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文の文 1

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文というハンドルネーム、さわむら蛍というペンネームで書いていた作文をブラッシュアップしてまとめています。
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2021年4月の記事一覧

チラシ配りのうた 2

チラシ配りのうた 2

おばさんはどんな恰好でチラシ配りの面接にいけばいいのだろう。

まさかスーツではいけないしな。まだまだ暑いしな。汗かくしな。でもちょっとは決めとかんとな。落ちたらカッコ悪いしな。

こういうところが我ながら困るところである。思案し始めるときりがない。白と黒でいこう。髪はきっちり縛って。ちょっときりりとした顔で。チラシ配りの面接に行こう。

面接を受けるのは、こわい松浦教授に泣かされ、ハンカチを貸し

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チラシ配りのうた 1

チラシ配りのうた 1

それはずいぶん前のこと。

*****

夏のおわりに50歳になった。ああ、年寄りになったのだと思った。自意識が過剰気味の自分にとっては、なにかが取っ払われたような、肩のあたりがふっと楽になるような感じでもあった。

ではあったが、同時にこころもとなくもあった。更年期のこころは振り子のように振れるのだ。

思いがけずよい出会いに恵まれながら、それを生かしきれず、何者にもなれず、ただ漫然とこのまま、

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えらいえらい!

えらいえらい!

まあ、なにがあっても、人生は続いていきます。

あたし、41歳をむかえる夏に片頬になりました。

自分でいうのもなんだけど、えらいと思います。うん。あたし、えらい!!

だって、片頬で生きてるひと、ほかに知らないもん。ほかのひとがわからないところで、しなくていい苦労してるもん。

左右が非対称で長く生きるとね、日々の暮らしの体の動きだけでも、だんだん偏ってくるから

まっすぐ生きようと思うと、筋肉

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年寄りの繰り言

年寄りの繰り言

あっと思うと手にしたものを落としている。割れないものならいいが、台所ではそうはいかない。もう元には戻らない欠片を拾うその手を見つめる。

指先のちからがなくなった。ちからを制御する能力が低下した。脳と身体の器官とのつながりがうまくない。つまり衰えたのだ。年を重ねているということだ。

それだけでなく、物忘れを含めてうまくいかないことが重なる。

きっかけはささいなことで、そこからぬかるみに沈んでい

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距離

時にひととの距離の取り方に悩む。京都にもどってから、ますますだ。

こんなに長く生きてきて、思春期に思い煩ったようなことにいまだに振り回されたりする。まったくもって成長のないことである。

まるっきりわからないというのではない。正解はなんとなくわかるのだけれど、それがどうもへったぴいなのだ。いかんな、とよく思う。

初対面はいい。自由にとわれごとなくのびのびとした自分でいられる。知らない人は気楽だ

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いいんだよ。

いいんだよ。

春はどうもいけないね。
気持ちが不安定でいけない。
すくすくと育っていくものに囲まれながら
こころは沈み込んでいく。

ただここに突っ立っているだけでは
取り残されてしまう
そんな不安が身を包む。

が、そんな不安になんの意味がある。

取り残されているのではなく
ここにいるのは自分の意思だと
そう思わなければ
永遠にこころは削られるばかりだ。

ここに突っ立つ意味は
ここが安心できる場所だからだ

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キルトに寄せて 〜そんな日のあたしのアーカイブ〜

キルトに寄せて 〜そんな日のあたしのアーカイブ〜

♡おんなたちの旅

友人のキルト展で、見事に並んだパッチワークキルトの大作を眺めながら、それに費やされた時間を思った。それに向き合うおんなのひとの気持ちを思った。

完成するまでの長い長い時間、日々は明け暮れ、晴れた日ばかりでなく、額が曇る日もあったにちがいない。

こころ晴れやかな日、その単純な作業の繰り返しのなかで、どんな光景を思い出していたろうか。頬に笑みなど浮かべたろうか。

沈みがちの日

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お言葉セレクション

お言葉セレクション

なにげなくテレビを見ていると、時々、だれが口にした言葉が耳をつかむ。たいがいは忘れてしまうのだが、妙にこころに残るものもある。

「減速の美学」

ドイツ日本研究所のおばさんが日本語で言った。
ゆっくりいこうってことなんだろうけど、美学といわれると、ちょっと居住まいを正すような気分になる。

「末端が大事」

五木寛之氏があまり風呂に入らないのは、遠藤周作氏にうなぎの体表のぬるぬるを洗い落とすと死

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かなしいこと。

人間は誰かの役に立たないで長い時間を過ごすと
正気ではいられなくなるそうだ。

それは本能的に組み込まれているものなのだ、と
ずっと前、京大の霊長類研究所のセンセイが3チャンネルの視点論点で言っていた。

生殖を終えてなお長生きする生物はあまりいない。例外的に長生きするものもいて、象もそのひとつだ。

群れのなかのごくつぶしのような存在であっても、その老いた象は、津波が来る前の低周波を感じ取って、

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侘び寂びスニーカー

侘び寂びスニーカー

落柿舎は「元禄の俳人向井去来の遺跡である」と説明書きがあった。

本庵というのは2帖の間が3つ、3帖と四帖半がひとつずつで 縁側もあり、なんだか歴史博物館に行ったような気分で なるほどー、侘びているわーと感心して見学した。

その左手を進んでいくと次庵というのがある。 そこも本庵に似たつくりに見えたが、 一部ガラスの部分もあってちょっと中が見えた。

と、そこでは長机をはさんで 向かいあって

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老いた功労者

老いた功労者

村上春樹さんの短編にこんな台詞があった。

「短編小説という形式は、あの気の毒な計算尺みたいに 着々と時代遅れになりつつある」

この計算尺という言葉を久しぶりに目にした。

わたしは算数がとても苦手で、繰り上がりさえ忘れてしまいそうなおバカさんで計算尺というしろもの、見た覚えはあって、手にしてことも記憶にあるのだけれど、そう、なんか白くて数字がいっぱい書いてあって透明のカーソルみたいなのが

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注意深く節度ある振る舞い

注意深く節度ある振る舞い

2006年04月18日の朝日新聞には大江健三郎さんの「定義集」という記事があった。そのなかのこと。

*****

障害があり成人病のきざしもあるご子息の光さんと大江さんは歩行訓練のため遊歩道を歩く。 その歩行訓練中に光さんが石に足を取られて転んでしまう。光さんも大江さんも動転してしまう。

大江さんが光さんの上体を起こし、柵に寄らせる。それはもたもた頼りない動きに見えた。

そこへ自転車でや

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辞書を開く

辞書を開く

本棚に「現代俳句言葉づかい辞典」(博友社)なるものがある。なんとなく開いてみる。他にやるべきことが、たくさんある時ほど、関係ないものを手に取ってしまう。

俳句を作ろうというセンスも気合もないし、その方面の知識など皆目なのだが 、このタイトルの前についてある言葉 「ことばの海を掬うための」ということばがいい。

なにしろ言葉数は多いに越したことはない。本書は、それも名詞ではなくその名詞にふさわしい

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サクラサクラ

サクラサクラ

サクラサク
サクラチル

ソウヤッテ
メグッテイク

サマザマナ自然ガ
サマザマニ萌エハジメル

ヒトダッテ
サマザマデイイジャナイカ

盛りを過ぎれば散るしかない。

サクラにしてみれば
散ることも生きることの過程のひとつ。
それはひとの細胞が
次々に入れ替わっていくのと同じ。

それでも
なんなんだろうね
このものがなしさは。

自然が教える精神性の
自分にとっての正解は
自分で掴み取るしかな

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