見出し画像

「NPB改革案」を全力で考えてみる

 11/5(月),読売ジャイアンツの原監督の発言によって野球ファンの論争は熾烈を極めていた。

FAで選手を取るというのは、野球界全体の活性化。それはマイナスでなく、プラスなこと。明るい話なのに、そのこと(人的補償)になった途端、暗いニュースになる。これはあってはいけないことですよ
https://www.sanspo.com/baseball/news/20191105/gia19110505030003-n1.html

 つまるところ,「A・Bランク選手のFA権行使にともなう人的補償の廃止・改正」を望む発言だ。

 そもそも「FA選手のランク」「人的補償」とは何か。少しおさらいしてみよう。


Aランク:前所属球団で年俸上位1~3位 &(※)
Bランク:前所属球団で年俸上位4~10位 &(※)
Cランク:A・Bランク以下の選手

(※)移籍元の球団に旧年俸の50%(Bランクは40%)を払うだけでなく、プロテクト外の選手を1人放出しなければならない。(人的補償

 プロテクトについては28人を対象にすることができるが,一軍登録者数が29人ということに鑑みても,人的補償が無傷という訳ではないことが分かる。(金銭補償の場合は別だが…)
 原監督の言うように,FA権の行使は選手の権利であるのに,それがまるで悪いことかのような行為であるという風潮は確かに球界を取り巻いている気がする。「人的補償」という名の生贄じゃないかというような声も。
 ただ,これに野球ファン全員が同意しているかと言われればそうではなく,原監督への批判も多く見られる。「戦力均衡の術がなくなる」「資金力のあるチームだけが生き残っていく」などの意見だ。確かに。現状,人的補償以外の戦力均衡案が無い為,このような意見はもっともだ。

 これについては「FA選手を多く獲得する資金力が潤沢なチーム」の監督が放った言葉であるからして,強烈なバイアスがかかっていることは否めない。どこの息もかかっていないOBや,資金力のないチームの監督が放った言葉ならここまで批判は無かったように感じる。折角,1球団のトップが発言したのだから,これを「金持ち球団の戯言」で終わらせるのはあまりにも愚鈍である

 先月,日本シリーズの終焉とともに,今回の議論と同じくらいの熱量を誇った議論がある。「セ・パの戦力格差」,ひいては「チームの戦力格差」問題である。圧倒的な資金力・育成メゾットを有している福岡ソフトバンクホークスはセリーグ1位の巨人をスイープ。見事3連覇を果たした。2010年代で6度の日本一を達成したホークスは論争の種に。セリーグのDH制導入案を皮切りに数多の意見がファンの間で発せられた。

 私も一人の野球ファンとして一連の「FA権の行使」「人的補償制度」「戦力の格差・均衡」,はたまたそれ以外の諸問題について考え着く限りの「NPB改革案」を考えてみようと思う。(本日ツイートした内容の補足がほとんどです)

①「人的補償」を「ドラフト指名権」に変える

 このタイトルを見て「ドラフト1位の指名権を他球団に譲渡する案か!?」と思った方がいるのであれば安心してほしい。そうではなく,FAによって選手を失った球団に,追加でドラフト指名権を与えるのだ。
 文字だけでは分かり辛いと思うのでざっとまとめるとこんな感じ。

○2018-19年の移籍をもとにした2019年ドラフトの例

画像1

 見ての通り,従来にはない「1.5巡指名」,「2.5巡指名」というシステムを組み込む。そうすることでFA選手を獲得した球団は人的補償をする必要がなく,FAで選手が流出したチームは次年度のドラフトで2巡指名より先に「13番目の選手」をウェーバーにて獲得が可能となる。1巡目で12人の選手が指名出来なくなっているとはいえ,ウェーバーによって「確実に」次点の選手を指名できるのは大きなポイントではないだろうか。

(11/7追記)
 多くの方にご感想をいただき,新たな懸念点も浮かび上がった。「1.5巡指名」の制度はFAに関わらなかったその他10球団にも影響が及んでしまうという点だ。
 確かにその通りである。FAに関知しなかった他の球団にも影響が及んでしまうというのは人的補償には無かった点なのだ。
 併せてこんな意見も。「実際にこのルールになったらFA移籍自体が増加して,あまり気にならなくなるのでは」という意見だ。
 目的はあくまで「2球団間での戦力均衡」ではなく「球界全体の戦力均衡」という意味に近いかもしれない。実際,人的補償がなくなれば多くの球団がFA市場に参戦するし,放出する側も1.5巡指名という独占的権利を手に入れられる。結果として流動化が果たせるのかもしれない。

