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リメンバー【Face to Face】幸せな色

昨年9月の【Face to Face】メッセージは、「幸せな色」というタイトルでした。「幸福を呼ぶ縁起の良い木とされている槐(えんじゅ)の蕾を使って表現される黄色は、真に幸せを呼ぶ色であり、ポジティブな気分にさせてくれる。」と書いていました。過去のメッセージも毎月公開していきます。

September 2023

幸せな色

 学校の夏休みも終わり暑さも少しは和らいできて、例年であれば過ごしやすい季節になってくる頃ですが、今年の暑さは、まだまだ続きそうです。暑さ対策をしながら、実りの秋を楽しんでいきたいですね。私たちの活動もコロナ禍前の状況に戻りつつあると感じています。皆さんも規制がなくなった生活を楽しんだことと思います。規制がないということがどんなに幸せなことかを、コロナ禍を経験して感じたのではないでしょうか。中国の団体渡航が解禁され、海外から日本へ来る外国の方々もますます多くなると思います。観光客が増えることで、コロナ禍で人員を削減していたお店やホテルは対応に苦慮しているところです。コロナ禍を乗り切ったように知恵を出して、デジタルを活用しながら、この難局も乗り越えていきたいですね。

 先日、2022年12月のメッセージ「一入(ひとしお)」の時に藍染めの体験をさせていただいた「水野染工場日比谷OKUROJI店」を訪問しました。お店に入って目に留まったのが、鮮やかな黄色のストールでした。

鮮やかな黄色のストール(水野染工場日比谷OKUROJI店にて)

お店は藍染めの体験場所であるので、お店の中にある商品は藍色が中心であると思っていましたが、目に留まったのは藍色ではなく黄色でした。

様々な藍染めの商品
藍染め以外の様々な草木染めの商品

しかも、単なる黄色というより、輝きがあり何かを主張しているように見えました。店長の鶴屋さんにお話を伺うと、「槐(えんじゅ)」という樹の蕾を煮詰めて染める「槐染め(えんじゅぞめ)」というそうです。

白い蝶々のような可愛い花を咲かせる槐

この槐染めの黄色を見ていると元気をもらい、幸せな気分になってきました。「幸せ」と「黄色」の言葉で思い出すのが、「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」という1977年の映画です。刑務所から出所した夫が妻に対して、「今でも自分のことを待っているのなら、黄色いハンカチを鯉のぼりの竿にぶら下げてくれ」と葉書で伝え、実際に数十枚もの黄色いハンカチが風にたなびいていて、二人は再会するというストーリーです。映画の舞台は、厳しい寒さのイメージがある北海道でしたが、そういった環境の中でもポジティブなイメージを持つ黄色いハンカチが印象に残る日本の代表作です。この映画の原作は、1971年に「ニューヨーク・ポスト」紙に掲載されたピート・ハミルのコラム「Going Home」だそうです。この映画は、日本以外の海外でも上映することを考えていました。しかし、当時は日本が高度成長時代で、日本の電気製品がアメリカ市場を荒らしているという状況だったことから、ピート・ハミルは日本に対して良い印象を持っていませんでした。そのため、作品の上映は日本国内限定で海外に出すことは絶対に認めないとの厳しい条件がつけられました。その後、映画は高い評価を得ていくつかの賞を受賞し、映画を鑑賞したハミルも「ビューティフル」と称賛し喜んで海外での上映に賛成したということでした。日本語の映画ではありましたが、最後に登場する「黄色のハンカチ」が全てを幸せに包み込む印象が強かったことが、ハミルの心に響いたのではないかと思います。

 この黄色ですが、「太陽」とか「光」をイメージすることからポジティブなことを連想する方が多いようです。そのようなところから、幸せの象徴として扱われるようになったと思われます。そういった黄色ですが、この黄色は幸せという意味だけでなくその他いろいろな意味があるようです。「社交的で純粋」とか「明るくて人当たりがよい」や「好奇心旺盛でチャレンジ精神もある」、「束縛が嫌いで自由を好む」という意味もあります。その一方で、「注意を促す」とか「自分にも他人にも厳しい」と言った、場合によってはネガティブに捉えられる意味も含まれているそうです。さらに、「感情からくる不安や恐れ」や「自己中心的な面がある」等の確実にネガティブと言える意味もあるようで、同じ黄色でもその捉え方はとても幅広いもののようです。イギリスでは「黄色」は「身を守るための色」として生まれたそうです。黄色のハンカチ、黄色のネクタイなどを身につけるとその身を守ることができると昔から言い伝えられてきたのです。その黄色が、アメリカへ渡り「黄色いリボン」として、「愛する人の戦場での無事を祈り帰還を願う」シンボルとなったようです。「無事を祈る」というところにも、幸せな生活を送り続けたいという思いが込められているように感じます。

 この鮮やかな黄色を表現している「槐染め」ですが、「槐」という樹を知っていますか。槐は丈夫で大気汚染にも強いことから、道路や公園に植えられていることの多い樹木だそうです。皇居の大手門付近や有楽町駅近辺には街路樹として植えられています。

内堀通りには槐の樹が白い花をつけている(和田倉噴水公園前)
バックには、解体中の東京海上日動ビル本館も見えます
和田倉噴水公園の向かいの皇居のお堀のそばにも白い花を咲かせた槐の樹

7月~8月に白い蝶々のような可愛い花を咲かせます。この頃の道路には、槐の花が沢山散って絨毯のようになります。

槐の花が散ると道路が黄色に染まる

また、その花や蕾には薬効成分が含まれ、生薬としても利用されてきたそうです。

槐染めに使う蕾だが、止血などの薬効もある

中国では、かつて朝廷の庭に槐が植えられていたことから、槐を品格の高い木、出世の木として大切にしたそうです。槐の花言葉は「上品」「幸福」「慕情」です。槐は幸福を呼ぶ縁起の良い木とされていたことから「幸福」という花言葉が付けられ、「上品」という花言葉は、枝の茂り方や白く美しい花を咲かせる、その姿に由来したとされています。「慕情」という花言葉は、槐が古くから人々に親しまれて綺麗な花を咲かせることが由来とされています。「水野染工場日比谷OKUROJI店」の鶴屋店長によると、槐は浅草神社の御神木とされており、花が散った時には桜吹雪のようになるとおっしゃっていました。

浅草神社の御神木である槐
御神木の由来を伝える表示

幸福を呼ぶ縁起の良い木とされている槐の蕾を使って表現された黄色は、真に幸せを呼ぶ色であると思います。コロナが治まり、外を歩き回るにはいい季節になります。黄色のストールやリボンを身に着けてウォーキングを楽しむのも素敵ではないでしょうか。

あとがき

 2023年9月に「水野染工場日比谷OKUROJI店」へ訪ねてみると本当に鮮やかな黄色が目に入り、思わず何かを書いてみたいという気持ちにさせられました。藍染めの体験をさせてもらったお店だったので、藍色とは異なる色に出会えて衝撃的でした。やはり、すぐ頭に浮かんだのは「幸福の黄色いハンカチ」でした。これを書いた時には、ストーリーを改めて調べて文書を作りました。


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