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【企画】人生を語る〜やさしい日本語を広め隊 with コロナ

以前から私は大学時代にスペイン語を専攻していて、そこから日本語教師としてのキャリアが広がったことは何度か書いてきました。

スペイン語をしていたからメキシコの求人に乗り込む勇気が持てて、メキシコに行ったから今度は母校の大学からスペインの大学で教鞭を執る話をもらって、この2カ国の経験を買われて今の日本語学校の校長が「面白い、うちに来い」と言ってくださったのです。


これは間違いありません。


でも、もう一つ裏の側面があります。


この期間、資金繰りには苦労し続けたこと。


各国での滞在には困りませんでしたが、渡航費が出なかったことと、帰国後がかなり困窮したこと。


そして私は国内では日本語学校に勤める気がなかったのもあり(!)、プライベートレッスンと他のバイト掛け持ちでした。


その中で比較的長く勤めたのが、歯医者さんの助手。プライベートで日本語を教えながら、こちらでは4年半お世話になりました。

助手というと、歯石とってくれる人?とよく聞かれましたが、いえいえ、あちらは歯科衛生士さん。専門職です。


助手は簡単にいうと雑用。


無資格なので、資格が必要な仕事はできませんでしたが、先生に言われた器具を用意したり、機械出しをしたり、歯形を取る際の粘土のようなものを練ったりしました。


個人経営の歯医者だし、こちらのできる仕事は限られていましたが、それでも医療のことを少し勉強させてもらいました。

お薬の名前と副作用、どのような病気が歯科治療に影響するかまたはその逆、術前術後はどのようなケアが必要か、

レントゲンの見方、カルテの読み方(これは教えてもらったと言うより数をこなしていく上で自然に覚えた)

器具の名前など。


ここで得た知識は一見、日本語業界とは無縁に見えますが、

案外そうでもない。

介護士さんが患者のお年寄りに接するときの言葉遣いややり方は介護職を目指す学生のアドバイスに役立ちます。こちらもお手伝いさせていただいたこともあります。

また、歯の問題は老若男女国籍問わずです。「先生、歯が痛いんです。」と言われたら「どう傷むの?ずっと痛いの?歯が痛い?歯の近くが痛い?そこを治療したことはあるの?」とある程度は詳しく聞けます。診断はできないけど、まずは冷やしてごらんとか、市販薬ならこれは安全だよ(でも薬剤師さんにちゃんと相談してね)くらいなら言えます。


そして、ここからが問題点。2点あります。

一つ目。

勤めていたときに思ったのですが、患者さんが外国人の場合、医師が話す言葉を理解していないまま「はい、はい」と言ってそのまま治療に入ってるんじゃない?と思うことが多々あったこと。

日本語がものすごく堪能か、または通訳してくれる人がいればいいですが、そうじゃない人ももちろん結構いらっしゃいました。


病院の言葉はただでさえ難しいです。そこに、日本語がわかると言ってもその言葉を理解できるまでの人ってどれだけいるんだろう?


ここがもやっとポイント①


さらに、日本語が少しでもわかるとなると、普通に話し出す人って多いです。しかも必要以上に丁寧な言葉で。

または、どこの国の人でどう言う言語的背景を持っているかわからないのに『外国人』とくくって英語で話す人もいます。その人が英語がわかるかもわからないのに。英語より日本語のほうが得意かもしれないのに。


ここが、もやっとポイント②


このもやっとポイント①②ってほっといていいの?


また、これは私の実体験で感じたんですが、

私は英語よりスペイン語の方がマシなので、スペインで旅をしていたときは「スペイン語で話してください。その方がわかります」とお願いしていました。ペラペラマシンガントークになる人もいれば、こちらのスピードに合わせて話してくれる人など色々いましたが、それでもよかった。


だって、

ネイティブじゃない英語って場合によったら聞きにくいよ?

それより、単純な言葉と表現でいいから現地の言葉で言ってくれる方がわかるよ?

と思うこともあるのです。


外国人全員が英語が話せると思ったら大間違いです。話せない人もいます。日本に住む日本人だって、外国に行けば外国人です。その中で何人が病院の英語がわかるのでしょうか。少なくとも私はわかりません。stomachache やheadacheくらいはわかりますが、筋弛緩薬とか言われてもわかりません。

筋弛緩薬はmuscle relaxantというそうですが、medicines for relaxing muscleとでも言ってもらったほうがいいです。

このように、日本語の方がいいと言っても医療の日本語を理解できるレベルなのか、簡単な日常会話程度なのかもわかりません。

だから、みんなで「やさしい日本語」、話しませんか?


特に病院や役所。お役所はかなり『やさしい日本語』に力を入れているところもありますが、個人病院はまだまだ。スーパーやレストランはもっとまだまだ。


お世話になっていた歯医者の先生も、外国人と見ると私を呼び出すか(説明してと言われましたが、医療通訳の勉強はしていないのでわかりません。そもそも私英語わかりません)、少しでも日本語を理解すると知ると日本の母語話者と変わらない話し方をするかのどちらかでした。

それなのに患者さんが帰ってから「わかってるんかなぁ?」と言う始末。

それならわかる言葉使ってあげなよと思いましたが、下っ端にそれを言う権利がなかったのと、私がまだ今ほど図太くなかったので言えず…。(そしてそこはその先生の機嫌を損ねないのが第一の職場でした)


だからこそ言いたい。


医療スタッフに『やさしいにほんご』を提供することの大切さを。

子どもに話しかけるように話せでありません。

大人に簡単な日本語を使って話すだけです。

簡単な語彙と文法でで、短く、はっきりいうだけで伝わり方は変わります。「です、ます」「てください、ないでください」で十分です。


これは日本語教師とは立場がズレるけど、技能実習などで海外から介護士・看護師候補生を呼んで、日本語を覚えてもらって働くのも日本経済では大事なのはわかるけど、それ以外の目的や立場で日本に来た人が気軽に医療を受けられるように、我々日本語母語話者も一つ目線を落とすべきなんじゃないのかと思うんです。

