見出し画像

パドロンもホップも全てをつなげて日本のビール文化をおもしろく #002吉田敦史

吉田敦史
Yoshida Atsushi
BEER EXPERIENCE株式会社 代表取締役社長

プロフィール
神奈川県横浜市出身。株式会社アサツー ディ・ケイで大手菓子メーカーの担当営業として勤務。担当ブランドのマーケティング戦略、メディア戦略に携わる。2008年、手に職を持ちたいという学生時代からの夢を実現するため、遠野市に移住して農業に従事。2018年には、日本のビール文化をもっとおもしろくすることを目的に、BEER EXPERIENCE株式会社を創業。遠野市在住歴11年。


2012年、吉田敦史は初めて収穫したパドロンに、少し手応えを感じていました。

パドロンはピーマンやししとうにも似た野菜。スペインではビールのおつまみ野菜として知られています。初めて収穫したパドロンは多くはないものの、その量では足りないくらいに引き合いがあったのです。

スクリーンショット 2020-04-23 15.45.24

吉田は横浜出身。2008年に遠野市へ移住し、それまで農業は未経験でした。都内の広告代理店に勤務していましたが、妻・美保子の妊娠もあり、激務でもあった自分の仕事を見つめ直すようになりました。

同じ職場に勤めていた美保子は遠野市出身。吉田とともに遠野市の実家へ帰省した際に、吉田が農作業を手伝い、それをきっかけに吉田は農業にも興味を持つようになります。

遠野市へ移住後は2人で農業に従事。以降、きゅうり、ほうれん草、しいたけといった遠野でもよく栽培されている野菜を作る日々。

そしてある時、吉田が東京の友だちからこう聞かれたのです。

「お前のきゅうりはどこのスーパーで売っているんだ?」

自分の顔が見える野菜を作る

友だちのその問いに答えられなかった吉田。考えた末に見つけた今後の方向性は、「自分の顔が見える野菜を作る」でした。

吉田は飲食店のオーナーに聞き込みをして、「自分の顔が見える野菜」になりそうな野菜をリストアップ。そのなかのひとつにパドロンがあり、調べてみるとスペインではビールのおつまみとして消費されていることがわかりました。

「ビールのおつまみになる野菜は枝豆しかないし、パドロンが文化として定着したらおもしろいんじゃないか」

【画像】パドロン&ビールペアリング

「ビールの里」を目指す遠野で栽培する野菜としては、これ以上ない作物だと思われるかもしれません。しかし、当時の吉田は遠野がホップの生産地だということを知ってはいたものの、遠野とビール、そしてパドロンを結びつけるところまではまだ考えるに至っていませんでした。

それが結びつくようになったのは、キリングループが主催している農業経営者育成プログラム「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」(農業トレセン)に参加してから。

たまたま紹介を受けて参加した農業トレセンでしたが、吉田はパドロン栽培を始めたばかり。これをどう加速させていこうかという思いもあり、時間がないながらも仙台まで毎月1回の講義に参加していました。

農業トレセンは、マーケティングから販売、農業会計といった座学だけに終わらず、1年後の卒業までに何かプロジェクトを形にするのがミッション。そこで出会ったのがキリンの浅井隆平でした。講義後はいつも浅井と飲みに行くようになり、浅井とともに「遠野パドロン ブランディングプロジェクト」を立ち上げます。

「このときでしたね、遠野のホップとパドロンをつなげて、ストーリーになるんじゃないかと思ったのは」

ホップ農家減少の原因を実際に体験してわかること

一方、美保子は不安も抱いていたと言います。

スクリーンショット 2020-04-23 14.27.21

吉田美保子
BEER EXPERIENCE株式会社
取締役 生産部 パドロンクロップマネージャー

「浅井さんをはじめキリンさんが関わってくれていましたけど、本当にずっと関わってくれるんだろうか、と。ホップ栽培をはじめるようになってからは、そんな不安もなくなりましたけど」

