論28.声の判断と日本人の声文化

〇声力はすぐわかるもの☆

 他の人から「ヴォイストレーナーで○○の」と私を紹介していただくと「あ、声がよいですね」と、お決まりのパターンになってしまうことが少なくありません。何もヴォイストレーナーは必ず声がよいとは限りませんし、この職では、声がよいことが絶対の条件ではありません。
 ラジオで昔、芸名で出ていたときも、数人の知り合いに見破られました。それなりに特徴のある声だからでしょう。職を明かさないときは、役者によく間違えられます。
ある有名な先生のところで話をしていたら、そこのお弟子さんたちが、皆、誰か役者が来ていると、集まってきました。顔は伏せていたので彼らを呼び寄せたのは、私の声です。まあ、人気のある役者がたくさん来るところではあったのですが…。きっと顔をみてがっかりしたことでしょう。
これは、私が自分の声を自慢したいのではありません。声というみえないもの、漠然としたものを具体的に考えるきっかけとして、述べました。
声の個性、声の価値、声の力などに、関連付けていただければ、話が早いからです。

〇記憶に残る声

 ホテルなどで、一度しか行っていないのに、「あっ、声で思い出しました」と言われたこともあります。声は、記憶に残るものです。
電話では、あまり詳しく名乗らなくても、あの人だと結び付けてくれることがよくあります。いろいろと声で得をしているのは確かです。
あまり自分だと知られたくないときは、声で覚えられたり、バレないように声をひそめたりしています。そこは声で損をしているのかもしれません。顔と同じで、声も有名税のようなものでしょう。
 クレーマーだとしたら、「この声、また」というようなことになります。
でも、顔と同じで声で覚えていただいた人には、私も好感をもちます。声を聞く力のある人は、コミュニケーション能力にすぐれ、活躍している人が多いようです。

〇声の能力は2つ

声の能力は、大きく分けて2つあります。聞く力と話す力、つまり、耳での聴力と発声力です。それを扱うのは、聴覚と発話機能に分かれます。
そういうこともあって、声の能力というのは、けっこう複雑です。よしあしも人によってかなり異なるもので、何をもってよし悪しとするのかも簡単にはいえません。

発声する力 よい・普通・悪い
聴く力 よい・普通・悪い
と、それぞれを3つのレベルに分けても、組み合わせると3×3で、9タイプになります。
結論からいうと、やはり、しっかりと声を学ぶことです。そのことで声を見抜くことができるようになります。すると、声で人を動かせるようにもなります。これが、私がヴォイトレをお勧めする隠れた理由の一つです。

○声を学んでコミュニケーションの達人になる

多くの人は、発声の力を声の能力と思っています。しかし、聞く力は、それに劣らず大切なものです。いえ、日本のように察する文化の国では、聞く力の方がよほど重要といえます。
しかも、今の時代のように男性優位が崩れ、女性優位になるとなおさらでしょう。高齢化と幼児化が進むと、ますますその傾向が強まります。
芸人は、声で一流となります。声ができあがっていないと、芸もできあがっていきません。
 誰でも声によって動かされているのですから、声を制するとコミュニケーション力が高まるといえましょう。

〇声の能力判断

声の能力をみるチェックリストです。
□ものまね、声まねが得意ですか。
□人の声をよく聞き違えませんか。
□人とのコミュニケーションに自信がありますか。
□初対面の人によく思われていると思いますか。
□人の言ったことを真に受けやすいですか。
□声を覚えることが得意ですか。
□声で相手の感情がわかりますか。
□自分の声の調子やトーンに敏感ですか。
□声が出やすいと心地よいですか。
□好きな声、嫌な声が、けっこうある方だと思いますか。

○五感と声

 人は、視覚で多くの情報を得ます。まさに「見た目は9割」です。
たとえば、人を判断しなくてはいけないとき、人は、何よりも見た目、容姿、顔や服装、姿勢や年齢、職業、その他、いろんな属性からその人を推測します。
人間の五感のうち、視覚がダントツで第一位なのは揺るぎません。匂いを嗅いだり、触ったり、味わったりするのは、普通のコミュニケーションではタブーです。
しかし、それも全く除外されているというわけでなく、匂い、香りは、時折、関係しそうです。親しくなるとなおさらです。Tシャツの匂いでの相性というのは、よく知られています。

