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日本のアーティストが世界で戦っていくための武器は、“作品の強度”【2021/7/25放送_MAHO KUBOTA GALLERY ディレクター 久保田 真帆さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。先週に引き続き、東京の外苑前にあるMAHO KUBOTA GALLERYにお邪魔をして、代表の久保田真帆さんに実際に見てこられたアートについて伺いました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
MAHO KUBOTA GALLERY ディレクター 久保田 真帆さん

パルコギャラリー企画担当、SCAI THE BATHHOUSE ディレクターを経て独立、2016年3月に東京・外苑前にギャラリーをオープン。ジュリアン・オピー、長島有里枝、AKI INOMATA、武田鉄平、ブライアン・アルフレッド、ガイ・ヤナイほか国内外のアーティストをリプリゼントしている。開廊以来フォーカスしてきたジェンダーの問題を扱うアーティストに加え認知心理学的な表現手法をとるアーティストの紹介に重点をおき、ビジュアルアートの分野にとどまらず広い分野での創作活動とつながる開かれたアートギャラリーを目指す。アートフェア参加はアートバーゼル香港、上海ART021, アートフェア東京、UNTITLED MIAMI等。 https://www.mahokubota.com/

【今週のダイジェスト】

▶︎「サザビーズでアートを学べる」という文字に魅かれたイギリス留学

【山崎】先週に引き続き、東京の外苑前にあるMAHO KUBOTA GALLERYにお邪魔をしています。久保田さんは、大学卒業後にパルコに入社され、最初は何をされていたんですか?

【久保田】どこに出店するかなどを考える“エリアマーケティング”をやっていました。

【山崎】そこから、どうやってアートの方へ進んだんですか?

【久保田】少しキャリアが上がってきた時に、次のステップに行くのに男女差を感じてしまったんですね。私がダメだったのかもしれないですけれど……。そういうタイミングで、会社が社内留学制度をやっていると知って、「こっちで頑張ってみようかな」と思って、その留学制度に応募をしました。

【山崎】それで、イギリスでアートを学ばれたんですよね。「アートをやろう」というのは、どこから出てきたんですか?

【久保田】単純にひらめき(笑)

【山崎】ひらめき!? ギャラリー巡りをしたりして、アートが好きだったという事は無いんですか?

【久保田】それは、ありますよ。私は名古屋の出身で名古屋パルコの仕事もしていたので、ICA名古屋という現代美術の大きなギャラリーみたいな所に行っていたので、アートは好きではあったんです。ただ、留学先で何を学ぼうかと思いながら資料を見ていたら“ササビーズでアートを学べる”と書いているのを見付けたんですね。他にも、近代アートやインプレショニストという選択肢もあったんですけど、その言葉を見た瞬間に迷わず「コンテンポラリーアートしかないだろう!」とひらめきましたね。

【山崎】イギリスでは、どのような事を学ばれたんですか?

【久保田】1945年以降の戦後のアートの歴史について、先生のレクチャーを受けていました。スライドも使いながら、どういうムーブメントでどういう事が起きているかというのを説明してくれたので、勉強になりました。他にもフィールドワークとしてギャラリーや美術館に行って展覧会を見たり、アーティストやギャラリストのお話を聞いたりして、すごく実践的でした。

【山崎】ギャラリストを育てるためのクラスなんですか?

【久保田】一緒に学んだ中から大きなギャラリーを開いた人もいますけど、アートの基本的な教養を付けようというものでしたね。アカデミックというよりも、もう少し柔らかい感じで。卒業する時にプレゼンテーションをするんですけど、ロンドンのケンジントンにあるサーペンタイン・ギャラリーの図面をもらって「自分で展覧会を企画してみなさい」と言われてワクワクした記憶がありますね。

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▶︎アートフェアに携わって知った、世界のアートマーケットの大きさ

【山崎】社内留学なので、帰国してパルコに戻られるわけですよね?

【久保田】ちょうどイギリスにいた時にYBAムーブメントが起こって、ダミアン・ハーストとかを見て「現代美術って、かっこいい」と思いながら帰ってきたんです。そこからパルコギャラリーの仕事をしていたんですが、当時は90年代だったので求められていたのは渋谷系カルチャーに近いものだったんですね。コマーシャルフォトグラフィーやグラフィックデザイン、ファッションに近いものが中心だったので、自分が学んだ事とは少し距離を感じることがあったでしょうか。

【山崎】当時は、どのような展覧会を企画されていたんですか?

