葬儀の重要性に気付いた井上住職は、新型コロナウイルスの感染拡大を経た今、葬儀社との討論会を動画配信するまでになったという。

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