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バレエとセールスマン


「君たちは、どこからきたのかね」
「日本です」
「僕はアメリカのテキサスから来たんだ。セールスマンをやっててね。毎月、ミラノに来ている。君たち、せっかく、ミラノに来たのだから、スカラ座に行くといい。確か、バレエを上演しているはずだ」
レストラで、食事をしていた妻とわたし。
突然の話に驚いていた。我々も仕事で、ミラノに来ていた。なんと言っても、二人が中心で、リサーチやレポートを作成し、ファックスて配信する仕事だった。そんな余裕はない。

「折角だから、行ってみない」
と妻に促されて、スカラ座の地下のチケット売り場に行った。凄い行列だ。とても、買えそうにない。イタリア語など分かるわけもなく、待ち続けた。すると、何人か違う売り場に行く。ヤマカンて違う売り場に向かった歩いた。そこは当日券売り場ではガラガラだった。売り場のタイムテーブルを見ると、席が空いていた。わけもわからず、一番安い場所を予約した。

「さあ大変だ、着るものが無い。」

エンポリオアルマーニで、ストライプのシャツとネクタイを急いで買って、急ごしらえした。妻は、ワンピースとパンプスを持ってきたので、なんとかなった。

はじめての観劇は、緊張する。一階の真ん中くらいの席だった。周りを見渡すと、バレエファンの家族やカップルで埋まっていた。洋服を見ると、スーツやドレスが目立つ。子供もスーツを着ている。イタリア人だから、子供でもスーツが似合う。

『白鳥の湖』が上演されていた。ラッキーだったのは、曲を知っていたことだ。それだけでも、内容が分かる。

休憩25分を挟んで、約2時間35分上演された。一幕二幕70分と三幕四幕60分くらいかかる。休憩時間は、混んでいたが、一階ロビーの横のバーに行ってドリンクを飲んだ。みんな、慣れているので、混乱はない。それに驚いた。

大体の事は分かっていたが、白鳥の湖が、物語であった事に驚いた。掻い摘んで話すと、『主人公オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロットバルトが現れ白鳥に変えてしまう。激しい戦いの末、ジークフリート王子が悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。』と言う物語だが、それをバレエで表現する。

確か、有名なロシアのボリショイバレエ団なので、壮大な舞台と美しい衣装の数々をみているだけでも、価値があった。

後日談だが、上野の東京文化会館で上演された『白鳥の湖』を家族で観に行った。スカラ座の様な5階・6階のガレリア席まだある劇場と違い高さも奥行きもない、音響面では最悪の劇場だ。

日本も新国立劇場の様に本格的なオペラハウスが誕生日している。これから、歌舞伎以外にも西欧の伝統演劇の会場が増えると嬉しいと思う。

バレエが大好きになったのは、スカラ座との出会い。そのきっかけを作ってくれたのが、セールスマンのアメリカ人。なんか奇妙な組み合わせだった。

人は見た目で判断してはならないと言う教訓。


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