○見た目と声の力を比べる

声は、それらよりはストレートに判断の材料になります。コミュニケーションは、お互いを目で見て、声でことばを交わしてスタートするのですから。
特に、視覚情報がない場合、電話のように声だけのケースでは、声が絶対的なものとなります。
ちなみに、書類選考などでは、経歴など、キャリアとともに写真、筆談と視覚優位です。
 ともかく、見た目の視覚が第一印象とすると、声という聴覚は第二印象ということです。

○「第二印象」の声の底力

 私は、第一印象の見た目、視覚に次いで、第二印象としての声は、ダメ出し効果、後で効いてくるものと思っています。人の表面でなく、本質をみるのによいと、人事のベテラン面接官は言っていました。
容姿や振舞い、受け答えはマニュアルで学べるし、直前対策セミナーなどで変えることもできます。そこには、見かけ(視覚)だけでなく、ことばも入っています。そこにもっと重みのある情報が隠れています。そこは、見る人が見ると、いえ、聞くとわかるということかもしれません。
ノンバーバルの力の一つが声です。それは、付け焼刃では変わりにくいものだからこそ、判断材料として有効なのです。

○面接官は、声をみる

たとえば、ベテラン面接官は、長年何千人もみてきて、採用後の結果も知っているわけです。そのなかには、失敗もあったでしょう。人事は、会社の根本ですから、「いい人を採った」と褒められたり、感謝されたりする一方で、「どうしてあんな奴を採った」というクレームや批判もあったことでしょう。それが人事への評価ですから。
 声は、容姿やことばに隠れているのですが、本当はけっこうな力をもっていて、人に働きかけているのです。みえない、でも感じさせるゆえに重要なのです。でも、それを自覚して磨いている人はほとんどいません。なぜでしょう。

〇声は生来のものか

多くの人は、声は生まれもってのもので変わらないと思っています。なぜなら、その声でその人がわかるのですから、自分の声は一つ、声と自分とは簡単に切り離せないと思うからです。声は変わるか、変わらないかは、何をもって変わるというのかを定めなくては語れません。

○声のメイキャップ

そういうことでは、顔もそうですね。整形もできますが、今の日本では、そこまでする人は少ないでしょう。でも女性なら化粧、男性でも髪を整えひげを剃り、身だしなみを整えます。髪に寝ぐせ、ひげはボウボウでは、大抵の仕事は行えませんね。そこでメイキャップするわけです。
声はどうでしょう。顔は洗い、歯は磨くのに…。ジムで体力づくりをするし、ヨガや整体、美容院や床屋には行くのに、声を手入れしている人はほとんどいません。そのうち、これが困ったことになるかもしれません。いや、今から気づいて声のメイキャップをすれば、大きな成果が得られるはずです。

〇声の準備

 その事例がないわけではありません。アナウンサーから歌手まで、声を使うプロは発声練習をしています。仕事で声を使わない人は少ないでしょう。ならば、多くの人に必修ではありませんか。
すでに生活や仕事に組み込まれていることもあります。たとえば、朝礼です。校歌や社歌はすっかり少なくなりましたが、挨拶の練習、社是社訓や社員心得を読み上げる会社はありますね。
営業ならプレゼンテーションのため、電話応対のため、工事などの現場なら安全のために予め、声を出します。 事務でも、挨拶や声がけはコミュニケーションの必修ですから声を使います。使いながら準備するのか、準備そのものをするのかは違いますが…。
午前中いっぱい寝起きの声で、午後になると声が起きてくるようではだめですよね。

○声を意識するとき

 あなたが声に思い当たるのは、どのようなことからでしょう。「寝起きの声だから、起こさないと」と思ったことはありますか。
人が思い当たるのは、大体、よくないときです。そのときに、初めてその存在に気づくのです。
「風邪で声が出ない、変な声だから何とかしなくては」
「カラオケでガラガラの声になったからまずいな」
「あがって声が震えてどうしようもない」
一時的でも、声が出ない経験をした人は、もっと深刻だったでしょう。

〇気づいてもそのままにしている声

声を壊しても、喉を休めていたら、いつの間にか戻っていることが多いから、すぐに忘れてしまうのではありませんか。命に関わるほどのことではないし…。風邪のように、「仕方ない」「少ししたら治るし」と思っていませんか。喉元すぎれば熱さ忘れるで、凌いできたのではありませんか。
しわやたるみ、体重や髪の毛などは気にしてお金をかけるのに、老け声になってきたと思っても、それを直そうとはしませんね。
でも、美容、老化防止に、声はとても重要です。声に張りがなくなり、老け声になると、どんなに着飾っても無駄なのです。
多くの人が、声は変えられないものと思っているそうです。
声を変えても、大してメリットがないと思っていませんか。実際には、そこまで考えたことのない人の方が多いと思います。
それでは逆に、声が出る快感を感じたり、声が出て気持ちよかったことはありませんか。いつもそういう状態を保ちたいと思いませんか。

