論1.声優無用論(宮崎駿監督の声優は使わない発言やホリエモンの「声優ってスキルいるの?」 について)

Q.宮崎駿監督の声優は使わない発言やホリエモンの「声優ってスキルいるの?」にどう思われますか。 

「声優は使わない発言」

○監督しだい

私に聞かれても、ですが、話題になるのと問題提起になればよいのではないでしょうか。私のところにも、宮崎駿監督と知りあったら、主役級の声をやってくれを言われて、声優としてのキャリアなく出演したという人が、レッスンにいらっしゃいました。出演に、糸井重里さん、立花隆さんに、今回は、庵野監督自身。たしか、木村拓哉さんなども「ハウルの動く城」で出ていましたね。出演者へのオファーは監督の特権です。その作品の責任者なのですから、作品としてどうみるかということでしょう。役者、声優しだいで作品のイメージがかなり変わるのは確かです。

 宮崎監督は、声優を使わない理由として「女の子なんかみんな『わたしかわいいでしょ』みたいな声を出すでしょ。あれがたまんないんですよ」と言っていました。堀江貴文氏が「声優ってそんなにスキルいるの?(って身も蓋もない話もあるし)」というのも重なり(2013.6月)、庵野監督の出演時の素朴な語り口が、この話題を大きくしたのでしょう。ちなみに、アニメ声の嫌いなアニメ監督が、タレントや役者を使っているケースはけっこうあります。

○見本と授業と実践の違い 

 声優には、声優の学校に2年行っても足らない、現場での制作のノウハウも含めた高いスキルがあります。ですから、プロの声優の人からは、評価されようがないと思います。しかし、そんなことをいうと「今時の歌手はどうでしょうか」となるわけです。

 これまでの私の見解は、日本では、アナウンサー、ナレーター、朗読も、一つの見本のようなものに合わそうと、発声や読みを揃えてしまう。それがスキルと思っているのでよくないと。スクールなどで学ぶ歌手も、そういう傾向ばかりが強くなるので気をつけましょうということになります。半分は教える側のカリキュラムやプログラムの必要から出てきたような授業のためのスキルだからです。それは現場のスキルでなく、学ぶためのスキルに過ぎないから、作品をそれで判断しても仕方ないのです。

○スキル化

 役者と歌手は学校などに行かないし、声優、アナウンサーは2年くらい行くというのが、この業界です。声優に限ってということでもないのですが、明らかに、プロには高度なスキルはあるのですが、学校で学ぶものではないのです。他人から教えてもらうときも自分なりに消化して、創造して自分のものにしなくてはいけない。それが、形が勝っているのなら、素人という生活のプロにさえ劣ってしまうこともあります(しかも、それこそが、トレーニングのプロセスなのですが…)。

 私のところは研究所は、声優、ナレーターの人が、その2年よりは声について専門的に学びにいらっしゃいますので、器を大きくすることをしています。メインとなるのは、自分のど真ん中の声づくりと、武器として応用して使える声づくりとその使用法です。

○円熟させて演じる

 アニメに憧れ、アニメ声に憧れている人は、その世界の第一人者であるジブリの監督が、このように言うことを考えてみるとよいと思います。研究所のヴォイトレは、「トレーニングは声を円熟させていくもの」ですから未熟化には向きません。円熟することで、いろんな声を(アニメ声、ロリ声も)コントロールできるのです。ナチュラルにロリ声の人もいますが、それだけでは30代以降の仕事は難しいでしょう。私は、「ただ、滑舌とメリハリだけのナレーションは、やがてAIでパソコンに代替えされる」と警告しています。

○地力づくり

 声優は、もともと役者のスキルから派生したのですから、タレントや役者レベルでトレーニングしないで録音、アテレコ、吹き替えなどといったスキル(たとえばカブさるのを防ぐ)などだけでは通じません。私は何度も現場に行き、いくつか実演も出演もしましたが、一人で読むのは、語るのと別のスキルがいります。さらに皆と読むのは一人で弁ずるのとは全く違うスキルがいります。

 タレントや役者、お笑い芸人が吹き替えするのは珍しくなくなった今、声優、Voice Actor(Actress)も、よほどしっかりとした技術がない限り、前途多難です。私共のところでは、声の地力づくりのため歌唱やオペラなども勧めているほどです。特に、パワーと耐久力がこれからの鍵です。

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