A Banner Archive【GROWING UP】

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横断幕解説企画「A Banner Archive」の第三弾となる今回は、2013年の躍進、そして2014年の苦悩から生まれた横断幕についてご紹介します。

【GROWING UP】

英語で『成長過程、成長中』の意。
縦2m、横10m

この横断幕のデビューは2014年の第22節、アウェイで行われたガンバ大阪戦。
0−5でボコボコにされたゲームなので記憶に深く刻まれている(苦笑)

2014年は寄せては返すようなシーズンだった。
前年の2013年、特に後半戦は過激ともいえるプレッシングサッカーを武器に新潟は躍動した。オフシーズンも覚悟していたほどの選手流出はなく、2014年は誰もが期待したシーズンだった。
そんな期待を背負った2014年のアルビレックス新潟は前年のベースを踏襲しながらアップデートを試みる。シーズン序盤は結果もそこそこついてきて、ワールドカップの中断までは良い調子で一桁順位を維持できていた覚えがある。

転機はワールドカップ後。チームのストロングだったキムジンスと、アップデートしつつあったフットボールに適応できずスタメンを外れた前年度のチーム得点王、川又堅碁の移籍であった。
この流出によりこれまでのフットボールを維持することは不可能となり、ラファエル・シルバや指宿、山本康裕といった新戦力をジョインさせながら大きくスタイルを変質させなければならなくなった。そのような状況下にあったマイチームに対して、何かしらメッセージを届けなければないと強く思ったことが、この横断幕の始まりである。

伝えたいメッセージは複数の候補があったが、とにかくこのまま留まっている暇はない、ここからチームの成長を止めることなくアップデートしていくぞ!というテーマで選定を行い、【GROWING UP】に決まった。

お気付きの方もいると思うが、このGROWING UPというメッセージは、パンクロックバンド Hi-STANDARD(以下ハイスタ)の2nd ALBAMのタイトルからインスパイアを受けた。
実は新潟とハイスタの縁は深い。元々新潟のチャントには2000年前半付近のメロディックパンクバンドが多く、それは当時ゴール裏中心部にいた方々が、所謂エアジャム世代であったことが大きいと思う。その結果ハイスタからは『STAY GOLD』(早川史哉)や『Can't Help Falling In Love』、『Please Please Please』(藤田征也)や『Lift me Up Don't Bring Me Down』(石川直樹)など多くの曲をチャントに使わせてもらっている。
また、2012年にはハイスタのボーカル難波章浩さん(皆さんご存知の通り新潟出身)とアルビレックス新潟のコラボレーションが実現。この流れを逃す手は無く、チームに対するメッセージとして使わせて頂いた経緯もある。

横断幕の下方には「GOOD TIMES & BAD TIMES,WE ARE ROLLIN’ TOGETHER」と入っている。まだまだ成長中のマイチーム、良い時も悪い時もあるけど、俺たちは一緒に転がり続けるよ、と意思表示をしたかった。このメッセージのおかげか、2014年当時のチームに向けたメッセージ【GROWING UP】を掲げたこの横断幕は今も違和感なく掲げ続けることができている。

余談だが、伝えるメッセージにはGROWING UPの他に「NOT ENOUGH」という候補もあった。GROWING UPとは意味合いが大きく異なるものの、伝えたかったのは『立ち止まっていてはいけない』という感情で、根本は同じだった。が、振り返るとやはりGROWING UPにしておいて良かったと感じている。 

フットボールシーンにおけるサポーターカルチャーの有意義な点は、様々な文化とフットボールがクロスオーバーすることにあると思っている。特に音楽・ファッションを含めたストリートカルチャーとの親和性は極めて高く、このクロスオーバーこそがフットボールに文化的な深みを生み出していることは明白である。
僕自身、パンクロックカルチャーへの入口は、ビッグスワンや市陸で歌われていたハイスタやブラフマン、ゴーイングステディ、ブルーハーツだった。だからこそ、自分がデザインをするようになったときにも文化的側面や文化のクロスオーバーは意識していたし、それを表現できる技術やマインドがようやく付いてきたのがこのGROWING UPを作成した頃からだった。
一度難波さんが自身のラジオ番組内でこの横断幕や他の横断幕に触れてくれたことがある。ハイスタやパンクが好きな人がやってるのかな?とコメントをしてくれたことが、とても嬉しかった。

横断幕の主眼は載っかるメッセージにあるし、それはチームに伝えたい言葉であることが大前提だ。手段と目的を取り違え、イデオロギーを主張するものであってはならない。ただ、その中の副産物として、上記のような文化の融合があり、目的だけでは絶対に生み出せない深みにこそ価値がある。

アルビレックス新潟の歴史は95年から数えてまだ24年しか経っていない世界的に見れば若いチームだ。だからこそ上記のような文脈やストーリー、他カルチャーとの融合を経ることで、【ニイガタフットボールオリジナル】のカルチャーが生まれてくるのだろう。自分達の活動もその一助になれば幸甚に思う。

最後にサイズについて。この横断幕のサイズは、先に作られたアウェイ専用横断幕【SURVIVE】(後に本連載に登場予定)と同サイズだ。主に、ビジタースタンドで提出した際、LA FAMILIAを中心に据えた上で両脇に一回り小さい、同じフォントの横断幕を並べることで統一感を出したいという意図があった。アウェイゲームの際は是非、その点にも注目してほしい。

文責:星 凌太 @ryo_bfans
編集:渡邉 林太郎 @rintarou0705
渡邊 恭平 @kyo_hey13

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デザインを拡大コピーし、幕の原型を作っている。

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仕上げは都内某所にて。

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制作から5年が経ったGROWING UP。少し色褪せてきたが、まだまだ色んな景色を共に見たい。



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