幸せのさき

午後三時過ぎ

高い天井のレストラン

斜め左の50cm四方の窓から、

空気の層を抜けて楽々とハトが舞い込んだ

対角線上を悠々と飛んでいく

妹はフォアグラの薄片がパラパラのったハンバーグステーキを
一口大に切っている

赤いソファの客が、赤ワインを口元へ近付けた

ハトは飛び込む予定など、お構いなしに

対角線上の窓へ吸い込まれて行くように飛んでいた

私は、しばらく目で追ってから、
妹のハンバーグステーキがすべて切り分けられたことを確認した

午後のなまった空気に一筋についたハトの軌跡が

幸運の幸先のようにも思え、

小さくほくそ笑んでいた

塩麹に付け込んだ豚肉のソテーを一欠け口に入れると、

沁みだした肉の旨味に何とも言えず

黙ってもう一欠けらを妹の皿に載せたのだ

ハトは向こう側の窓に到着したとたん、

待ち受けた店員に網を掛けられてしまった

のろくさいノクターンが聞こえてくる

私はもう少し飛行ショーを期待していたが、

妹がハンバーグステーキに気を取られているうちに

ショーは終わってしまいそうだった

今日という日は、何気なく、何ということもない日だが

期待という気持ちが特別な日へと昇格させて、

ハトを幸運と結び付けたのか

妹はナイフとフォークに用が済み、

箸に持ち替えて次々と口へ放り込む

その姿が何とも言えず愛おしいと思えるなんて

人々の抑え気味の歓談の声

皿とグラスが控えめに鳴らす結晶

目を瞑ると床にゆっくりと足音が吸収されて、

私は、わたしであることが、たまには良いな

と思えるのだった

ふと見ると、店員が不思議そうに虫網の中を覗いていた

ハトの姿は跡形もなく、蒸気のように消えたのだ

はじめからおわりまで、ハトは予定などお構いなしに

自分で決めたとおりに飛んでみせた

おねえちゃん、美味しいね

テーブルの向こうから妹が笑う

私は何となく自慢になって、ニッコリと笑い返すのだ

すべてを手に入れた、そんな気持ちになっていた



bun★jac雀  2020.11.23

*今日のショートストーリーは、昨日、久し振りに姉と会った時の
ことを姉視点から起こしてみました。



かねてより絵本を出版することが夢でした。サポートして頂いた際には、出版するための費用とさせていただきます。そしていつか必ず絵本としてお返しさせていただきたく、よろしくお願いします。ひとりでも多くのこどもたちの夢見る力を応援したい。それがストーリーテラーとしての役目です。