○声の好き嫌い

 声というと、以前は、歌での声が第一に思い浮かんだものです。声がよいのは、歌い手の才能であり、特権でした。よい声を出す喉はよいと思われ、歌は、のど自慢だったのです。
この場合、歌い手には、浪花節から漫才、ものまね(昔は、声帯模写といった)まで幅広く入るのですが。あとはラジオのパーソナリティ、DJなどでしょうか。
今や、声というと声優や俳優、お笑い芸人の方が目立つようになってきました。あなたのiPodやスマホ、ヴォイスメモには、どんな声が入っているのでしょうか。

○忘れられない声

長距離電話、長電話、深夜放送(ラジオ)、レコードと、昔は、音声のやり取りは多く、その経験も豊かでした。誰でも記憶に残る、忘れられない声が少なからずあったのではないでしょうか。  
あなたの記憶に残っている声をあげてみてください。

○発声と楽器

 骨格や筋肉は、音声を出す楽器の枠組みといえます。楽器は、大きくは、打楽器、弦楽器、吹奏楽器と分かれます。
声は吹奏楽器です。吹奏楽器にもいろいろとありますが、発声の発声原理のところでは、木管楽器であるオーボエが近いのです。

○声をみる~人類学と声相学

発声工学で 声、つまり音を探知するセンサーは発達し、今やスマホで簡単に自分の声の波形をみることができます。
 昔、声の研究で、頭蓋骨、顎、骨から声を推測したこともあります。
声である程度、性別、年齢がわかります。ということは、今の私たちの声も、そういうもので条件づけられているといえるのです。
 19世紀に骨相学が流行しました。これは頭の形と性格を結び付けたものです。その後、顔と性格を結び付けた人相学となります。福耳などは、今も言われているでしょう。
 人相と人のよし悪しは関係すると、多くの人が思い込んでいるのです。声はどうでしょうか。声相学といえそうですが。

〇顔と声と好不調~引き寄せ

一般的に、人生、仕事がうまくいくと顔もよくなるし、道も開けます。同じ人が、事業などの成功と失敗とで別人のように顔が変わるのは、誰でも思い当たるでしょう。
よい顔をしていたら運もついてくるし、よくない顔をしたら不幸になる、それは当然のことでしょう。明るい顔は人を引き寄せ、暗い顔は遠ざけるからです。ここで顔と述べたところを声にそっくり置き換えることができると思いませんか。

○幼いと母性文化

リカちゃん、キティ、ポケモンなど、丸く小さく大きな顔、大きな眼、短足短手、膨らんだほお、運動オンチは、人気のキャラクターの共通点です。
成熟を避けた未熟さ、あどけなく、若く幼くかわいらしい幼形化は、頭が丸く顎が小さい、そして高いアニメ声です。キャラクターは、目と目の間が広く、目と眉も広い、これは、人の幼い頃の特徴です。小さい身体に弱い骨格、毛が少なく、皮膚が繊細です。以前は、まとめて「女子供」と言われていたのです。ただし、女性が、子供と違うのは、厚い口唇です。
アジア人は、総じて、ずんぐりむっくりの鼻ペチャではありますが。母性文化の日本、21世紀に入り、さらに父性は消滅しつつあります。

○甘えとかわいい

日本の「甘えの文化」は、このところ「かわいい」に集約されてきたのかもしれません。3B(Beautiful、Baby、Beast)で、Babyが絶対になったわけです。動物でもペット、それも小さいのが好まれます。生まれたときには、どの動物も、先に述べた特徴が顕著です。
今の日本の、守る文化、保守性、過保護、依存性、自立しない、平和、脱力といった風潮が、声にも影響を与えているように思われます。

