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「 未定 」 #46 Sense of distance

「うおりゃあぁーーー」
ブローボは飛びかかってきた狼に剣で真っ二つに切り裂いた。
彼はこれで10頭以上の狼を切り倒しただろうか。幻惑の森に挑むパーティーのメンバーはイズコ、ブローボ、ホルトスの3人だ。もうひとりパーティーの仲間が欲しかったと3人の誰もが感じていたが、手を挙げる者がいなくては仕方がない。この前の失敗を考えれば、今のところは非常に順調だ。

「ブローボ、体のキレが良いね。アロマテラピーの効果が出たかな」とホルトス。
「ん〜、、、そう、かもな」渋い顔をしているブローボ。

ホルトスは、「君たち二人では心配だ」とこのミッションに加わってくれた。回復の呪文を唱える僧侶の重要性は言うまでもないだろう。実際ブローボはホルトスと多くの冒険をともにしてかなりの恩恵を受けていた。

ホルトスがイズコに声をかける。
「イズコ君、少しブローボに近づきすぎているね。僕らは直接的にはほとんど戦闘に参加しない。ここで大事なのは僕らの距離感だよ。戦士に近づきすぎるとバトルに巻き込まれ邪魔をすることになる。遠すぎると戦士のサポートをすることができない。近すぎず離れすぎないことが大事だよ。」

「そうか、、わかったよ」イズコは返事をした。

数回に及ぶ狼の群れの攻撃を撃退し、3人はさらに森の奥深くへと進んでいく。鬱蒼と薄暗い森の中ではあるが、前回の挑戦とは比較にならないくらい安心感がある。ブローボが持つ戦士としての敵に対峙する圧力と戦闘の破壊力、おそらく彼の前に立ち塞がる大抵のモンスター達はこの世界に長くとどまる事を許されないはずだ。

不意にブローボが後ろを振り返りイズコの胸ぐらを掴み上げ、彼を地面に投げつけた。
「おい、どうした?」イズコは驚いて倒れた体勢からブローボを見上げた。
彼の表情は怒りに満ちている。周囲が歪んでいるように感じる。何故かイズコも無性に目の前のブローボに対して憎悪の感情が湧き上がってきた。イズコがファイヤーボールの呪文の唱えようとしたその瞬間、

「ブローボ!イズコ!」
ホルトスの強い掛け声で二人とも我に返った。

「今、混乱状態から回復をする呪文を唱えたよ。妖精のいたずら以外にも、何らかの理由で人を混乱させたりに憎みあわせる魔力がこの森にはあるようですね。それが『幻惑の森』の名称の所以でもあるのでしょう。私も注意しますが二人とも意識しておいてください。」ホルトスは冷静に説明をした。

二人ともにふぅと息を吐き胸をなでおろした。
ブロ「すまん、なぜか急にお前が憎くて仕方なくなってな」
イズ「いや、僕もファイヤボールをぶつけたくなったよ。危なかったな」
そういえばこの道中に数体の冒険者の亡骸を目撃したが、同士討ちをしたような形跡のものがいくつかあった。冒険者たちを狂気に陥れる魔力、それがこの森の攻略難易度を高めているに違いなかった。

乱れた精神を落ち着かせて、我々はさらに森の奥へと進んでいくと黒い木々の先に湖が見えてきた。
やった湖だ。この湖畔に金の苺があるはずだ。ついにここまで来た、胸の鼓動が高まってくる。

ブロ「ついに来たな・・・」
イズ「ああ・・・」

確か湖畔にある大きな岩の近くに金の苺は群生していると聞いた。
嬉しさあまりに大きな岩を見つけ、そこを目掛けて走り出すイズコ。

「慌てないで、油断してはいけない」ホルトスは急いで忠告する。

イズコが巨大岩の近くに駆け寄ったその瞬間、湖から大きな水しぶきを立て長い頸を持つモンスターの頭部が勢いよく現れた。
その怪物はイズコに今にも食いつこうと襲いかかってきたのである。


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