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百歳になる父親 元気に生きる

謙也の父親は、百歳になる。歯は一本しかないのに、なによりも食べることが好きだ。いまは、老健で完全看護されているので、比較的若い看護婦さんが周りにいて、あからさまに幸せそうにしている。

八十歳頃までは、家にいた。といつも、謙也の兄、智也が面倒をみていた。デイサービスと言って介護施設が、9時から5時まで面倒を見てくれる。まだ元気だから、自転車に乗れた。その自転車で、駅まで行き、道路で倒れて血だらけで帰ってくる。家の裏に急な崖がある。その崖にタケノコが生えている。それを取りに行き、転落。またまた、血だらけで帰ってくる。

何しろ、やんちゃな中学生みたいにどこに行くか分からない。ある時、探しまくったら、隣り町の床屋で髪を切っていたと言う笑い話があるが、その時は、必死で探したらしい。てな具合で、破天荒に生きている。

ある時は、入院していた病院から逃走して、家に帰ってきたこともあった。「嫌に成ったから帰ってきた」と平然とダイニングテーブルで飯を食っていた。もう、どう成っても仕方ないと思うほど兄夫婦は、匙を投げていた。そんな折、近所の老健の施設が空いたので、そこに入れた。

最初の頃は、家に帰りたいと言っていたが、看護婦やスタッフの熱い介護のおかげで、家よりも心地良いことを感じたのか、何も言わなく成った。赤の他人の兄嫁にとっては、義理父の下の世話やご飯をこしらえることさえ嫌なはずだ。「親父と結婚したわけじゃない」誰でもそう思う。

そんな訳で、完全介護は、高い代償を払っても助かる。しかも、何十年も我慢した結果、完全に家を支配できる。娘の家も敷地に建てた。邪魔なのは息子の謙也たちだけだ。間違えば、ドラマのように、財産目当てに殺人事件になるかもしれない。そんなことはないだろうが、人間の性で、いつか排除の法則は起こる。親戚関係を切りたくなるもので、妹のさつきとの縁を切ろうと躍起だ。

財産という代物は、守ろうとすると必死だ。1円でも取られまいとする。親兄弟など血縁が邪魔に成っても仕方がない。唯一、血のつながっている兄、智也と謙也は、仲が良いので、親戚が、保たれている。天皇家でも男系と女系とが問われている。今までは、男系で繋がる親戚は永遠に繋がる。

だが、そんな時代も終わるのかもしれないと思っている謙也だった。嫁によって、嫁の家がそのまま、兄弟から子供まで継いで行くのもいいのかもと思う。兄と謙也の息子とは縁が切れても仕方ないのかもしれない。新しい時代になっているような感じがしている。

父親も多分、家でなく、老健で死ぬ。自分の家という概念もなく、莫大な介護料でチャラとなる。寂しさより、その方が幸せのように感じる。以前、マルケンという不動産屋に何千万円と騙し取られた。共同経営者にさせられ、借金を被さられて倒産。そのままその妻が即座に再建して、いまだに平然と経営している。しかも、父の土地建物でそのまま居座っている。ヤクザと同じで、乗っ取りみたいなものだ。そんな詐欺師に会うよりまともなのかもしれないと思う。

百歳になることが何より謙也にとっても嬉しい。肉親が生きていることだけでもめでたいと思う。様々なことがあったが、父親は、父親だ。ありがたいと感謝している。漫才のようにやんちゃな人生だが、それが父親らしいと思う。中学時代、桐蔭高校を受験した時に、近所の食堂で、親子丼を食べた。初めての父親との外食だった。なんだか妙に優しかったことを今でも覚えている。食うことが大好きな父親らしいと思った。


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コミックの小説家でデビューしました。笑いをお届けしたいと思います。ペンネームは文豪乃冬目創玄てす。 こちらにも https://note.com/bungo_3/