○TVメディアで素人化

スターでなく、馴染みやすく、身近にいて共感できるようなアイドルを好むのは、日本人の特徴です。アイドルグループの歌は、日本人向きです。個としての魅力でなく集団としての魅力でアピールします。
しかも、完成、成熟していないもの、未熟、幼児的 (ロリータ)なもの。これはどうも日本人に特有な感性の一つともいえます。
大人にもならず個性としても中性化するので、警戒させないのでしょう。TV向けでもあります。
ぎこちなく、媚びることで、かわいい、保護したい、格下に扱えるわけです。ぶさかわいい、キモかわいいなど、自分のみつけた独自の価値などが指摘されています。
一方で洗練され、磨き上げられ、個性やセクシャルを表現するような強烈で魅惑的な美は、遠ざけられつつあります。大人にもならず個性としても中性化するので、警戒させないのでしょう。

○遠ざけられる大人の声

一方で、威厳のある声は、少なくなってきています。怖い声、悪役者、時代劇の声、低く、太い声は、使われなくなりつつあります。田中角栄のようなダミ声も少なくなりました。
目覚まし音、非常ベル、サイレン、救急車は、人が避けたい音です。怖い音、嫌な音、威嚇する声、犬など動物、笑ったり微笑まないが威嚇します。
ホラー映画の効果音と声、悲鳴などを思い浮かべてください。ここでも、びっくりさせる欧米のホラーとクールなジャパンホラー、幽霊などは違います。
そういえば、音だけのお化け屋敷というのに、中国で入ったことがありましたが、けっこう怖かったです。

〇表情と声

日本人は、口元より目で判断するのですが、それは口元をあまり動かさないからでしょう。口は笑い、目は笑っていない恐さ、というのもありますね。
声も目と口元をみて学ぶ、口元をみる日本人、顔全体と目をみる西洋人、総体的なイメージでみる東アジア人、絶対的なルールでみる欧米人、という人もいます。

〇日本人はおとなしく、あがりやすい

 セロトニン、トランスポーター、遺伝子多型について、少ないのは、SS型、次にS型、もっとも多いのはLL型です。
あるデータでは、日本人は、順に63%、31%、6%、アメリカ人は、19%、49%、32%です。扁桃体の活動が強くなる人は、攻撃を抑制する神経伝達物質のセロトニンを運ぶセロトニン・トランスポーター生産量を減らすDNAをもちます。日本人は、社会的には逸脱しない人が多く、衝動性は低いわけです。

○美と個性

 誰でも笑顔をみると安らぐでしょう。笑顔は、誰もがもっている、人に与えられるご褒美です。それが、社会的な報酬というのなら、よい声もそうでしょう。笑い声、楽しい声、やさしい声など、よい声は、よい音楽のようなものです。
 美人、イケメンといった魅力的な顔は、印象的ですが、それは、そういう人のいないところで目立つのです。その正体は、実は、もっとも平均的な顔といえるからです。多くの普通の人の顔を合わせていくと平均化され、平均的な美人、イケメン顔になるわけです。
ですから、個性的な顔、変わった顔の人の方が記憶には残ります。芸能人にも、本当の美人美女、ハンサム、イケメンは、思っているより少ないのです。どこか平均からはみ出したところがアピールポイントとなります。
声はどうでしょう。やはり同じことがいえそうですね。

〇アナウンサーとパーソナリティ

そう考えると、普通によい声はけっこうありふれていませんか。
TV、ラジオでは、当たり前によい声が聞けます。声がよいのはアナウンサーというのではありません。彼らは、声の個性としては、むしろ封印されているといえるのです。
一方で、ラジオのパーソナリティは、印象の残る人ほど変な声、いや変わった声ともいえませんか。声そのものよりも、言い方、メリハリ、テンションなど、声の使い方によって変わっているところも大きいはずです。

〇信頼のおけない声

 嘘つきで、だますような声、自信がないあやふやな声、これらを、私たちは、経験から学ぶことができます。
同一人物でも、その人が嘘をつくとき、ごまかすときの声は、普段と違います。
一般的には、声が高くなり、ことばが早口になりがちです。表情やしぐさも、ふしぜんさが付きまといます。弱々しい、低い、あるいは、妙に高い、軽い、浅い、気負った、とか、そういう声は、ふしぜんに思われ、要注意と判断されるものです。
人生経験の浅い子供たち、なかでも素直な男の子などは、大人に対して嘘がつけません。仮についたとしても、すぐにばれます。本人が知らないうちに声の調子が変わっているからです。意識して緊張し、それが表れるからです。

