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inner-childの果て|#ファンタジー小説


 初霜の降りた朝。

 わたしは林の中の洞穴ほらあなに、ひとり入った。

 天井からは、澄んだ水がポツン、ポツンとしずくを垂らしていた。


 奥まで進むと、丸い空洞があり、何処どこからか光が入り込んでいた。


 ―――女の子が、膝を抱えてしゃがんでいた。


 女の子は、泣き声でつぶやいた。


「パパ・・・パパは、何処どこに行ったの・・・?」

 わたしはあたりをぐるっと見回して、


 「パパは、何処どこにも居ないよ」

 
 と言った。


 女の子の肩がぴくりと動いて、顔を上げ、そこからはっきりと泣き出した。


 「何処にも・・・・、パパは居ない。


 ・・・パパ・・・

 パパ!!」


 わたしはかがんで、女の子の背中をさすった。


「もしかしたら・・・パパは外に居るかもしれない。

 此処ここから、出てみたらどうかな?」


 女の子はまだしゃくり上げながら、何度も何度も、手のひらでこぼれる涙をぬぐった。


「外へ・・・一緒に行ってくれる?」

「いいよ。一緒に、行ってあげる」






 まだ、様々に散り敷いた落ち葉にも、霜は残っていた。


 かさ、かさとふたりで音を立てて踏み、手をつないで林を歩いて行った。




 川べりまで来た。

 山の上の方から湧き出た清水が、絶え間なく流れていた。


 わたしは女の子と顔を見合わせた。


「どうする・・・渡る?」

「・・・向こうには、パパが居るの?」


 女の子は真剣な目つきでたずねた。


 向こう側は、こちら側より鬱蒼うっそうとした森だった。

 何が居るか、というと、何でも居そうだった。


 「森にんでいるのは、鳥たち、虫たち、けものたち。

 パパも、何処かにひそんでいるかもしれないね。

 ・・・けど、ヘビにだけは、気を付けよう。油断したら噛みつくから」


 女の子の指がさらにぎゅっとわたしを握った。


 「渡ってみよう」



 川を渡るのは心臓に悪かった。


 石を選んで飛び移ったが、女の子は何度も川の水と苔で滑りそうになった。


 手を伸ばしてしっかりと、女の子が落ちないように掴んで支えていた。



 森に入った。


 森は高い樹木と生い茂った葉の重なりでうす暗かった。



 途中、林檎の木があり、沢山実を落としていた。


 わたしはその中から、成るべく綺麗な林檎をふたつ選んだ。袖で丁寧に拭き、ひとつを女の子に渡した。


 そのとき。


 ―――バサッ


 木の上の方から、女の子の腕くらいの太さのヘビが落ちてきた。




 「きゃあ」


 女の子は手で口を押さえた。わたしは女の子を背中側に避難させて、ヘビに向かって鋭く言葉を放った。


 「お前はわたしたちを待ち構えていたな。何か言いたいことがあるのか」


 ヘビはとぐろを巻いたまま、鎌首をもたげた。そして、先の割れた赤い舌をちろちろ出した。



「・・・森に、何か用か」


 シューシューとも聞こえる声。


 女の子は、わたしの背中をつかみつつ顔を出して、ヘビに叫んだ。


 「パパを探しに来たの!!

 パパのこと、見かけなかった?」



「・・・・・」


 ヘビは舌を探知器のようにちろちろのぞかせていた。ややあって、



「・・・もう少し奥へ進むと、石の目印みたいなものがある。


 そこへ行ってみるといい」

 
「―――石の目印?何の目印だ?」


 いぶかしげに尋ねたが、ヘビは無視して身体をくねらせ、枯れ葉やつたのからまる木々に擬態した。



 見る間に、森の何処かへ忽然こつぜんと姿を消したのだ。


 
 女の子は、わたしをすがるような目で見上げていた。ヘビの話は聞かなかったことにしよう、とは言えない雰囲気だった。


 

【continue】




▶Que Song

Grandiose/Pomme




 ・・・1話完結に出来ず😌このあと後篇に続きます。




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 また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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