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「親なきあと」考える 障害ある子の将来に備え

※文化時報10月10日号の掲載記事です。

 文化時報紙上セミナー講師で、一般社団法人「親なきあと相談室 関西ネットワーク」代表理事の藤井奈緒氏が9月26日、大阪府東大阪市の市文化創造館で講演した。「親なきあと」を巡っては近年、全国に活動が広がっており、協力する寺院も現れている。講演には当事者に加えて相談員や看護師らも参加し、改めて注目度の高さをうかがわせた。

 「親なきあと」は、障害者や引きこもりで就労できない人が、親がいなくなった後にどう生きていくか、という問題。藤井氏は、重い知的障害と歩行困難がある長女、凜さん(17)と障害のない次女、怜さん(11)の母親として、全国の当事者と共に問題解決に取り組んでいる。

 今回は、障害者の家族同士の交流を目的に2006年に設立された東大阪市のNPO法人「いちばん星」(吉川芽莉代表理事)が企画。約30人が聴講した。

 藤井氏は「親なきあと」を「親亡きあと」と表記しないことについて、「亡くならないまでも、子のお世話ができなくなるその時から、『親なきあと』が始まると考えてほしい」と説明した。

 その上で「親のように子を見てくれる人は誰もいない。親にしかできない備えをして、子の豊かな人生を周囲の方々に支えてもらえるようにしたい」と指摘。成年後見制度=用語解説=に基づく後見人や福祉事業者らの協力を得ることが必要だと語り、支援者に向けて伝えたいことを全て書き残しておく無料のノート「親心の記録」を活用するよう呼び掛けた。

 兄弟姉妹については「親の感覚とは違うので、過度に期待しないでほしい。大切なのは、本人にどうしたいのかを選ばせることだ」と述べた。財産の残し方に関しては、「いくら残すかではなく、どう残すか。やみくもにお金を貯めるのではなく、どう使えるようにするかが、子の幸せを決める」と強調。「私たちが考えておかないと、残された誰かが代わりに決めることになる」として、子の看取りやお墓のことにも触れた。

 参加者からは「ずっと気になっていた内容を分かりやすく話してくれた」「自分の終活の参考にもなった」との感想が寄せられ、吉川代表理事は「もう一度聞きたいほど貴重なお話だった。自分でもしっかり考えて行動に移したい」と話した。

セミナー面藤井奈緒さん2

講演する藤井奈緒氏

寺院も注目、相談室開設

 「親なきあと」には、障害者福祉に携わる関係者だけでなく、寺院も注目する。

 浄土真宗本願寺派の妙行寺(井上從昭住職、鹿児島市)は今春から「親なきあと」相談室の鹿児島事務局を担当している。

 井上住職が、障害を抱える子どもたちの保育や療育に携わっており、専門職や関係団体とのつながりがあるなど環境が整っていることから、設置を引き受けた。9月に初めての相談があったという。

 井上住職は「地域貢献や地域とのつながり作りという位置付けでもある」と、お寺が協力する意義を強調。藤井氏は「お寺には話しやすい雰囲気がある。相談室を開設するお寺が増えてくれれば」と話している。
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 藤井奈緒(ふじい・なお=一般社団法人「親なきあと相談室 関西ネットワーク」代表理事) 1973年5月生まれ。日本福祉大学経済学部卒業。障害者と健常者の母として、自らの「親なきあと」に備えながら、講演や個別相談、終活セミナーを全国で開いている。上級終活カウンセラー、相続診断士などの資格を持つ。2019年12月からは大阪府八尾市教育委員会の教育委員を務めている。

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