○説得力のある声

信頼できる声、説得力のある声を対比してみるといろんなことがわかります。一流のMC、芸人やセールスマンのもつ声、使う声を思い浮かべてください。自信にあふれた声、慣れていて卒のない使い方です。
かっこよい声、きれいな声がそれに含まれるとは限りません。ただ、情けない声、自信のない声、汚い声では、だめでしょう。

○声で選別される

 見た目で記憶するとき、知らない人は、顔よりもヘアスタイル、服装、体格、持ち物などで記憶しているといいます。社会的地位、職業などから推測してしまうのでしょう。
普通は、親しくなると、その人の顔を覚えるのです。
しかし、見かけというのは変わるし、変えられます。「馬子にも衣装」です。メイキャップ、おしゃれで、人は格段にレベルアップします。
その点、声はどうでしょうか。高低、強弱、音色よりも、話し方や敬語、話の内容、ことば遣い、くせなどが先にくるでしょう。

○声を選別する

 もちろん、並外れて他の人と声が違うなら、目立つでしょう。声の大きさ、高さ、そして音色、音色にはハスキー、かすれ声なども含まれます。
他の人を「声だけで区別できるのはすごい」などと言われたことがあります。しかし、子供でも、クラスメートのなかで10~20人くらいは、声だけで判断できているのではないでしょうか。
「声で覚えている」と言われたことがあれば、その理由を聞いてみるとよいでしょう。けっこう変わらないものではないでしょうか。
 あなたの個性、魅力が発見できるかもしれません。

〇声で区別される要素

 声での記憶は、声だけでなく、ことばや発音、くせ、方言などを伴うことが多いでしょう。
声そのものも、高さ、大きさ、音色などで区別することができます。性別や年齢、地域でも異なります。ことばにすると、発音、アクセント、イントネーション、何語か方言なのかなどということも含めて、明確な違いが出ています。
 話す内容や話題の似ている同性、同年齢、同職、同地域の人の声の場合はどうでしょう。たとえば、学校の同性のクラスメートなら、声のレベル、音色など、声のキャラクターにおいて区別しているといえるでしょう。

〇声を精査する能力と集団

 人は、対象とするものが相互に似ているほど、緻密に判断していくようになるものです。これも顔の判断と同じですが、自分の属しているところの人の中では、見分け、聞き分けを緻密に行っているわけです。
年配の人が、若いアイドルグループの子の顔や声が区別つかないといいます。同じように、若い子は、年配の人を、少なくとも、そのなかにいる人たちが区別しているほどには見分けられません。
赤ん坊や動物に日夜、接している人は、そうでない人には同じようにしかみえないのをきちんと区別できます。
これには、慣れと経験が必要です。どのくらい長く、深く、そういう集団と接しているかです。多くの人は、双子、三つ子を初めて見て、すぐに区別することはできないでしょう。まして、動物の群れのなかで個体の区別もつけられないでしょう。生きていくのに必要のないことであれば覚えないのです。愛情があれば別ですが。

〇人種と声

 他人種の顔が記憶しにくいことを「人種効果」といいます。よくみているということで、それぞれの判断能力が上がっているのです。
日本にいると日本人ばかりみるので、日本人の顔という漠然とした共通要素が入っています。それを意識するのは、欧米やアラブ、アフリカ人をみたときでしょう。明らかに違いを感じるはずです。そして、私たちは、アジアの人種とわかります。
私たちは、中国人や韓国人が、日本人に似ていてもなんとなく違いがわかります。しかし、欧米の人には、日本人、中国人、韓国人を見分けるのは難しいでしょう。
日頃接しているのか、これまでよく接してきたかで、基準が緻密に確立されてくるのです。これは、どこでも同じことでしょう。
 日本人からけっこう遠いのは、黒人です。色の違いで明確に区別できます。しかし、黒人のなかで誰なのかという区別は苦手なはずです。
 顔や姿に対して、声に人種効果があるとは考えにくいです。これまで、もっぱら言語としての違いが研究されてきました。しかし、高い声の多い民族や、低い声の多い民族はいるでしょう。育つ風土や民族の好みによって、声も違ってくると思われます。

○くせのある声

 声は、顔よりはしぐさに似ているかもしれません。しぐさは、その気になれば変えられるのですが、必要がなければ変えません。その人固有のくせが必ずついているものです。「なくて七癖」なのです。
顔は、毎日、誰もがもっとも厳しくチェックをします。日夜、手入れもしています。自分の表情については、鏡を見て知っていくわけです。
話をしているときに他の人にもっともよくみられるのが、顔です。人を判断するためにも最大の材料だからです。
しぐさは、よほど変でなければ許容されています。顔の次には、話でしょう。話し方と内容をチェックされます。一言で話といっても、いろんな要素があるわけですが。

