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日本で初めての“舞踊学芸員”が作った、『ダンスの百貨店』【2021/8/29放送_愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週のゲストは、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクターの唐津 絵理さんをお迎えして、ダンスハウスであるDANCE BASE YOKOHAMAの役割やコンテンポラリーダンスシーンについて伺いました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん

お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科修了。舞台活動を経て、1993年より日本初の舞踊学芸員として愛知芸術文化センターに勤務。00年に所属の愛知県文化情報センターで第1回アサヒ芸術賞受賞。14年より現職。10年~16年あいちトリエンナーレのキュレーター(パフォーミング・アーツ)。
大規模な国際共同製作から実験的パフォーマンスまでプロデュース、招聘した作品やプロジェクトは200を超える。文化庁文化審議会文化政策部会委員、全国公立文化施設協会コーディネーター、企業の芸術文化財団審査委員、理事等の各種委員、ダンスコンクールの審査員、第65回舞踊学会大会実行委員長、大学非常勤講師等を歴任。講演会、執筆、アドバイザー等、日本の舞台芸術や劇場の環境整備のための様々な活動を行っている。著書に『身体の知性』等。アーティスティックディレクターを務めるDance Base Yokohamaは、2020年度グッドデザイン賞を受賞。

【今週のダイジェスト】

▶︎興味のある人が何かに出会える“ダンスの百貨店”

【山崎】今日は、神奈川県横浜市の馬車道駅の近く、北仲BRICK&WHITEにあるDANCE BASE YOKOHAMA、通称DaBYにお邪魔をしています。唐津さんは、日本で初めての“舞踊学芸員”という事なのですが、どういう仕事なんですか?

【唐津】学芸員と聞くと、美術館や博物館で展覧会を企画するイメージがあると思うんですけれども……。ダンスの公演を作る中で、どのような作品があるかをリサーチして、今にふさわしい企画を作って、皆様に見ていただく舞台を作るような仕事をしています。一般的には“劇場のプロデューサー”という言葉の方が、分かりやすいかもしれませんね。

【山崎】もう1つ言葉についてお伺いしたいのですが、舞踊学芸員という立場から見て来られたのが “コンテンポラリーダンス”ですよね。このダンスについて、説明いただいても良いですか?

【唐津】コンテンポラリーを訳すと、“同時代の”という意味ですよね。なので、「同時代にあるダンスの総称」として、捉えていただいて良いのかなと思うんですね。形式ではなく、色んなダンスの形を取り入れながらも、“今日的な表現を追及しているもの”と考えていただければと思います。

ただ、何でも有りと捉えてしまうと、少し誤解する部分もあると思います。どういう型を使っても良いんですけど、自分でしか作り出せない動きや表現を生み出す所にこそ、コンテンポラリーダンスの面白味を感じてもらえるかもしれません。

真似をするのではなくて、自分のオリジナルの動きや、今自分が生きている中で興味を持っている事を追及していくような、“在り方”というイメージです。

【山崎】なるほど。こちらのDaBYは、“ダンスハウス”という事なのですが、どういう場所なんですか?

【唐津】今日は文化百貨店さんに出演させていただいていますけども、ダンスハウスのことを“ダンスのデパート”や“ダンスの百貨店”という風に紹介しているんですよ。ダンスという言葉を聞いた時に、練習をするスタジオや観に行く劇場を思い浮かべやすいと思うんですけど、作品をつくるためのリサーチをしたり、ダンスに関わる人達と集まってコミュニケーションを取ったりするなど、ダンスの事を知りたい・関わりたい・見たいと思った人が「ここに行けば、何らかの自分の興味に出会える場所」を目指しています。

デパートに行って、自分の興味のあるファッションやデザインを見つけるような感じで、ダンスに関心のある人が来てもらえるデパート的な場所になればと良いなと思っていますね。

【山崎】DaBYでは、“つくる・そだてる・あつまる・むすぶ”というコンセプトを掲げていらっしゃいますが、具体的にはどういう活動をされているんですか?

【唐津】いくつか目的があるんですけど、1番大きいのはダンスをつくる居場所です。

【山崎】つくる場所?

