つなぐ心④困窮・孤立から子ども守る
※文化時報2022年1月14日号の掲載記事です。
休校中の子どもを家に残して働かざるを得ない親。家庭や学校に居場所のない子どもたち―。新型コロナウイルス感染拡大で、ひとり親世帯や貧困家庭はさらなる困窮や孤立に直面している。古くから地域社会のよりどころとなってきたお寺には、できることが多くある。
手を合わす心伝える
毎月最終日曜の正午過ぎ、福井県あわら市の本願寺吉崎別院は、家族連れでにぎわう。近隣寺院や地域住民が協力し、境内門徒会館の食堂で開かれる「テンプル食堂よしざき」だ。
「子どもたちがおなかいっぱい食べられることが最優先」と、コロナ禍真っただ中の2020年6月に始まり、毎月欠かさず続けてきた。18歳未満は無料、18歳以上は300円か食材と引き換えに食べられる。
ご飯にみそ汁、野菜の煮物や焼き魚など、毎月異なるメニューを約100人分提供。早朝から厨房で腕を振るう人や会場を設営する人、食材を提供してくれる農家や商店など、多くの人の思いを乗せた一膳だ。
開催を呼び掛けた浄土真宗本願寺派本光寺(石川県小松市)衆徒、八幡真衣さん(28)は「自分のことを真剣に考え、支えてくれる大人がいると子どもたちに知ってもらいたい」と願い、花まつりや報恩講などの仏教行事にも力を入れる。
運動会や文化祭などの学校行事が中止となり、お寺という非日常の空間で同世代の仲間たちと過ごす経験は、得難い財産となる。「手を合わせる心を伝えたい。今は理解できなくても、大きくなった時に思い出してほしい」と、八幡代表は話す。
身近な課題に気付く
地域を巻き込んだテンプル食堂よしざきの活動は、住民らが身近な社会課題に目を向けるきっかけにもなっている。
「活動に携わったことで、世の中に対する視野が広がった」。そう明かしたのは、スタッフの一員として運営に携わる国方駿和さん(27)だ。
小松市内の自動車整備工場で勤務する傍ら、体操教室の指導員を務めている。体操教室の同僚だった八幡さんの誘いで、昨年春から参加。ひとり親世帯を対象に、車のタイヤ交換を安価で行うなど、専門分野を生かした活動で協力している。
体操教室にも、ひとり親世帯の子どもたちが少なくない。決して楽とは言えない経済状況の中、子どもの習い事を大切にしている親がいる。テンプル食堂よしざきをきっかけに、初めて目を向けた事実だった。
国方さんは「お坊さんがこのような活動をしていることには安心感がある。より多くの人に知ってもらい、ご縁を結んでほしい」と力を込める。
お坊さんへの共感
お寺による共助の取り組みと連携し、公助の充実を目指す行政機関も現れた。
「お坊さんによる活動であることが、共感につながっているのではないか」。奈良県田原本町こども未来課の羽山卓哉課長は語る。
田原本町は20年7月、お寺の供物の「お裾分け」を通じて困窮家庭を支援する認定NPO法人「おてらおやつクラブ」(代表理事、松島靖朗・浄土宗安養寺住職)と、「ひとり親家庭への支援に関する協定」を締結。行政の相談窓口を訪れた人に情報を提供するなど、連携が進んでいる。
昨年、夏休みと冬休みに向けておやつクラブへの寄付を目的にガバメントクラウドファンディング=用語解説=を実施。夏は約200万円、冬は約500万円と、多くの支援が寄せられた。
田原本町は、総世帯数の1.6%に当たる約190世帯がひとり親世帯。コロナ禍による失業や収入減少に苦しむが、「町が独自に新たな取り組みを始めることは難しく、既存の活動との連携が欠かせない」と羽山課長は明かす。
13年に発足したおてらおやつクラブは、約1750カ寺が協力し、毎月約2万2千人の子どもたちが支援を受けている。全国的に知名度が高く、助けが必要な人、支援を考える人への周知が行き届きやすいという利点もある。
連携する上で課題となる政教分離の原則=用語解説=に関しても、超宗派の慈善活動であることや特定宗派の布教活動を行っていないことから「問題なし」と判断した。
羽山課長は「町とお寺が共に困窮家庭を支援する仕組みを作りたい。何ができるか、今後も一緒に考えてほしい」と、お寺への期待を寄せている。
【用語解説】ガバメントクラウドファンディング(GCF)
納税者が自治体に寄付することで税金の控除を受けられるふるさと納税制度と、クラウドファンディングを組み合わせた仕組み。自治体は、問題解決のための具体的なプロジェクトを設定し、事前に周知。賛同を得た人から寄付金を募る。
【用語解説】政教分離の原則
国家の政治と宗教を分離させる原則。政治と宗教が互いに介入することを禁じる。日本国憲法では信教の自由を定めた20条と、宗教団体への公金支出を禁じた89条で規定される。
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