【久保田】例えば、ホンマタカシさんの写真展ですね。ホンマさんは、コマーシャルフォトもされているんですけど、自分の作品づくりをすごく意識されていた方なので、勉強になりました。

【山崎】パルコは、良い温度感というかハイカルチャーと言ったら良いのかな? 僕らの世代やカルチャーでも若い時に「パルコのデザインをやりたい」と強く思っていましたし、そういうクリエイターの卵がたくさんいた印象があるので、文化を牽引してくれていた印象がします。

【久保田】ありがとうございます。増田通二さんという社長がいらっしゃって、彼はニキ・ド・サンファルのコレクターでもあるようにアートを自分でも支える方だったんです。その辺りのDNAがあったのではないかと思います。

【山崎】その後、SCAI THE BATHHOUSEでディレクターを務められますが、ここでのキャリアは経験として大きかったですか?

【久保田】自分が勉強してきた現代アートの世界と直結する部分だったので、大きいですね。

【山崎】そこでは、どんな事をされていたんですか?

【久保田】入社した頃がバブル崩壊後だったので、日本の現代アートが元気がないというか、悲壮感があって暗い時代だったんですよ。だけど、そこから段々アートが盛り上がってくる時代が始まりました。個人的には、1999年のベネチア・ビエンナーレで宮島達男さんが日本館で作品を発表された時に、ほんの少しだけですけど展示のお手伝いさせてもらう事ができて転機となりました。

【山崎】どういう転機になるんですか?

【久保田】「世界のアートワールド、でけぇ~!」となりました(笑) 様々なプレイヤーがいて、本当に生き馬の目を抜くみたいなことも起きているし、こういう風にアートの世界って機能しているんだという事を目の当たりにしました。「これが本当のアートの世界なんですね」と思いました。

あと、SCAI THE BATHHOUSEでアート・バーゼルに初めて出展した時から、色々関わらせて頂いたので「世界のアートマーケットって大きいんだな~」って感じました。

【山崎】僕も3年くらい前から、アートフェアを回って作品を観に行ったりしていたんですけど、エネルギーの形がイメージと全く違いました。日本では、アート業界を神格化している人が多いような気がするんですけど、海外のアートフェアへ行くと、各々の戦略やロビー活動のようなビジネスっぽい要素もあったりして、“人間”が見えてくるという発見がありました。

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▶︎他の分野に触れるからこそ見える“アートの実像”があるはず

【山崎】宮島さんの他に、印象に残っている展覧会やアーティストっていらっしゃいますか?

【久保田】SCAI THE BATHHOUSEの頃に勉強になったのは、韓国の女性アーティストのイ・ブルさん。宮島さんと同じ1999年に、ベネチアの韓国館を代表していた方です。西洋中心の男性が強いアートワールドの中で素晴らしい作品をつくっていく彼女の挑戦に、とても刺激を受けました。

【山崎】世界中のアートを見て来た中で、日本のアーティストやギャラリーが世界で戦っていくために武器にできることは何だと思いますか?

【久保田】まぁ、作品でしょう(笑) 作品の強度だと思います。

【山崎】強度というのは、どういう意味合いですか?

【久保田】強度は色んな部分が揃って、初めて立ち上がるものだと思います。1つは“オリジナリティー”。そして、もう1つが、誰もが納得する“コンセプトの明確さ”ですかね。

【山崎】パルコで商業寄りのアートも見られてきて、“アートとビジネス”や“アートと生活”という面で、どういう形が良いバランスだと思いますか?

【久保田】アートが「生活や人生のすべてだ!」という、ギャラリストやアーティストは多いんですよ。だけど、私はどちらかと言うとそうではなくて、普段の生活とアートのバランスを取っています。「アートだけの人生にはしたくない」と実は思っています。

【山崎】どうしてですか?

【久保田】アートは、“人生を豊かにしてくれるもの”だと思うんです。だけど、元々の人生のプラットフォームがある程度出来ていないと、楽しめない部分もあるのではないかと思います。例えば、スポーツ・文学・音楽・ファッション等、他の分野にアンテナを向けることで、見えてくるアートの実像もあると思うんですね。

アートだけを見ていると、実は見えて来ないこともあるという意味で、アートと他の分野のバランスを自分の中で取っているというのはあるかもしれないです。

▶︎美しいものには、“人を幸せにするパワー”がある

【山崎】最後のパートは、ゲストの方みなさんに伺っていることをお聞きしたいと思います。もし僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?

