ケース バイ ケース
それはまだ、駅のホームにあの柵がなかったころのこと
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夜のことだった。
乗換駅で電車を待っていると、隣りに立った中年のサラリーマン風のひとが、はっきりとした声で独り言を言った。
「ケース バイ ケース!」
電車来てもそのひとは乗り込まず、ホームにひとり立ち尽くしていた。
口元が動いてまだなにか呟いているようだった。
どことなく不安定な感じがした。
ふっと、あのひとが、この後来る電車に飛び込んだら?と不安になった。
そしたらその最後の言葉を聞いたのはわたしになる。
むろんそんなことは起こりはしないのだけれど
「ケース バイ ケース!」と言う言葉が耳に残る。
こんなケースが思い浮かぶ。
……家路の途中で今日の出来事がこころを占める。それもうまくいかなかったことだ。
なぜそうなったかとこころは時間を遡り、迷路の突き当たりで思案が止まる。
あのときはこうだった。なのに今度はそうはいかなかった。なぜだ。
誰のせいだ?あいつか?いや、自分か?
責任は誰が取る?あいつか?自分か?
違う道ならよかったのか?その選択を何故しなかった。
いや、それはそれで、マイナス要素が多い。前例もない。
これはこれで、仕方のないことだが、仕方がありませんでした、では子供の弁解だ。
どう言えば大人の釈明になる?申し開きができる?
あー、ケース バイ ケースか?
それでいけるのか……
勝手にそんなものがたりを仕立て、こっそりガンバレ!なんてつぶやいていた。
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