【唐津】日本では、劇場は基本的に発表する場所なので、作品をつくるために長い時間、占有するのが難しいんですよね。海外だと劇場にバレエダンサーが所属していて、そこでリハーサルや練習もするのが一般的なんです。けれども、日本の劇場でそういう機能を持っているところは少ないので、基本的には劇場内でつくるという事が難しい。なので、作品をつくったり、つくるためのリサーチをするという場所として機能することで、劇場との連携を行っていければと思っています。

【山崎】公演もされていますよね?

【唐津】ここは劇場ではないんですけれども、人の目を通すことで、初めて良い事も悪いことも分かってくるということがあるじゃないですか?観てもらって、フィードバックをもらうことで、作品は練り上げられていくので、“トライアウト”という形の上演を行っています。

あとは、“そだてる”の部分としては、少数なんですけども22歳以下のプロのダンサーを目指している人達に向けた集中的なクラスやセミナーもしています。日本だと踊ることや技術を習得することに熱心になりがちなんですけど、座学などを通じて多様なものを学んでいただく場を設けて、ダンサーになりたい人たちを支援する活動もしています。

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▶︎日常的にダンスに触れる場所にしたいから、創作の過程も見せる

【山崎】僕は身体性のある表現は結構好きで、パリ・オペラ座バレエ団の『レイン』も観たりしました。

【唐津】ベルギーのダンスカンパニー、ローザスの『レイン』※ですね。
※ローザスのレパートリーをパリ・オペラ座のバレエダンサーに振り付けたもの。

【山崎】そうです。衣装も良いし、音楽もスティーヴ・ライヒだし、色んな表現がグーッと集まっていますよね。でも、あれだけ短時間で、現地では価格的にも気軽に行ける文化だったりするじゃないですか?でも、日本はそういう感じになっていないように思うんですが、今の状態をどう見られていますか?

【唐津】それはDaBYをオープンした事にもすごくリンクするんですけれども、日本ではプロフェッショナルとして活躍できる場所が無いんです。それは、文化に掛ける予算が少ない事や、劇場がダンスカンパニーを持っていなかったりする事に起因しているんですよね。だから、結局ダンサー達がお金を集めて、自分たちで劇場を借りて自主公演をしなければいけない。そうすると、どうしてもプロフェッショナルなものではなくて、“ダンスを好きな人が趣味でやっている”という範疇から出られないんですよね。

一方で、例えばパリ・オペラ座であれば、フランスが国の公務員として雇ってくれて、ちゃんとお給料があってプロの活動が出来るんですよ。だから、海外で活動されている日本のダンサーはたくさんいるんです。だけど、彼らが日本に戻ってきた時に、プロとして活躍する場も拠り所になるような場所も無いから、そういう人たちが日本で集まれる場所があれば良いのではないかと思ったのも、この場所を作った1つの理由なんですよ。

【山崎】そうなんですね。DaBYは、みんなの基地というか、ここから日本や世界へ発信していく場所という事ですよね。

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【唐津】そういう場所にしていきたいなと思っています。コロナ禍でオープンをして、まだ設立して1年なので、なかなか海外との実際の行き来が出来ていないんですけれども、そこを目指しているという感じです。

【山崎】DaBYは基本的にプロフェッショナル向けの施設だと思うのですが、一般の人が関われる方法はあるんですか?

【唐津】普通のダンススタジオは、創作に集中できるようにわりと閉鎖的な雰囲気だと思うんですよね。だけど、DaBYは“ダンスを開く”というのをテーマにしていて、なるべく外に開いていきたいんですよ。だから、社会と直接つながっていく事を空間デザインの中に体現したくて、色んな所に扉があって窓につながっていて、外光が入る仕掛けをしています。

また、そのスタジオを囲った回廊がアーカイブのスペースになっていて、本が置いてあったり、多様な図録等の資料があって、自由に誰でも観ていただける形になっています。

【山崎】なるほどね。一般の人が、ふらっと立ち寄っても大丈夫なんですね?

