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【RPG】短編

魔女「暗い暗い森の中、ぼうやはどれだけ歩いたか。もうだいじょうぶ、この屋敷は百年前から建っている。嵐にだってびくともしない。ゆっくりゆっくり、おやすみよ」
少年「ここは…? そうだ、僕は森で迷って…」
魔女「身体が冷えたろう。暖かいスープとパンをお食べ」
少年「わっ。急にテーブルが…蝋燭の火か。暗くて見えなかった」
魔女「暖かい毛布に、暖炉もある。さあさ座って」
少年「わあ。寒くてお腹ぺこぺこだったんだ。あったかいなあ。こんなごちそうみたことない」
魔女「パンもお菓子も好きなだけお食べ」
少年「(咀嚼しながら)うーんっ、おいしい! あの…あなたは? 声は聞こえるけど姿が見えなくて」
魔女「私はここでぼうやを見ているよ。欲しいものはないか?」
少年「えっ、毛布も食べ物もあるし…他にもくれるの?」
魔女「ぼうやが望むならなんでも」
少年「な、なんでも…?」
魔女「ふかふかの寝床はどうだい?それにおもちゃも」
少年「こんな大きなベッドはじめて見た! これ、全部僕の?」
魔女「そうとも。この夜は、望みさえすれば、なにもかも思い通り」
少年「でも…なんだか悪いな。僕ばかり」
魔女「何も気にせず、たんと食べて寝ておしまい」
少年「いや、ちょっと待って…忘れてた…妹。それに父さんや母さん。みんながうちで僕を待ってる…」
魔女「ぼうや、どこへ行くんだい」
少年「うちは寒くて…スープを作る薪がないんだ。拾って帰らなくちゃ」
魔女「薪なら暖炉にたくさんあるだろう。寒いならもっと燃やそう」
少年「熱っ! いや、ちがうよ、僕は家に」
魔女「チッ、あと少しだったのに。いまさら逃がしやしないよ」
少年「逃が…どういうこと? それに…僕はどうやってこのお屋敷に入ったんだ? ドアがどこにもない」
魔女「うるさいねえ、さっさと食わせろ」
少年「うわああ! ま、まさかここは!」
魔女「そうともここは魔女の屋敷。おまえは罠にかかったのさ。ヒヒッ、観念するんだね」
少年「いやだ! た、たしか薪割りのナタが…あった!えいっ」
魔女「グワアアアア! よ、よくもこの私に傷を! こざかしい小僧が! 丸呑みにしてやる!」
少年「森が見えた!これが出口か!」
魔女「アアアア! あと少しだったのに! 待て! 待てえー!」

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