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カテゴリB(感傷短編小説)


2-5応答なし。待機または前進。

幹線道路Hを走行中、僕は被弾した。それは君からのDM。

『地点D9-06  待ってるわ』

暗視装置の中で蛍光がいくつも僕のほうへと飛んできた。

最前線よりも前に出てしまったようだ。

それでも対キミ用のこの装甲車両PW55なら僕のハートは守れるはずだ。

都市Zはもう殆どが瓦礫と化していた。だから僕はキミを簡単に見つけられると思った。

すでに僕は唇まで武装していたから、やさしくキスできるかはわからないけど。

「2-5応答せよ。2-5状況を報告せよ」

司令部の連中は恋愛作戦には向いてないと思う。だから都市が壊滅した。

空には無人偵察機FR-bがいくつも飛んでいた。この前はたくさん飛ばしすぎたせいで衝突事故がおこった。

僕の行動は監視されている。すでに捕捉されたんだと思う。

軍法会議でこの恋は裁かれる。

美しかった街はすでに死んだのに。

キミが何かの罠だと考えたことはなかった。キミのおかげで今まで僕は生きてこれた。

地区42と地区43の間を流れる川を越えた。橋は辛うじて難を免れていた。

いったい何のための戦争なんだ。

主要なものは全部ふさがれているような気がした。この世界の主要なものは……。

5クラスの砂埃と3クラスの何かの気体の噴出が視界をさえぎった。

地点D9-06はもうすぐそこだった。

キミが罠だと考えたところで、結局答えは一緒だった。

無線がひっきりなしに呼びかけてくる。

「2-5応答せよ。いいか、君がもし、On-Ⅲに接触した場合……」

瞬時に僕は爆破され灰になる。そうだろ。もう行かせてくれよ。うんざりなんだ。

装甲車のスピードを上げた。

生存の懐疑哲学?長すぎるよ、生存なんて。

砂埃のトンネルができて、それを抜けたら

キミの影が見えた。キミの影は微笑んでいた。

地点D9-06。

それはキミの瞳の場所だった。

邂逅オブ邂逅。

僕がキミへと駆け寄ろうとしたとき、すごい閃光と、熱くて重い衝撃があった。

だからあとはよくわからなくなったんだ。

「全車両聞こえるか。2-5が負傷した。場所は地点D9-06。またトラップだ。重傷度はカテゴリB。くりかえす……」

重傷度はカテゴリB……。

外堀を埋められた。生存の。

キミならもっと傷つけてくれると思ってたよ。

キミならもっと……。

傷ついていたほうがずっと安全な恋だった。

                      終

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