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「 未定 」 #47 Birthday

 イズコが巨大岩の近くまで慌てて駆け寄った瞬間、湖面からザバァーと水音をたて首の長いドラゴンが顔を現した。

「ひぃいぃー」
喜びのあまりすっかり油断していたイズコは、突然のモンスターの出現に驚いて尻もちをついていた。
ドラゴンは獰猛なその顔をイズコに向けて、半開きに開いた口からはダラダラとヨダレを垂らしていた。イズコは動こうにもその体を動かすことができなかった。その時彼はカエルが蛇に睨みつけられ動けなくなる気持ちがわかったような気がした。
 これはおそらく水竜だ。『金の苺』を目当てに寄ってくる冒険者達を餌としていたに違いない。水竜は口を開きながら大きな顔を獲物に近づけて喰い付こうとした。その瞬間に光のドームが現れてイズコの身体を包み、水竜の頭は喰い付くその瞬間に光の膜に弾き返された。
ホルトスがプロテクションの呪文をイズコにかけたのだ。

 戸惑う水竜の隙を逃さずブローボが飛びかかる。彼は水竜の首を大剣で斬りつけ、竜の首から血が吹き出した。水竜はのたうちながら水中に消え去っていった。

「イズコ君、大丈夫かい?」ホルトスはイズコに近づき安否を気遣った。

イズ「危ないところだった、助かったよ」

ブロ「最後の最後まで気を抜くもんじゃねえぜ。大抵あと一歩というところで落とし穴が待っているもんだ。しかし、あの水竜を仕留め損なってしまったな・・・もったいない。殺しておけばすごい収穫になったんだがな。おっと、、でも落とし物だぜ」
ブローボが切りつけた際に剥がれた竜の鱗が数枚落ちたのだろう。彼はそれらを拾い上げた。ドラゴンの体の一部はどんなものでも高い価値がつく。

ホル「お、あれじゃないの。なにか光っているよ」
ホルトスが指差す先、緑の葉の間から金色に光る物体がいくつも輝いていた。

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 その後僕ら3人は目的の実を収穫して、帰り道も狼の群れを撃退しながら迷うことなく『幻惑の森』を抜け出すことができた。警戒していた『銀の鬼』の手下の襲撃も幸運にも今回は出くわすことはなかった。

居酒屋エロイーズの一室で3人は報酬と収穫の分配について話し合っていた、エール酒を飲みながら。

ブロ「しかし、今回はほんとに働きの悪いやつがいたなあ〜〜」

ホル「まあ、そう言うなって」

イズ「・・・悪かったよ、確かに足引っ張っていたけれど。今回、君の依頼だから好きに決めてくれよ。ただ報酬はいらないから少し金の苺をわけてくれればいいんだけど」

ブロ「どうすっかなぁ〜〜」

イズ「・・・・」

ブロ「そういえば、お前にとってはこの街で、始めてチームを組んで冒険を成功させたわけだな。俺達とも始めてチームを組んだ。いわば、誕生日さ。お〜〜い、マスター、あれ持ってこいよ」

「あいよ!」マスターのウートンがトレイに何かを載せて持ち運んできた。

イズ「こ、これは・・・」
テーブルの上に置かれたものは金の苺が沢山のっている大きなケーキだった。

ブロ「おめでとう!これは俺からの誕生日プレゼントだ。野暮なことは言いっこなしだ、持っていけよ、、、それとお前の目指してる夢、追い続けろよな、これからも。あのな、礼なんかいらないからな、わかったな」
ブローボは頭を掻きながら上目遣いにこちらの表情を伺っている。

イズ「あぁ、あ、あり、あり、ありゃりゃりゃ、こりゃおどろいたぁ〜」
誰かが僕のために・・・今まで流浪の旅を続けてきたけどこんなことがあるなんてね、、、忘れられない誕生日だな


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