病室

白が私に噛みついて 閉じた瞼は私を突き放して
病室には静けさが降り積もります
かなしいのです やわらかなベットにかなしいしわができていて
いたたまれなくなって わたしは廊下に逃げ出しました
ああ 病院の清潔な床は なんて哀れな音をださせるのでしょうか
わたしはきっちりと手入れした ぴかぴかの革靴を履いてきたことを
後悔しました あのひとのところに戻るのが 恥ずかしいような気がしました
涙が すべすべとした私の頬に流れていました
こすったら 甘いりんごのかおりがしました
わたしは もうあまりにも恥ずかしくて このまま病院から出ようかと思いました あの 真っ赤に熟れたりんごを あなたに剥いたのは りんごがおいしそうだからでも あなたがすきだったからでもなく いつの日かみたドラマを買い物の際に思い出したからでした わたしは ふらふらとさまよっています
「もしかしてですけど、病室、わからないのですか」

いまではあの人に言った言葉も嘘のように思えます でも あのとき看護師さんが言ってくれたことは真実かもしれません わたしは病室というものがわからないのです この りんごのかおりに満ちた 真っ白に さわやかに
にぶく光る あなたが眠る病室が何なのかを


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