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ねこ物語



敦の家には、メスの猫とオスの猫が2匹いる。4年前の五月頃に貰ってきた。貰ってきたと言うより、掴めてもらったと言うのが本当だ。「出来れば二匹欲しいのだけれど」とお願いした。

自動車中古販売店の裏に住み着いているどら猫達がいる。野良猫だ。去勢も避妊手術もしていないので、毎春、十匹位は赤ちゃんが産まれる。「時たま、カラスに攫われるけど、大概は丈夫に生きている。それでも、全部片付くんだよ、不思議と」と店主の笹川悠介は、自慢するように言う。ということは、母猫と父猫は、店の近くで住み続けていると言う事だ。「二匹確保出来ました。とりあえず、私の家で確保しておきますから、お暇ねときに取りに来てください」と笹川から敦の携帯に連絡が来た。

笹川は、敦の次男の創太と中学時代の同級生だ。創太の焼き鳥屋で飲んでいる時、飲めない笹川がやって来た。以前から知り合いだったので、「また、猫が増えてしましたよ」と創太に言っていたのが聞こえた。「笹川、猫いるの?欲しいな。」「いいでですよ。創太パパのいうことならなんでも聞きます」とちょっと離れた席に座っていた笹川が返事をした。「一匹じゃ可哀想だよな。二匹くらい欲しいかな」と家族に相談もせず決めた。

笹川に家の住所は、寒川町だった。Googleマップで検索したら、わかりやすい道路沿いのマンションだった。笹川の休みの日に猫をパジェロミニで迎えに行った。近くのコンビニでお菓子と飲み物をいっぱい買って行った。ゲージを笹川が持っていたので、そのまま借りて、家に帰った。運転中、「グワオー」とドスの効いた声で唸っていた猫と一方は、「にゃお」と子猫らしい鳴き声だった猫。ドスの効いた声の猫がオスだと勘違いして「アレックス」と名ずけ、おとなしい方をガールズネームで「ミーム」と名付けた。アレックスは、息子の英国の友達の名前を拝借した。ミームはやはり息子の中学時代の同級生の女の子の未夢(みむ)ちゃんの名前を拝借した。何故オスメスだと分かったのかと言うば、笹川がそう言っていたからだった。

真っ白い見たこともないような種類のアレックスは、家の中で徐々に落ち着きを取り戻し、「にゃ」と子猫の声で鳴くように鳴った。何しろ可愛いだけでは、餌、糞尿の始末もあるので、ホームセンターに行って、大急ぎで0歳用の餌とトイレを買ってきた。ネットで調べたが、「店で実際に見た方が早いかも」とペットコーナーを散策した。トイレといっても砂やシートも必要だった。赤ちゃんと用を買って家に帰った。
躾が大事だと言うので、トイレに行くようにわかりやすい場所にトイレを置いた。なんとなく分かったようで、二匹ともトイレを使っておしっこもうんちもしてくれた。

餌もお腹が空いたら食べ始めた。外に出すか否かで揉めた。「赤ちゃんの場合は、室内で育てることにしよう」という敦の一言で室内から出さないことに決定した。子育てと同じで、愛情をかければ、どんどん育つ。二匹とも元気があまりすぎて、カーテンをよじ登って天窓まで瞬時に駆け上がっていた。子供の好奇心に驚かされていた。息子も就職活動時期が重なったが、むしろ猫の存在で癒されたいた。瑠璃子の弟も猫が大好きで、毎晩のように猫と戯れていた。そのイメージがあったので猫を飼うことに賛同したようだ。敦も、家族が増えることで、もっと家族愛が増すと直感で思っていた。

ちょっと大きく鳴ったある時、アレックスが帰って来なかった。二日目、三日目はまだ帰ってくると思っていたが、全く消息がわからない。警察にお願いするにも、首輪もなければ、何もない。特徴はシャム猫のような毛の猫と言うだけだった。四日目も五日目も帰って来なかった。「どこかで飼われているのかもしれないね」と瑠璃子が根拠にないことを言い出した。それが一番いい結果だと誰もが思った。六日目のことだった。ミーちゃんが、異常に鳴いていた。瑠璃子が洗濯物を干しているとひよっこりアレックスの姿が見えた。飛んでいって家の中に入れようとするが、静かにして待つことにした。やっと自分の家だと気づいたようで家の中に入った。無事帰還した。

とことが、みーちゃんは、敵だと思っているのか、アレックスを見ては、唸っていた。しかも、行方不明の六日間も唸っていた。笑ってしますが、居なくなって寂しさで毎日鳴いていた猫が、再会した瞬間から威嚇し始めて、認知するまで威嚇し続けていた。猫の頭脳は空っぽかと思ってしまった出来事だった。「ちょうちょを追っかけて、迷い子になったみたい」と瑠璃子が分析した。

猫は、たまに飛び損なう。そんな時、今の失敗じゃないのよと惚ける。素知らぬ顔で体を舐め始めたり、餌を食べにいったりする。プライドが人一倍強い性格が透けて見える時がある。そんな猫が愛おしく感じる。猫には、猫のプライドがある。尻尾を振って、じゃれつくことはしない。だから、猫だ。そこが無性に好きだと敦は思う。まだ、子供の頃、どこに住んでいるのだろうかと思うくらいに近所の猫が偵察にやって来る。子猫を一目見ようと何匹も変わる変わるやってくる。どう見ても成猫ばかりだ。みーちゃんが大きな猫のお尻の匂いを嗅ごうとした瞬間、激しい勢いで反撃された。驚いたみーちゃんは、子猫なのに、もっと小さくなって動けなくなったことがあった。無闇に人の体に触れていけないという教えでもあった。

こうして、喧嘩もするが、猫社会の教育も受けているようだ。もうそろそろ、教える立場になりつつあるが、大丈夫なのだろうか。喧嘩ばかりしないで、教えることも大事なような気がする。たかが猫、されど猫。のんびり過ごしていているようでも、上下関係や猫社会の掟もあるようだ。「猫可愛がり」という。人にたいする溺愛や盲愛のことを言うらしい。むやみやたらに甘やかして可愛がることを人はやりがちだ。猫は魔物のように人間を骨抜きにしてしまうのかもしれない。「ただ、それだけ溺愛できることは滅多にないからいいんじゃない」と敦は思う。「確かだわ。私もそうされたいわ」と瑠璃子。

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