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ゴキブリはすべて黒くて速いのか?〜日本の変わったゴキブリたち〜

ブンイチ(文一総合出版)

なんと!ゴキブリハンドブックは発売前から重版を果たしました!
そこで,著者である柳澤静磨さんに,もっと!ゴキブリの裏話を聞きたいと思い、おすすめのゴキブリとその展示の裏話をまとめていただきました。
ゴキブリの写真と動画がたくさん出てくるので,苦手な人はスクロールせず他の記事をぜひご覧ください!









Author:
柳澤静磨磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員

黒くてすばやい“アイツ”

ゴキブリといえば、黒くてすばやい“アイツ”を想像する方が多いのではと思う。そう。クロゴキブリである。


THE・ゴキブリ

ゴキブリはカブトムシやクワガタムシに引けを取らないくらいに有名な昆虫である。ただ、多くの人が想像するゴキブリは、ほとんど屋内に出没する数種の特徴のみをイメージしているように思う。中でもクロゴキブリは民家によく出没するゴキブリで、暖かい季節になるとどこからか現れ、人間とひと悶着を起こす。ゴキブリをモチーフにしたジョークグッズや殺虫剤のパッケージにも起用されているのが本種である。

“黒くてすばやい”クロゴキブリがあまりに有名なために、この特徴がゴキブリ全体のイメージとして定着してしまっている。

これまでに世界では4600種以上のゴキブリが見つかっており、日本では2022年7月までに64種の生息が確認されている。その中には、多くの人が思うゴキブリのイメージとは離れた外見・生態の種もいる。
今回は日本に生息するゴキブリの中から、「黒くてすばやい」イメージを覆すゴキブリ5種を、動画たっぷりで紹介したいと思う。

日本の変わったゴキブリ5選

小さくて透明なゴキブリ!? ホラアナゴキブリ

ホラアナゴキブリ

ホラアナゴキブリのオス

全体が淡く、透明感のある黄褐色をしている日本最小のゴキブリ。
非常にすばやく動き回る。動画ではおとなしいが、そういうシーンでもなければ撮影できない。ホラアナの名を冠するが、洞窟以外にも林内の石の下や朽ち木内でも見つかる。

ホラアナゴキブリの仲間のキカイホラアナゴキブリ。これで成虫

オスは4.0~5.0 mm、メス4.5~5.0 mmと、クロゴキブリ(約29~33 mm)と比べるとずいぶん小さい。おそらく、本種が家に出たところでゴキブリと思う方はいないだろう。小さいがゆえに展示するのが大変なゴキブリでもあり、毎度苦労させられる。
小さなケースに石膏を敷き、そこにエサを入れて展示するのが見えやすくていい。しかしこうして展示しても、「どれ?いなくない?」と言われてしまう。それくらい小さい。

のんびりのっそり、子育てをするゴキブリ タイワンクチキゴキブリ

タイワンクチキゴキブリ

タイワンクチキゴキブリのオス

なんとこのゴキブリは、子育てをするゴキブリだ。森林の朽木内で幼虫とともに生活し、食べ物を与えて育てる。捕まえて手に乗せるとせかせかと肢を動かすが、かなりのろい。

クロゴキブリのようなトリッキーな動きもせず、つるつるした地面ではうまく歩けない。そんなもっさりとした動きは見ていてかわいいが、ちょっとかわいそうでもあるし、疲れてしまいそうなのであまりやらないように。手に乗せると、強靭な肢で指の隙間をこじ開けようとしてくる。触角も短く、ゴキブリっぽさが少ない。
展示の際、おがくずをたくさん入れてしまうとすぐ隠れてしまうのでごく薄くおがくずを敷くだけにすることで見えるように展示をしているが、それでも自分でおがくずを移動させて隠れてしまう。ただ、完全には隠れられておらず、頭隠して尻隠さず状態になる。かわいい。