☆懸念点
①FA補強をしたチームに痛手が無い為に資金の潤沢なチームだけが生き残るのではないか
②人的補償とドラフト1.5巡指名権が果たして釣り合っているかどうか

②Aランク選手の「自動FA制」

 これも毎年話題になるトピック。現状,NPBにてFA権を取得した場合,その権利を行使するかどうかを選手自身が決めなくてはいけない。FA権の行使を決めた選手に対する一部ファンの言動というのは限度を超えることがよくある。また,「FA宣言制」に伴う選手の流動性の無さは常に指摘されてきた。

画像6

 その「FA宣言制」の対案として常に挙げられているのが「自動FA制」である。つまるところ,FA権を取得した選手はオフシーズンになると自動でフリーエージェントとなる仕組みだ。MLBはまさにその制度であるため,いわゆる「FA宣言」が存在しない。この制度に切り替えればFA宣言をした選手への門戸は全球団に開かれるし,選手が望めば球団に残留することもできる。このFA宣言問題を解決する完璧な策にも思える。

 ただし,ここにもデメリットが。B・Cランクの中堅・ベテランが契約を掴めなくなるのではという意見だ。Aランク・Bランクに属する20歳代の選手であれば引く手あまたであろうが,そこに至らない選手らが自動FAとなった場合,全員が契約を勝ち取れるであろうか?自動FAとなったままに所属先が決まらず引退なんてこともあるのではないか。

 そこで提言したいのがAランク選手のみの「自動FA制」である。Aランク選手であれば一部を除けばこれから全盛を迎えるであろう若手選手が中心であり,契約をもらえないことは考えにくい。FA市場も毎年大いに盛り上がるのではないだろうか。
 Bランク選手についても,「30歳以下のBランク選手」に限っては自動FAの対象にすれば,年齢による懸念も跳ね除けられるかもしれない。

画像2

☆懸念点
①FA宣言をすることに批判があるのではなく,残留しないことに批判がおきるから自動になっても選手へのヘイトが変わらないかも
②そもそも「選手の流動化」は必要なのかという意見。フランチャイズプレイヤーが稀なMLBに倣って,生え抜き選手を重視する日本のやり方を壊す必要はあるのかどうか

③現役選手ドラフトの養生

 「選手の流動化」議論は少し置いておいて,NPBにおけるFA移籍への悪いイメージはそもそも移籍の絶対数が少ないことに起因するのではないか。「移籍慣れ」というのは聊かおかしな表現になるが,我々はもっと移籍を好意的にとらえることが必要に感じる。

ドラフトで指名⇒2軍で3~5年かけて育成⇒1軍でデビュー⇒そのまま引退まで同一球団でプレー⇒引退後はフロント入り

 私と同様にどこかファンの中には「この形が理想」という考えはないだろうか。ただそれが選手にとっての理想とは必ずしも言えない。
 そんなタイミングで「NPB版ルール5ドラフト」の施行が徐々に固まってきたが,現在言われているような「球団が対象選手を決める」なんてことは全く意味をなさないと考えている。(恣意的にある選手を球団に保有できてしまう)

画像7

 ざっとまとめてみたが,例えばこんな案はどうだろうか。

 ・高卒選手は累計7年目(通算1015日)で累計1年以上(145日以上)の一軍登録がない選手が対象。

 ・大卒,社会人選手は累計6年目(通算870日)で累計1年以上(145日以上)の一軍登録がない選手が対象。

 ・「故障者リスト」を明確に定め,リスト入り期間は上記通算日数に加算しない。

 ・指名順は前年度順位をもとに下位球団から完全ウェーバー制で行う。

 ・「指名をしない」という選択も当然あり。

 ・対象選手を獲得した場合は,次年度に対象選手を一定期間一軍登録しなければいけない。

 ・対象選手でも指名されなかった場合は元の球団に所属したまま。

 ・現役ドラフト指名権をトレード可能にし,さらなる流動化を見込む。(例  A球団のB選手or金銭 ⇔ C球団の現役ドラフト1巡目指名権

 いかがだろうか。当然,制度として運用するにはもっと詳細できめ細やかなルールは必要となるだろう。だいたいこんな感じがええんとちゃいますかって案なのでそこはご容赦を。

