見出し画像

写真と人にあるやさしさ/映画『浅田家!』

先週ようやく、写真家・浅田政志さんの実話を基にした映画『浅田家!』を観た。浅田さんは、自身の家族をユニークに撮影した写真集「浅田家」で、木村伊兵衛写真賞を受賞した人だ。

彼を演じるのは二宮和也さん。その家族を、妻夫木聡さん、風吹ジュンさん、平田満さんが演じている。

(以下、映画の内容を含みます)


家族と写真、一般的には切っても切れないものだと思う。写真には、一緒に写っている人や撮った人との関係性が顕著に出るから。

わが家は直情型の母が厳しく、楽しい家とは言えなかった。でも子どもの頃の写真は多いほうだ。父が写真を本格的に撮るようになったのは五十歳を過ぎてからなのだが、昔から記念日でもないのにコンパクトカメラで写真を撮っていた。おそらく興味はずっとあったのだろう。

末っ子の私は恰好の被写体だったらしく、やたらと写真が多い。娘の髪を切ったらすぐカメラを持って来て、一枚。そこには、眉のずっと上まで前髪をパッツンパッツンに切られてブーたれる私が写っている。父とどこかに出かけた帰り、疲れきってまたまたブーたれる私に大きなもも焼きを食べさせたときも、一枚。不機嫌ながらも、骨付き肉にかぶりつく太っちょな私が写っている。

※※※

映画を観はじめたときは、「浅田家のように仲良しでノリのいい家族に囲まれたら、そりゃこんなやさしい人に成長するよね」と、主人公をどこか冷めた目で見つめていた。何しろ、自分とはバックボーンがあまりにも違いすぎる。気持ち的にはおそらく、北村有起哉さんが演じた男に近い。

二宮さんの演じる浅田は、そんな人間の気持ちすら受け止めるようなやさしさで、全国あちこちに家族写真を撮りに行く。そのやさしさの根っこには、好きなものを撮りたいという純粋な気持ちと、破天荒な弟に呆れながらも応援する兄、看護師として働くブレない母、仕事に全力投球する妻を支えるため主夫となった父の存在が当然ある。兄を演じた妻夫木さんには「弟の写真家人生に、僕たち家族は巻き込まれた」というニュアンスの台詞がある。まさに家族のやさしさだよなあ、と思った。

全国の家族を撮影する中で、主人公は死を意識する写真を撮ることになる。家族写真は、被写体にとっては思い出になるし、ひとつの記録にもなる。けれどもしそれが、みんなで写る最後の写真になるかもしれないとしたら、自分は撮れるのか? 撮っていいのか? 彼は悩みながら答えを出して撮影に臨む。

※※※

後半も、浅田さんの実体験を基にした出来事がメイン。2011年3月の東日本大震災だ。

被災地ではカメラを向けず、毎日毎日、津波で泥まみれになった誰のものかわからない写真を洗う。写っているのは誰かの人生であり、誰かの家族でもあった。何もかも失った人たちがその写真の中に家族を見つけたとき、目の前の過酷さと真逆のやさしさや希望へと時間が巻き戻っていく。だが途端に、また辛い現実を突きつけられる。

そっと寄り添うことしかできないもどかしさを抱えながら、それでも主人公は仲間とともに作業に没頭する。家族も、遠く離れた場所から彼を静かに見守り続けるのだ。

それをスクリーンでじっと観ていたら、自然と涙が出ていた。最近、映画観て泣きすぎじゃないのか?  (汗)

自分は「絆」について、ついドラマ『リーガル・ハイ』の第9話で発せられた台詞「だって、絆があるからぁ!」を思い出してしまう性質で。ついでに言うと、空回りな“前向き”にもどっちかというと後退りしてしまう性質で。

伝えるニュアンスが難しいな。疑ってしまうと言えばいいのか。例えば大失恋した人に「そのうち時間が解決してくれるよ!」とすぐ言う人にも「そんなわけないだろ」と思ってきた人間だし、自分のバックボーンだから仕方ないが「家族っていいよね!」「絆って素晴らしい!」なんていう気持ちには、そうそうなれない性質で。

だけどこの映画は、現実に目を背けなかった写真家と周囲の柔軟なやさしさを映し出していて、観る側の心を自然と前向きにさせる。なんだろう、感動とは少し違う。映画の”強さ”、とでもいうのだろうか。その強さは、実話を基にしているからなのか?  いや、実話を基にしたという映画に、今までたくさん騙されてきた気がするぞ、私は(笑)。

うーむ、ことばにする能力がなくて困る……。ただ、辛いことが続く今、自分がこの映画を観たいと思ったのは偶然ではないのだろう。

※※※

ところで二宮くんは、こんなにやさしい目だったっけ!?  自分の記憶にある彼は、映画『硫黄島からの手紙』での演技が鮮烈で、どこか空虚で物憂げな風に思っていたけれど。『硫黄島……』って、調べたら2006年の映画だった! 15年近く前なのか。びっくりだな。とにかく『浅田家!』の彼の表情、その根底にあるのはやさしさだ。

そして妻夫木くん、やはり頼まれ事をしたときの困り顔が素晴らしい(褒めてる)。なんだかんだ文句を言いながらも、弟のことが可愛くてたまらないのだなと、兄弟の関係が手に取るようにわかった。そんな兄弟に育てた両親が風吹ジュンさんと平田満さんって……、あり得るわーと思える配役でとてもよかった。

毎年、秋は自分にとっての良作に出合えることが多い。この状況なので、近場の映画館にしか行けないのが残念だけど、また何か気になる映画を見つけたら、観に行ってみよう。朝一番の上映だと、観終わっても午前中まだ仕事ができるし。スクリーンで観るのは、息抜きとしてもとてもいい。



この記事が参加している募集

習慣にしていること

映画感想文

記事を読んでくださり、ありがとうございます。世の中のすき間で生きているので、励みになります! サポートは、ドラマ&映画の感想を書くために使わせていただきます。