〇声のアイデンティティ

 顔は化けられます。とはいっても、目、鼻、口の位置は、そう簡単に変わらないので、髪や衣服よりは確かな印となります。変装しても、この3つの相対的な位置で見破られるようです。それは、顔認識技術として使われています。
ほくろやできものなどはわかりやすいですが、加工して変えやすいのです。メガネの人がコンタクトレンズになると、わからなくなったりするものです。
声については、高さはそれほど変わらないと言われていますが、話の内容や相手により、大きく変化する人もいます。声の大きさは、場や相手によって、変わりやすいものです。
それでも、基本的な音色としては変わらないので、本人とわかるのです。声紋などが本人を特定する参考証拠として使われることもあります。指紋のように絶対的な証拠にはなりませんが。

〇声の情報量~携帯電話の声

見知らぬ人を紹介されて、最初に手紙、今ならメールでやり取りするわけですが、それを読んで会うケースと、電話で話してから会うケースを比べてみます。すると、電話の方が、はるかに情報量が多いことがわかるでしょう。
携帯電話は、本人の音声ではなく、変換されているものです。しかし、本人とわかるくらいに似ているのです。
これは、ビット数で比べるとよくわかります。
文字に対して音声は、時間の長さで大きさが変わります。写真は、大きさだけでなく緻密さ(精度)という空間で変わります。大きいのは3D、動画、映像です。もちろん、実物が最大の情報量をもつのです。
今のメディアでは、触感や匂いまでは伝わりません。しかし、絵が動画や映像となって音がつくと、かなり情報として必要を満たしているといえます。サイズや音量が違っていても疑似でもリアルに感じるのです。

〇日本人の声についての判断力☆

 声は、その音色だけでなく、全体のイメージで捉えて覚えられているといえます。私が覚えることにこだわるのは、声を覚えられることも声で覚えられることも、人生や仕事で有利に働くことが多いからです。
 私なりに見出した、声の可能性と限界についての見解としては、
1.すべての人が声で判断しているとは限らない。
人によって声の重要度というのが違います。許容の仕方、受け入れ方も違います。
2.どんな声も、万人に万能のよい声はない。
どんなによい声であっても、多くの人がそう思っていても、その声が嫌いな人もいます。これは経験、育ちによるところも大です。特定の声に嫌悪感を抱く人もいます。

〇ものまね

ものまねしやすい声は自分に似ているか、聞きなれているといえます。
生来の声の資質と、その後の育ちでも、声は変わるのです。
言い方などに強烈な特徴があると、声が似ていなくとも、その人とわかります。それにはギャグや口癖なども入ります。ことばのアクセント、なまり、ことば遣いなども、です。
芸人は、自分だけのもちネタ、ギャグ、決めの文句などが知られているととても強いのです。
ものまねでは、主に、声調、声の調子、メリハリで似させています。それは、声そのもの、つまり音色が似ているのとは違います。
ものまねで何を似させているのかは、いろんな要素があります。一言でものまねといっても、タイプがいろいろとあるのです。
1.しぐさ、所作
2.顔、表情
3.声
4.ことば、話し方、言い回し、フレーズ
5.イメージ

〇声と音への雑感

草笛と口笛を吹いてみましょう。
好きな歌曲について、その何がよいか考えてみましょう。曲のタイトルは、抽象画のタイトルのようになりましたね。
人の寝息を聞いてみましょう。
一呼吸、一フレーズ
聞きたいものを聞く、というのは、その他のものは排除することになります。
聴くのは疲れる、でも、聞こえてしまうことがありませんか。
これを「聞きなし」といいました。何かの鳴き声を人のことばで聞いてしまうことがあります。
「シンシン」という音は、日本人にとっては、雪の降る音ですね。

○Natureのサウンド

Natureには、1.自然、2.本性、3.本能 自然、無為自然、じねん、自ら然る、一道などの意味があります。
ほら貝、鐘、尺八など、ひとつの音の、共鳴、サウンド、音響など、音の響きを声でまねてみましょう。
音を発する前のイメージ、発している間、発した後の終止、開放、そしてリピートしてみてください。
フルート、サクスフォンは、金管楽器でなく、木管楽器となります。これは、素材でなく音を発する仕方で決まるのです。

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