青く輝く宝石 ルリゴキブリ

ルリゴキブリ

ルリゴキブリのオス

瑠璃とは、ラピスラズリの名でも知られる宝石。そこからとって、「瑠璃」ゴキブリ。「ゴキブリ=黒い」というイメージを覆す美しさ。特に太陽光に照らされたときの姿はまさに宝石だ。オス成虫の動きはそこそこ俊敏だが、メスと幼虫はオスに比べて動きが鈍い。また、ゴキブリ幼虫から成虫に羽化してきれいな翅が現れるので、幼虫の間はちょっと地味。先述の通り、蛍光灯の下で見るよりも太陽光で見るほうが何倍も美しいので、昆虫館に訪れた人を案内中は、1匹透明なケースに入れ、外に連れ出してその輝きを見てもらう。そうすると「きれいですね」というコメントと共に「楽しそうですね」と言われる。

漢方の材料? サツマゴキブリ

サツマゴキブリのオス

胸の金色の縁取りが特徴の、小判形のゴキブリ。翅は成虫になっても小さく、飛ぶことはできない。腹部周縁は赤く、黒と赤のコントラストが美しい。海岸林から森林までさまざまな環境で見つかる。

シナゴキブリで作った漢方「䗪虫」

メスは漢方である「䗪虫(シャチュウ)」の原料になる。見た目によらず、動きは速い。
コアなファンが多いゴキブリで、本種に会いにはるばる東京や大阪から昆虫館(静岡)まで来られたという方も。小さい翅がまるで天使の翅のようでかわいい。

ダンゴムシじゃないよ ヒメマルゴキブリ

ヒメマルゴキブリ

ヒメマルゴキブリのオス

日本で唯一、「丸くなる」ことができるゴキブリ。

丸くなったヒメマルゴキブリのメス

しかし、丸くなれるのは幼虫とメス成虫だけ。オスは幼虫時代だけ丸くなることができるが、羽化と同時に翅が生え、丸くなる能力と引き換えに飛翔できるようになる。日中は木の隙間や洞などに隠れており、夜になると這い出してくる。樹液やキノコ類を食べているのがよく観察される。大きさは1cmちょっとと小さく、見た目もダンゴムシのようなので、展示すると子どもたちにも人気。触れるコーナーでも大活躍してくれる。
ダンゴムシは肢が14本、このヒメマルゴキブリは6本なので、肢が多い生物が苦手!という人にとってはダンゴムシよりも親しむハードルが低いのでは?とも思う。

「知らず嫌い」はもったいない

「黒くてすばやい」。こういったゴキブリに対して多くの人がもつイメージがすべての種に当てはまるわけではない。ゴキブリは多様な昆虫であり、動きがのろいものもいれば瑠璃色に輝く種もいるし、丸くなる種もいる。「知らず嫌い」をやめて目を向けてみれば、とても魅力的な生き物たちなのだ。

もしゴキブリに興味が出てきたら、日本産ゴキブリ全64種(2022年7月現在)を網羅した図鑑『ゴキブリハンドブック』を片手にゴキブリの世界に踏み込んでみてほしい。未知の世界へ冒険に繰り出すのはきっと楽しいはずだ。

Author Profile
柳澤静磨

1995年生まれ、東京都出身。幼いころから生き物が好きで、専門学校卒業後は静岡県の昆虫館・磐田市竜洋昆虫自然観察公園に入職。ゴキブリの魅力に気づいた後は同園で『ゴキブリ展』を企画・運営し、「GKB総選挙」などのユニークな催しで注目を集める。2020年、所属する研究チームとともに、35年ぶりとなる日本産ゴキブリの新種2種を発表。企画展示、講演会、SNSやブログを通じ、ゴキブリの魅力、生物保全の重要性について発信を行っている。

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ブンイチ(文一総合出版)
自然と生きものの魅力と観察や撮影の楽しさを、本を通して伝えるブンイチ(文一総合出版)。生きものについてのさまざまな話題はもちろん、取材・編集・印刷など本づくりにまつわるエピソードも発信します。毎週ほぼ月曜更新。新刊情報はこちら→https://www.bun-ichi.co.jp