母国の言葉と日本語、双方に堪能な介護士さんや看護師さん、とても必要です。医師だっていろいろな言葉を解する人もいます。でも、全員がそうじゃない。全ての言語を網羅できるわけでもない。


じゃあ、せめてやさしい日本語で対応しましょうよ。


私はそこの橋渡し役をしたい。

以前、友人が主催するいろいろな職業の人が集まって仕事についてやそれに伴う今後の展望などをプレゼンする会でメインスピーカーの一人としてお話させてもらう機会がありました。

そこで話したことも同じ。

「外国人だからとひとくくりにして英語を話すよりも、簡単でいい。『です、ます』だけでいいです。日本語を話してあげてください。彼らの母語が英語とは限りません。彼らが英語が理解できるかなんてもっとわかりません。それより、シンプルにはっきりと時にはジェスチャーや絵を加えて日本語で話す方がスムーズなこともあるんです。
私も含め皆さんが、世界の共通語である英語を勉強することは素晴らしいです。間違っていない。でも日本で暮らす外国人が現状必要としているのは日本語です。そこで壁を作らないでください。私たちが片言でも英語やその他の外国語を話してわかってもらえたらうれしいように、彼らだって日本語がわかってもらえたら嬉しいんです。相手の言うことがわかったら嬉しいし、日本語もっと頑張ろう、日本で働きたいと思ってくれるでしょう。それは日本の社会にも大きなメリットになるはずです。
ただし、相手の様子を見て英語が必要か、日本語でいいのかはご自身で判断くださいね?笑」

とお話しし、大きな反響をいただきました。

「外国人というだけで英語を話さなければと思っていました。自分の偏った見方ですね」「です、ますだけでも伝わるというのが、当たり前なのに盲点でした。職場にいる日本語がまだあまり上手じゃないスタッフにこうやって話してみます。」「私は英語教師なのですが…日本語をおろそかにしてはいけないと心から思いまいした」

などなど。

少しでも広がってほしい、「やさしい日本語」。

勉強して頑張って上がってきてもらう日本語のレベルと、目線を合わせて下げる日本語が共存して医療現場で広まってほしい。



鎮痛剤って言わなくても、「痛いのが弱くなる薬です」でいいじゃない。(私は初級の学生には「痛い、さようならの薬です」「痛い、これを飲みます、あとで痛くないです」と言います)


消毒って言わなくても、「ウイルスを殺す薬を塗ります」でもいいじゃない。


アレルギー、英語と発音違いすぎてわかりませんよ?それより「何かを食べたら体がかゆいですか?花の近くに行くとくしゃみが出ますか」でいいんじゃないの?


血液検査なんて「血を取って調べます」で十分ですよ。それでもわからなければ「体の中の赤い水、取ります。調べます。テストです。」。(表現が相当恐ろしいけど)


もし今のままでは日本語教師を続けるのが厳しくなりそうなら、私はもう一度医療の方に行こうと思います。歯医者を選んだ理由は当初、給料の良さと勤務時間が決まっているからという単純なものでしたが、そこから言語面での日本の医療の穴が見えた。


そこを埋めたい。


日本語学校の学生はよく、「先生とは話ができますが、他の日本人の話がわかりません。なぜですか」と聞いてきます。

一言で言うと、先生はみなさんの知っている語彙と文法のみで話すからです。


でもそれじゃあダメでしょ。


日本語学校の先生と話すために彼らは日本に来た訳じゃない。


もちろん彼らが実社会で困らないレベルの日本語が身につくように指導するのが我々の仕事ですが、歩み寄るのも大事です。


それを浸透させたい。


そのために、



次は資格も取って、もう一つ上のレベルで関わりたい。(文系で取れる資格あるかしら)


定住外国人が「あの病院に行くと話がわかりやすいスタッフいるよ」になりたい。そういうスタッフが少しでも増やす活動もできたらしたい。


やさしい日本語はなにも外国人のためだけではありません。子どもだってわかる。日々増えていくカタカナ医療用語に困るお年寄りだって助かります。わたしも助かる。


これは薬局でもいいです。

海外の人って病院よりまず薬局で薬を買って自力で直そうとする人も少なくないから。説明書を読んでわかる人はいいけど、漢字ばかりの説明書って頭痛くなる。それより聞いた方がわかる人も多い(私)。


コロナ禍で私ができそうなことって何だろう?と改めて考えた結果、医療と日本にいる外国人をもっと繋げたいと思う気持ちが強くなりました。

医療ど素人の私でも少しは貢献できることがあるなら、実習生の日本語指導もそうですが、日本人スタッフが医療関係以外の職につく外国籍の人とうまく話せる環境と意識づけのお手伝いができたら。そして、他の職に就く外国人が言葉の心配せず医師や看護師から直接説明を受けられるのは嬉しいこと。そこを掬い取りたい。大事な部分は専門の通訳さんがいた方がいいけど、そうもいかないことの方が多い。

なら、スタッフの意識を変えていくことをしたい。


あと、自分自身も少しは医療の現場で役に立ちたい。そのためにも今はまずは自分に知識がなければと思い、少しずつ勉強中です。


※※※加筆※※※

普通に投稿しておりましたが、みおいちさんから「人生を語る」企画の参加記事になると仰っていただいたので、企画参加記事にいたします!

「人生を語る」とあるので、もっと壮大なことを書くべきかと思っていたので少しびっくりしております。笑笑 


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