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海のものがたりー あなたと

1,
互いの線がぐちゃぐちゃになる様に海へ走った,繋がれた手は力強く握りあっていて左右前後に大きく揺れて砂を蹴る足取りは強かった。
海へ入った1歩で2人は止まり,浅瀬でその走りのエネルギーをゆっくりと水へ溶かした。
稚魚を海へ解き放つみたいに用心深く決して焦らずに,呼吸が波と分け隔てなくなった時2人はそれにまた感動して獣みたいに叫び声を上げて
どう体を動かせばもっと獣らしくなれるのか跳ねたり波を蹴り上げたりした。

それでも自分の人間らしさにうんざりしていてそのまま彼女は服を脱ぎ下着姿になって,点ほどに見える遠くの人を見た。
けして褒められたことではないけど誰も彼女を止めることも出来ない。
彼は彼女のその生き物としてのエネルギーに魅せられてずっとそのままでいて欲しいと思った。

2,
砂浜の先に海を見つけて走り出す私に速度を合わせることなく後ろからやってくる彼が,丘に荷物を置いてこちらを遠い目で見ている。
浅瀬でかがみこんで並とにらめっこしていたら1人ではここから動けない,1人ではどこへも行けない気がした。
振り返り手招きをすると動揺しながらも彼は丘を降りてくる。
私みたく幼稚な遊び方はしないから,まっすぐ私を迎えに歩いてくる。
彼に手を伸ばしてこちらへ引き込むと,どうしたのなんて聞くから立ち上がれなくてと不思議ちゃんみたいな事を恥じらいもなく吐き捨てて1人で先に立つ。
彼を見下ろすと屈んでくれた彼の優しさもチープに感じられた,立ったまま私のことを引き上げてくれれば良かったのに。
そのまま私を引き寄せて波がここまで追いついても気にしないで抱き締めて

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