 「じゃあこの案だとどんな選手が対象になるの?」って方もいると思うので実際に調べてみました。

○巨人
 対象選手なし
○DeNA
 濱矢 廣大,西森 将司
○阪神
 伊藤 和雄
○広島
 庄司 隼人, 髙橋 大樹
○中日
 阿知羅 拓馬,溝脇 隼人
○ヤクルト
 岩橋 慶侍,屋宜 照悟, 田川 賢吾

○西武
 相内 誠,駒月 仁人,中田 祥多
○ソフトバンク
 川原 弘之,美間 優槻,真砂 勇介
○楽天
 対象選手なし
○千葉ロッテ
 対象選手なし
○日本ハム
 対象選手なし
○オリックス
  岩本 輝

12球団で17名…。正直に言うと「え、こんなに少ないんだ」というのが感想。これだとまだまだ現役選手ドラフトも考える余地があるかなと思ってしまう。お試しで獲得しようにもルール5準拠で設けた「次年度は一定期間の一軍登録」が重荷になるやもしれない。


☆懸念点
①これだけ対象選手が少ないならそもそも論,マストな制度なのか。(これについては施行案次第ですが)
②そもそも現役選手ドラフトの対象となる選手は戦力として見込めるのか。

画像5

④ドラフト1位の指名・抽選方法の変更

 主に戦力の均衡についての話。これもそもそも論,均衡を取る必要があるのか?と言われたらそこで終いですが,ちょっとそれは置いておこう。実際にこれだけセ・パの格差,球団の格差が挙げられているのだから思考停止にならないようにしたい。

 ここで挙げるのは毎年10月に開催されるドラフト会議での第1巡指名の指名方法,抽選方法を変えようという案

 先に抽選方法の変更案から紹介しよう。
 2019年のドラフトでは1巡目に競合による抽選が多発。とくにスーパー高校生の奥川投手と佐々木投手の指名数には注目が集まった。奥川投手を例に挙げると,彼はヤクルト,阪神,巨人に指名を受けての3球団競合で抽選が行われた。結果として昨年の勝率が3チーム中最下位であるヤクルトが見事入札を果たす。
 しかし抽選であることから,今回のように必ずしも勝率下位のチームに有望選手が行くとは限らず,昨年であれば首位の広島が4球団競合の末に小薗を入札。戦力の均衡を目的としたドラフトの指名順は現状,競合となれば全球団おなじ確率となってしまう。
 そこで提案したいのが「クジを引ける回数を増やす」という案だ。これもまとめてみよう。

画像3

 3球団競合であればクジ6本(はずれクジ5本,当たりクジ1本)を用意し,「ヤクルト⇒阪神⇒巨人⇒ヤクルト⇒阪神⇒ヤクルト」の順にクジを引く。こうすることで下位球団の入札確率を上げつつも上位球団にも入札の機会を設けることが可能だ。(完全ウェーバーと異なる点)

 当然「これって下位球団と競合してしまった上位球団がめちゃくちゃ不利になるのでは」という意見もあるだろう。


 そこでさらに私が提案したいのが「ドラフト1位指名方法の変更」だ。従来の指名では,ドラフト1位を一挙に発表し,そこからクジを引くという流れだが,これを2巡目以降のウェイバー方式に似た形にするのはどうだろう。

 ①ヤクルト⇒奥川投手を指名
 ②オリックス⇒ヤクルトの指名を見てから指名選手を決定。
  A:ヤクルトが有利の抽選を覚悟で奥川投手を指名
  B:競合ではなく石川野手を指名
 ③中日⇒ヤクルト,オリックスの指名を見てから指名選手を決定。
  以下同文。
 .
 .
 .
 ⑫西武⇒11球団の指名状況を見てから指名選手を決定。
  A:不利な抽選を覚悟で競合指名
  B:競合ではなく他の選手を指名

 この案であれば上位球団が何度もハズレくじを連発するような事態も減らせるのではないだろうか。
 だが,気づいた方もいると思うが,これは単なる上位球団の救済案ではない。下位球団が先に希望選手を選択・提示することによって,抽選が不利になる上位球団は必然的に競合を避けて他の選手を選択。結果的に下位球団にその年の有望選手が入団しやすくなる狙いもある。

