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五感が洗練される陰影のスパ テルメ・ファルス(建築物語15)

今回はスイス南端の山奥の村ファルスのテルメ(温浴施設)を紹介していきます。

子供が生まれる前、僕は妻とともにヨーロッパ周遊を敢行しました。その時はフランス→ベルギー→ドイツ→スイス→フランスとフランスを軸に地図上時計回りに列車で2週間旅しました。貯めていた有休をフルに使い心ゆくまで楽しんだ、心は贅沢、お金は貧乏な(笑)旅でした。

日本で旅の計画を立てる際、一番行きたかったところはこのファルステルメでした。学生の時分、建築雑誌をみていつかいきたいなあ、とずっと思っていましたから、念願かなって夢のようなひと時でした。日帰り温泉のように、テルメに入るだけということをやっているようですが、もちろん一泊しました(一番安い部屋で)。

このファルステルメの設計は、ピーター・ズント―という、スイスの建築家で、この方も世界的に有名です。近くにブレゲンツ美術館もあったのですが、旅程が合わなかったので断念しました。

この人はですね、隈研吾よりも早く、素材をおもしろく・美しくみせるデザインに挑戦した建築家で、素材に照らされた光と影の雰囲気がつくりだす、リンとした空気感が空間に表れているというか、そんなすごい人です。彼のつくる建築はシンプルなものばかりなので、もうセンスの塊としか言えないひとです。

場所がわかりにくいので、地図から。


チューリッヒからインターシティ(特急列車)で1時間半、スイスを時計回りに乗り続け、クールというまちにいきます。次に、クールからスイスを横断するローカル鉄道に乗り、イーランツまでいきます。所要約40分。そこからさらに40分、路線バスで山道を進みます。

電車はさすがスイスと感動しましたね!時間に1分も遅れないし、何より山岳を走っているはずなのに、揺れをほとんど感じませんでした!バスでは、グネグネ道が延々と続き、妻はぐったりしていました。

余談ですがバスに乗る際、本数が少ないので待つ間ランチしようということになり、バス停近くの喫茶店でピザを食べました。何を頼んだか忘れたけど、具沢山で、チーズがとてもおいしくて、今まで食べたどのピザよりもおいしかったのを今でも覚えています。


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へとへとになりこのスパにたどり着いて、温浴施設の建築をみた時、感動でしたね!ついに念願のピーター・ズント―の建築に来たんだ!と冷笑する妻を横目に一人で興奮していました。

1996年オープンだそうです。僕が訪れた時はすでに20年以上経っていたいたのですが、石を積み上げたこの建築は、衰えるどころか、むしろ経年による美しさが際立っていました。


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屋上は、芝生広場になっているようです。案内がなかったから、本来的には登るところではないのでしょうか。芝生の間にあるパネルが、恐らく内部空間に光を落としているスリットだと推察されます。


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テルメ受付入口のかわいいサイン。therme valsのピクトですね。宿泊客は、無料で滞在中何度でもテルメに入れます。バスローブは使いたい放題です。


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なんだか、ぼやけてますよね、すみません! 何故って、例え水着を着たとしてもそこは温浴施設、テルメ内は撮影禁止なのです。ですが本当に建築だけを撮りたかったのでこっそりと撮影しました。だからブッレブレの写真という、すごくなさけない結果になりました。

せっかくここまできたのだから、と意味不明な理由で隠れて撮影をしていたところ、いくつか撮ってこの後本当にスタッフにカメラを没収されました。ごめんなさい!スタッフさんが当然に正しい!

だからこの記事の他の写真は、超スピード撮影で撮った数少ない写真です。


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内部は、迷路のような回廊になっていて、その間に色々な風呂が楽しめるようになっています。欧米の温浴施設って、日本の風呂温度より2~4度くらい低めに設定されていて、長時間でも楽しめるようになっています。

ホットバス(42度)やクールバス、浅い風呂や、深い風呂などバリエーション豊かな風呂を、回廊の光と影の空間の中を歩き回りながら楽しめるテルメとなっています。


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ヨコ流れにランダムに積まれた石は、厚みも不均一で、壁がでこぼこしています。不均一な壁は光を拡散し、柔らかな光を空間全体に届けます。


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天井のスリットから光がこぼれます。こんな弱々しい光でも、内部空間は暗めに設定されているので、ビビッドな自然光を内部空間にそそぎます。

こんなにスリットをあけて、どうやって屋根スラブを持たせているのでしょう、実物をみても不思議に思いました。


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屋外テルメの写真はありません、カメラを没収されたので。だから客室テラスからの外観を一枚。正方形の開口部の奥が屋外テルメです。大きいテルメで、25mプール6レーンくらいのイメージでしょうか。

この施設、ナイトバスなるものがありまして、そのアクティビティに感動しました。単純に、夜のテルメを楽しもう、という企画ですが、一つ条件がありまして、それは私語禁止なのです。ですから、夜の真っ暗闇と、完全な静寂が体験できます。水(お湯)の流れる音だけが、屋外テルメに聞こえます。よく目を凝らすと、こんな山奥の田舎だから、満天の星が望めます。

男性同士のカップルがたくさんいて、ロマンチックな空間を堪能していました。


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赤じゅうたんの、洗練されたレストラン。これもピーターズントーのデザインです。深紅よりすこしピンクをいれることで、深みがでています。フルコースの食事は、堅苦しくとてもおいしかったです。が、やはりふもとで食べたピザの方が良かったですね。


僕の失敗写真でなんとなくのイメージはしていただけたでしょうか。できたとしたら、みなさんはとっても想像力があります 笑

雑誌で憧れて、ついに辿りついたファルステルメは、やはり視覚だけの建築空間ではありませんでした。ひんやりとした石積み、周りの雄大なアルプスの草原の草のにおい、ナイトバスの静寂さと水の流れ、凛とした空気、時々おいしい料理。。触覚、聴覚や嗅覚、味覚、五感が研ぎ澄まされるような施設でした。ですから、みなさんも写真を見て満足するのではなく、実際訪れてみてください。ちょっといきずらいけど、イチオシです。

なお、今がそうだとは言い切れませんが僕が行った時は、子供さんは入浴できませんでしたので、ファミリーには残念です。


さっき、妻にもう一度行きたいねといったら、あんな遠いところにはもう行きたくないと言い捨てられました 笑


ぱなおとぱなこ



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