武甲山の語り部(1)
秩父には、武甲山つぅでけえ山があってな。
その山はお宝の山だったんよ。
なんでも、むっかしの何万年も何億年も前の生きもんの死骸が固まってできた、石灰っつーのがあってな、それがお宝でよ、
これを掘れば金になるっつんで、秩父の人はこれを掘ったんよ。
そいでな、最初は小さく手掘りをしてたんよ。
でもな、最近の時代になって、そうなぁ、おじいくらいの時代かさー。
東京の大きな会社が入ってきてな、ミツマテ(三菱マテリアル)っつったかさ、そこが掘り始めたらな、あのでけえお山がよ、形が変わるくれえになっちまってよ。
みんな、あんなでっけえ山がなくなるわけねえ、つってさ、
たまげたいな。おらぁ、きいてねーよ。
あり得ねぇ事が起こると、人間っつうのは、こう、
なんか頭が真っ白になるんで、これはなんか見ないことにしようって思うんかさ。どうなんかさ、あまりお山のことを言わなくなったいな。
言わなくなったつっても、秩父夜祭の神様はあのお山だんべ?
どうすんかさー。
心の底では、このまんまじゃよかぁねえだんべぇ、と思ったりしてもよ、
なかなか大ぴらには言えねーだんべ。
悲しいけどな。
お山は大事な神様なんだけど、
その神様をあんな姿にしちまった苦しい気持ちもあるしな。
ただ、わしらのこういう苦しい気持ち、
皆に聞いてもらうっつうのも、なんかご供養のような気持ちもあってな。。。
都会にある立派な建てもんの一部は、
このおやまから掘った石灰でできてることも知ってもらいてぇと思ってよ。
人間てのはつくづく業の深いもんだぃな。
でも、それが人間だいな。
お山は、そんな人間の困ったところ、たくさん見て、
でも、黙って掘られてるさ。
黙ってなぁ。
そんなお山に、こう、手を合わせて拝むんだよ。
ありがとう、ごめんな、つって。
どうしようもねえ人間だけどもよ、
こうして手を合わして拝んでる姿を見守ってくださってるんだいな。
ああ、もうほんとにな、どうしようもねえだんべぇ。
許してくれな。
ありがとな。
いい山だったいな。
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