浅井やキリンが本気で取り組んでくれていることが、少しずつ各所に伝わってきていたのかもしれません。ホップ農家が減少しているという危機感を持っている市も、吉田と浅井に期待を寄せるようになります。

ホップも栽培してほしいという市の要望に応えてホップ栽培を始めたのが2015年のこと。「遠野パドロン ブランディングプロジェクト」を立ち上げてから、吉田はホップの生産地で栽培されたパドロンがビールに合わないわけがないと考えて栽培を進めていました。そんな考えもあり、自分でホップ栽培をすることがパドロン栽培にもプラスになるとも思っていたのです。

また、遠野で育った美保子は、かつての遠野を思い浮かべていました。

「私が通っていた通学路にあったホップ畑が、今はひとつもないんです。減っているのは見てわかっていたので、ホップ栽培を維持していくことには賛成でした。自分たちがそこに関わっていきたいなと」

そんな思いがあってチャレンジしたホップ栽培ですが、ホップ農家減少の根本原因ともいえる壁が吉田の前にも立ちはだかったのです。

ホップは本当に人手がかかるんです。体を使った作業が、他に類を見ない大変さだなと。今の農業はほとんど鍬(くわ)を使わないんですけど、ホップ栽培は1週間ずっと鍬を使い続けたりするんですよ」

ホップ栽培には技術革新が起こっていない。このままでは、ホップ栽培を継ぐ人がますますいなくなってしまう。それを身をもって感じた吉田は、浅井とともに新たな農業法人の立ち上げを考えるようになっていきます。

日本のビール文化を遠野から変えていく

先進的なホップ栽培を視察しに、ドイツに行ったこともありました。ドイツでは機械化が進んでいて、25ヘクタールもの畑で栽培から出荷までを家族3人だけで行っていたのです。1人当たりの生産量は日本の8倍以上。

そういった先進的なホップ栽培を取り入れて遠野のホップを維持・拡大し、パドロンの生産も増やしていく。さらに、ホップ生産地でしか体験できないビアツーリズムも継続したい。

スクリーンショット 2020-04-23 15.45.10

そして、パドロン栽培を開始して以降持ち続けていた、しがみついていれば何かが見えてくるという思いと、パドロンもホップもいつか全てをつなげてやるという思い。

それらすべてが形となって現れたのは2018年2月。BEER EXPERIENCE株式会社(BE社)の立ち上げでした。

「ホップの先進的な栽培をトライしながら、その数字も公表していくので、追随できる人がいれば生産は拡大できると思っています」

また、美保子も、ホップを使ったフラワーアレンジメントやハーバリウムのワークショップを、ビアツーリズムのコンテンツのひとつとして考えています。そんなBE社のビジョンは「日本のビール文化をもっとおもしろく」

その一方で、現実的なことにもしっかりと目を向けなければいけません。ビジョンはしっかりと持ちつつも、まずはBE社として利益をしっかりあげていくこと。そして、植えてから収穫まで少なくとも3年はかかるホップの成長を待つこと。

「いざやってみると、待つのがつらいんですよ。やるしかないんですけど」

日本のビール文化をおもしろくする種は、ちょうどいま芽を出そうとしているところなのかもしれません。


ホップの里からビールの里へ  VISION BOOK


富江弘幸
https://twitter.com/hiroyukitomie

企画
株式会社BrewGood
https://www.facebook.com/BrewGoodTONO/
info@brewgood.jp

内容全ての無断転載を禁じます。
2020年2月時点の情報につき内容が変更されている場合もございます。予めご了承ください。

遠野市の個人版ふるさと納税で寄付の使い道に「ビールの里プロジェクト」を指定いただけると、私たちの取り組みを直接支援することができます。

寄付金は下記の目的に活用されます。

・新規就農者の自立に向けたサポート
・老朽化する機械や設備のリニューアル費用
・イベントの開催などサポートの輪を広げるまちづくりの施策に活用

<ビールの里ふるさと納税特設サイト>

<ふるさとチョイス>


サポートしていただいたお金は全てビールの里プロジェクトを推進する費用として使用させていただきます。