【久保田】今、流行りかもしれませんけど“スペキュラティブ・デザイン”はどうですか?

【山崎】僕は、基本的に表現は全て繋がっていると考えていて、相対的に世の中のラベルが貼られているだけだと思っているんですね。ここに置いたらアート、あっちに置いたらデザインという風に呼ばれていて、置くところによってリーチの仕方が変わってくるという相対的な軸だと思っているので、“絶対軸に引き戻した上で、相対的に価値がある物を出す”ということを意識しています。

【久保田】私は、スペキュラティブ・デザインというのが、アートには元々あった考えじゃないかなと思っているんです。社会と関わって、人々が抱えている課題をデザインの力で解決する。それは、アートが結構やっているアプローチなので、アートとかデザインを超えて、「どうしたら私たちの暮らしが、色々な課題を超えて豊かになるのか?」をディスカッションできれば良いなと思います。

【山崎】本当に、やってみたいですね。先日ゲストに来ていただいたゲームクリエイターの方は、この質問に「世界を平和にする方法を考えたい」と言ってくださったんです。色んな分野の力を結集させることで「夢物語と思われていたことが、この時代で解けていくのではないか?」という話を一緒にして。この番組で、色んな人たちと繋がっていっているからこそ、実現してみたいなとすごく思っていることなんですよ。

【久保田】よく分かります。デザインやアートは美しいものをつくるじゃないですか?そういう美しいものは“人を幸せにするパワー”があると思うんですよね。美しいもののパワーを使って人々を幸せにするような事を一緒に考えられたら嬉しいなと思います。

【山崎】そして、この番組のコンセプトである文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、どんなモノを扱いたいですか?

【久保田】バイヤーというより、生産者さんと話しをしながら開発をしたいと思うんですけど……。開発なのかな?セレクトなのかな? そういう事を考えるのが好きなので色々と案があるのですが、例えば、キューブ状のヌードルとスープとスパイスを、それぞれパッケージにして、自分の今日の気分で好きな組み合わせでヌードルを作ることが出来るとか!

【山崎】キューブなのは、理由があるんですか?

【久保田】かわいいし、収まりがいいじゃないですか?

【山崎】確かに、画的にすごくいいですよね!

【久保田】別の案だと、1日を楽しく過ごすことが出来るようなギフトパッケージを作る。例えば、真夏の暑い日を楽しめる為の音楽と、どこかに出かけることができる地図、暑い日に飲んだらいいなと思う飲み物がパッケージになっているものを、好きな人にあげるとか。そういう物のパッケージを作る、バイヤーになりたいというか(笑)

【山崎】久保田さんはやりたい事がポンっと出てくるタイプなんですね。

【久保田】バイヤーというよりは、キュレーションが好きなのかもしれないですね。ギャラリストでなければ、やってみたい事が実はいっぱいありまして……(笑)

【山崎】そっちの活動も見てみたい気もします(笑) 最後に現在開催中の展示や、今後の予定について教えてください。

【久保田】開催中の展示は安井鷹之助展で、これは7月31日までやっております。8月はお休みをしまして、9月にアイルランドを拠点のアーティスト加賀温さんが展覧会をします。ダーク・アイリッシュ・ジョークに日本のキャラクターが出てくるような、不思議な作品をつくっている方です。ぜひ、皆さんお越しいただければと思います。

【山崎】今回のゲストは、MAHO KUBOTA GALLERY代表の久保田真帆さんでした。面白い漫画や文学を読むとか、映画を観るような感覚で、もっとアートの裏側をみんなが楽しめるようになるといいなと思いました。ありがとうございました。


【今週のプレイリスト】

▶︎久保田 真帆さんのリクエスト
『Bullet Train』Stacey Kent

▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『Black Shore』Ulfur

Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中

といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、山梨県を拠点に活動をされているシンガーソングライター・ピアニストの森ゆにさんをお迎えします。

【次回8/1(日)24:30-25:00ゲスト】
シンガーソングライター・ピアニスト 森 ゆにさん

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バンド活動を経て、2009年よりソロ活動開始。
これまでに4作のオリジナルアルバムを発売。
(最新作は2019年発表「山の朝霧」)
2012年には、自身のルーツの一つでもあるシューベルトの歌曲を
弾き語りにて収録したアルバム「シューベルト歌曲集」も制作。
2011年からはCDの制作、流通ともに自主でおこなっている。

また日曜深夜にお会いしましょう!

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