☆懸念案
①ここまで前年の勝率がドラフトに影響するのであればわざと負けて指名を有利にしようとする球団がでてくるのではないか。
②有望選手が下位球団に行く確率が増えるのと同様,下位球団からの指名拒否をする有望選手が増えるのではないか。
③個人的意見として,ドラフト会議自体がめちゃくちゃ長くなりそう。

⑤3地区制の導入&エクスパンション

 ここからは本当に夢見物語に近い話。冒頭でもお話しした通り,CS制度の下克上問題を解決する方法の一つ。現状の6球団2リーグ制を4球団3リーグ制にする案だ。
 近年のクライマックスシリーズは消化試合を減らす一方で,1位球団同士の日本シリーズが実現できず,たびたびCS制度の廃止が提言されてきた。そこで3リーグ制の導入である。12球団を「東地区」「中地区」「西地区」のようなディビションに分割し,1位を争う。各地区の首位球団はプレーオフに進出できる他,3地区で最も勝率の高い2位球団がワイルドカードとして出場権を得られれば消化試合をすくなくすることも可能であろう。

画像4

 現状の12球団のままであれば実現は程遠いいだろうが,エクスパンション(球団拡張)によって3球団ほど増加させられれば面白いかもしれない。

○東地区
 日本ハム
 東北楽天
 読売巨人
 ヤクルト
 新潟新球団(エクスパンション)

○中地区
 千葉ロッテ
 横浜DeNA
 埼玉西武
 中日
 静岡新球団(エクスパンション)

○西地区
 ソフトバンク
 広島東洋
 阪神
 オリックス
 京都新球団(エクスパンション)


同地区同士の試合       4球団×18試合=72試合
他の地区とのインターリーグ 10球団×8試合=80試合
合 計    152試合(ホーム76試合 アウェイ76試合)

 なんて妄想してみたり…。これだけ球団が増えて地区も増えれば上の提言案と相まって大きくNPBが変わっていくような気がしなくもない。(エクスパンション自体が大きな方向転換ではあるが)

☆懸念点
①地方の収益や新オーナー,移動日程など懸念点多すぎて数えればキリがない点。

 現状,12球団のオーナー陣はエクスパンションに乗り気では無い為難しいだろうか。ZOZOにちょっぴり期待したい。

⑥アジア選手枠の増設

 「日本人もアジア選手でしょ」というツッコミもあると思うが,これも夢見物語かな。
 要するに現状の外国人枠4人に加え,韓国・台湾などのアジア選手枠を1人追加するという提案。
 「これに何の意味があるの?」という疑問はごもっとも。このアジア選手枠はアジア野球全体に大いなる意味を持たせることができると考えている。

 例えば,韓国国内のリーグでプレーしている韓国選手がMLBを目指したいと考えた時,全員が簡単にMLB契約を結べる訳ではない。そういう選手が一度NPBでプレーし,結果を残すことで「アジアのトップリーグで成績を残した」という肩書が生まれる。
 今の外国人枠でもそれは可能であるが,この4つの外国人枠を非アジア選手で埋めている球団がほとんどなのが現状である。そこでアジア選手専用の枠を1つ設けることで球団としてもその枠を使うために韓国・台湾などからトップ選手を獲得しようと門戸を開く。KBOの平均年俸が1500万円 NPBの平均年俸が4000万円であることからみても選手にとって悪い話ではないだろう。
 日本プロ野球が「アジアトップリーグ」としてのブランドを確立できる案でもあり,野球の国際化にも大いに貢献できると信じている。

☆懸念点
①アジア各国のリーグの理解を得られるか。(トップ選手の引き抜きを良しとするか)
②資金が潤沢な球団が多くのアジア選手を飼い殺しにするのではないか。

最後に

 ツイッターのトレンドにこの話題が多く,ぱっと思いつく限り挙げてみましたがいかがだったでしょうか。コストガン無視で考えただけなので「これは無理でしょ」っていうのがほとんどだと思います。でも現状を批判したり,現状に疑問を持つ人を批判するだけよりも自分でいろいろ考えてみることも必要なのかなと思います。

 いつもはステロイド時代を中心にMLB関連のnoteを書いています!普段あまり関わりのないNPBファンの方にも観てもらえると信じてリンクを張っておきますね

 これからのFA移籍の前に見てほしい作品です

悪しきステロイド時代の考察noteとなっています。渾身の一策!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?