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ケンチク物語1 水上コテージの建築形式



南国リゾートの床下に興味はありますか?


なんて、だれも「はい!」とは言わないでしょうね。

夕日が沈んでいく海、どこまでも伸びるデッキ、美しいレジデンスの連なり、そんな美しい景色に目を奪われ、誰も地面のことなんて気にしないと思います。


今回はケンチク的視点から、南国リゾート・モルディブの、それも主に床下のことを語っていきたいな、と。リゾートで見た美しい景色、建築のインテリアなどの話はほどほどにして、スケッチを交えて床下の話をしていきます。



モルディブは、無数の島々が一つの国になっており、そのひとつひとつが1リゾートという特徴を持ちます。

私が訪れたアナンタラ・ディグ・モルディブは、マーレ空港から高速船でほぼ南に40分ほどの距離にある、タイ国の企業のブランドホテルです。

そのレジデンスの多くが水上コテージとなっており、周りを水深のごく浅いハウスリーフ(サンゴ礁でできた砂州)が取り巻いています。どこまでも続くハウスリーフではシュノーケルを楽しむことができます。

この水上コテージ群は、楕円状に配置されており、レジデンス同士、視線が見えないようプライバシーに配慮された配置となっています。



孤島のリゾートで最も大切なことの一つは、インフラ(水・電気・ガス・インターネット)の整備だと考えます。

でもいったいどうやって客室に快適な電気を、水圧が安定したシャワーを、どこでもアクセスできるインターネットを供給しているのでしょう?

デッキ周囲から四周の外壁面を見回り、海に潜って床下から食い入るように探すと見えてきます。

それは、従業員宿舎のある別の島の地下機械室から、レジデンス同士をつなぐ幅2メートルのデッキの下に無数の設備配管を走らせ、個々のレジデンスに供給しているのです。ハウスリーフの海に入ってデッキ下を見上げると、水・電気など色分けされたカラフルな配管を覗くことができます。


では、インフラの供給の道はわかりましたが、排出先はどこにあるのでしょう?

シャワーや大理石でできた風呂の排水は、直接海に流されます。それも一目では流していることがわからずに、レジデンスの床下から海の底に配管が伸びています。従って、シャンプーやボディソープなどのポーションは、海の環境に配慮して自然由来のものに限られます。

モルディブではリゾート個々による乱暴な開発を防ぎ、豊かな海の景観・環境を守るため、個々のリゾートが努力をしています。



上のスケッチを見てください。

せっかくのリゾート気分が台無しなので、よく目を凝らして見ないと配管は見えません。梁よりも上のレベルで配管を通しているなど、海から簡単に見えない工夫が施されています。


今度は床下の構造について着目します。一見、すべて木造になっているリゾートのレジデンスです。はたしてそうなのでしょうか。

床はラチス構造(斜めで構成された、大分類するとトラスといいます)の梁によって支持され、特に海に直で触れる柱は、鉄骨(塩害処理された)の柱で補強されています。

気候風土に耐えうる土台をしっかり作ったうえで、上屋は南国情緒あふれる木材や茅吹きの屋根で作っています。なお、谷樋(屋根と屋根との間の雨水が通る部材)は、防水材でしっかり雨漏りがしないようになっています。

なんとも、合理的ではないでしょうか。見える範囲は美しくデザインされながらも、見えない(よく見ないと)床下は現代技術が施されていること。

ちなみに木材は、対候性塗料(厳しい気候にも耐えうる塗材)を塗った鉄材には劣りますが、高温多湿な風土ではぴったりな素材ということも、一言添えておきます。


海水が部屋内に流れない、柱の高さとはいったいどれほどなのでしょうか。

それは満潮の水面から約2メートル上です。その高さにFL(フロアレベル。床仕上げの高さ)が設定され、海水が内部空間に侵入しないようになっています。


少しだけ、インテリアの話を。

木造がノスタルジー(ここでは土着性、風土的などの言葉の意味で)を誘い、南国の情緒を余すことなく伝えていますが、インテリアはどうなのか。

こちらも木製の家具、木構造が見える屋根、木製サッシと木製オンパレードです。鉄製のインダストリアルな印象、、なんて物はありません。徹底して木製にこだわっています。

海に直接入れるサンデッキ、大開口のあるリビング、サニタリーからも美しい海を眺めることができ、非常に気持ちが良い空間です。インフィニティエッジのプールより海が身近な分、気分としては上位かな、と。非日常的。

風呂やクローゼットは、多湿な分年中ガラリ(換気のための横格子状の窓)により換気され新鮮な空気となっています。


ちなみに、モルディブのリゾートの多くは(多分)共通言語は英語です。通貨は米ドルです。ぱなおとぱなこは英語が苦手なので、電話でのアクティビティやルームサービスは四苦八苦でした。

チップ文化です。新婚旅行でテンション上がってチップをはずむと、バラを一面に散らしたバラ風呂にしてくれたのですが、うれしいような恥ずかしいような気になった記憶があります。

カクテルインビテーションなるものがあり、無料でカクテルを楽しみながら他のゲストと談笑できるイベントが本当楽しかったです。日本人はたくさん宿泊しているはずですが、ほとんどいませんでした。


脱線しました。以下にまとめます。真面目に。

このリゾートは、モルディブの風土・文化情緒に溢れ、豊かな自然を堪能でき、快適な室内空間で過ごすことができ、ゲストに最高のひと時を味合わせてくれます。

それはひとえに、南国リゾートの見えない部分にある現代的な建築設備・構造の技術によって支えられています。

建築物を人に例えると、皮膚が意匠(デザイン)・骨が構造、血管が設備と言われています(臓器はどこいった?)。

この美しい水上コテージ群は、骨や血管がしっかりしているからこそ、デザインが映える、といった基本を体現した建築形式ではないでしょうか。

その気づきは、一日中レジデンスを目を皿のようにして見て回り、寸法を計測し、スケッチを起こした役得かな、と思っています。


次回からは、国内外の有名ケンチクの物語をしていきたいな、と思っています。最後まで見ていただいてありがとうございました。

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