こういう感性良いなぁ、としみじみ『モノから学びます』イム・ジーナ

 一日の終りに、もうあとは寝るだけというときの深夜の幸せ感といったらないですよね。両脚をのびのび伸ばせることに喜びを感じるなら、このところの生活がなんだかんだ言って悪くないという意味でもあります。そのじかんに本を読めばいいのはわかっているけれど、ついつい手離せないスマホと一緒に横になります。いくつかのSNSをのぞいて、何人かの足跡をチェックして。まだ会ったことのない人、何回会った人、毎日が気になる人とそれほど気にならないけど見てしまう人たちの足跡や新しくアップされた内容が出てきます。
 これといって特別なことが書かれてるわけじゃないけれど、ときどき新しい内容がアップされていることがあります。普段は可愛い猫の写真や、その日食べた料理、あるいはその場笑ってすませるような言葉遊びをアップしていた人が、久しぶりにいつもとは違うキラキラした感じで、今まで準備してきたことを発表するときです。
 新しいエッセイ集の観光、新曲のピアノの動画、数か月かけたデザインが仕上がったというニュース、脱稿を祝うビールの写真、全国ツアーを知らせるポスター、新メニューを作ったという行きつけのカフェの知らせ。
 
普段はささやかな出来事ばかりアップしてしていた人立場、いつの間にこんな準備をしていたのだろうかと思うんですが、みな、一人で静かに粘り強くどこにも何かをつくっていたんですね。それぞれの時間が存在していたという当たり前のことに、今さらながらはっとさせたれて、なぜか胸がアツくなるのです。スマホという窓を通じて知る彼らの本当の時間。内面にあった芯の部分。みんなの大小さまざまなニュースたち。

イム・ジーナ『モノから学びます』〈スマホがつくる窓〉より、KADOKAWA、2021年

 スマホを窓という発想がまず斬新。
 そして何より、SNSからその人の本当の時間を読み解く、もう視線自体がカルチャーショック。なるほど、コツコツささやかであっても何かと真剣に向き合った時間を、こうやって見てくれる人がいるんだな、となんかジーンとしてしまった。
 SNSが隆盛期から、それなにSNSに触れてきたつもりだったけど、やはり知らないモノの見方や感じ方があるものだ。
 


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