【唐津】基本的には、大丈夫です。今はコロナ禍なので少し難しくなっているんですけれど、専属のレジデンスアーティストと呼ばれるダンサーたちには「一般の方たちが観るという事を、基本的には受け入れてください」とお願いしています。普通は、つくっている過程を見せたくないという方が多いと思うんですよ。

【山崎】確かに。

【唐津】その気持ちは分かるんだけれども、そうやってアーティストが閉じれば閉じるほど、壁が出来てしまうという事もあるので、一般の方が日常的にダンスに触れる場所をつくるという意味で、創作の過程も見せようという考えでやっています。

あと、もう1つ重要にしていることが、ダンスが複合芸術であるということで、色んなジャンルのアーティストに関わっていただけるようにしたくて、コレクティブな取り組みを行っています。例えば、音楽家や美術家、デザイナーといった色んな人達が、気軽に来てもらえるように呼びかけたりしています。

【山崎】イベントがあっても来やすい場所ですし、こういったお話を知らせて行けば、どんどんファンが増えていくような印象を受けますね。

【唐津】そうなってほしいなと思います。

▶︎ダンサーと巨匠振付家の歴史を追体験する『ダンスの系譜学』

【山崎】カミーユ・サン=サーンスの組曲『動物の謝肉祭』から『白鳥』を聞いていただきました。この曲を選んだ理由を教えていただいてもいいですか?

【唐津】『瀕死の白鳥』というバレエ作品で使用された楽曲ですね。この作品はバレリーナの代名詞で、歴代の色んなバレエダンサーが踊ってきています。

今回、TRIAD DANCE PROJECT という3人の女性にフォーカスをしたダンスの公演を私の方で企画しています。酒井はなさん、安藤洋子さん、中村恩恵さんという、ほぼ同年代の神奈川県出身の3人のダンサーなんですけど、彼女たちは、国内外で活躍をされていて、歴史的な作品や巨匠振付家とお仕事をされてきています。そんなお三方に、ご自身の原点となる巨匠振付家と共同でつくってきて継承しているもの、そしてそれを再構築して新作をつくってほしいという事を、私から依頼をしたんです。

【山崎】なるほど。

【唐津】その中で、酒井はなさんが選んだのが『瀕死の白鳥』という作品。1905年に発表されたオリジナルの踊りと、それを今日的に再解釈してみましょうという取り組みで、演劇作家の岡田利規さんに『瀕死の白鳥』を解体してもらいたいというオファーしたんです。その公演が、この収録の間近に迫っているということで『白鳥』を聞いていただきました。

【山崎】すごく面白そうですね。

【唐津】その3人がカンパニーで一緒に活動されていた、歴史的に有名な振付家であるイリ・キリアンさん、ウィリアム・フォーサイスさんたちの歴史と、彼女たちがダンサーとして生きてきた歴史がレイヤーになって観られるという意味で『ダンスの系譜学』という名前をつけています。

【山崎】なるほど。おもしろい!

【唐津】この見せ方が、私の中の舞踊学芸員という所なんです。例えば『白鳥の湖』という作品を扱うにしても、それを観て「すごく素敵なお話だったわ!」とか「このダンサーが素晴らしかった!」というのは、それはそれでいいんですけど、ダンスや音楽には色んな要素がありますよね?衣装だったり美術も含めて、総合芸術でのダンスというものがあって、そういったものをどういう組み合わせてコンテクストを作ったら、深い解釈が出来たり、皆さんにとって視野が広まっていくかなというような事を考えて、いつも企画を考えている感じですかね。

【山崎】観たい!横浜公演はトライアウトで、愛知県で本公演なんですよね?

【唐津】DaBYはちょっと狭いので、1人のダンサーごとにトライアウト公演をやっています。1人のダンサーに2作品ずつお願いしているので、6作品を全部通して上演できるのは、愛知県芸術劇場なんですけれども。ただ、実は横浜公演も、愛知公演も、チケットがほぼ完売してしまっているので、再演の方法を探っています。
※緊急事態宣言が解除された際には増席の可能性もありますので、随時、下記のサイトをチェックしてください。

【山崎】今週は、唐津絵理さんとお送りしました。こんなにコンテンポラリーダンスの話をしたのは、初めてかもという感じですけど、ダンスとか身体表現って良いですよね。アート色を入れたCMとか手がけた時に、コンテンポラリーダンサーの方に出演していただいたことがあるんですが、画に緩急がついて、良いコラボレーションが出来たことがあるんですよ。そういった事なんかも通じて、身体表現の魅力を、皆さんにご紹介できるようにしたいなと思います。


といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回も、引き続きDANCE BASE YOKOHAMAから、唐津さんが見て来られたダンスの世界についてお話を伺います。

【次回9/5(日)24:30-25:00ゲスト】
愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん

また日曜深夜にお会いしましょう!

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