Scalia最高裁判事亡き後の後継者選びはどうなるのでしょうか?

前回Noteで、Antonin Scalia最高裁判事の突然の死去について書きました。 後継者選びがどうなるのか、そこが一番知りたい!とのお声があったので引き続きこの話を書きたいと思います。

Scalia判事の死去からほぼ一週間、首都ワシントンDCの最高裁判所にご遺体が運ばれ、Obama大統領夫妻、政府要人、親族や多くの関係者が見守る中、Official Ceremony(お通夜に相当するのかな)が2月19日に、葬儀が2月20日に行なわれました。葬儀の様子はNew York Times紙の一面トップ、こんな感じ。

(ちなみに地元シリコンバレーの新聞メデイアでは地味な取り扱いでした。全国ニュースだけど、シリコンバレーへの影響は小さいです。)

Sclaia判事は多くイタリア移民がそうであるように、カソリック教徒。息子の一人はカソリックの司祭で、お葬式ミサの主祭を務めました。Obama大統領は葬儀ミサには参列せず、代わってJoe Biden副大統領夫妻(彼らもカソリック教徒。)が参列。カソリック教会への「respect」なのか、宗派を超えられない心の狭さなのか、Obama大統領の判断に色々な詮索が入りました。(トランプ氏はいつものように「イスラム教モスクだったら行ったでしょう!」とまた滅茶苦茶な言いがかりをつけてます 。)

Obama大統領は葬儀参列うんぬんよりも、後継者選びで頭がいっぱいでしょうね。沢山の沢山の資料を、大きな大きなバインダーに入れて、金曜の夕方にホワイトハハウス執務室(Oval Office)を後にした、とニュースで言ってました。

世の中的には、イマ ここ、です。

では肝心の後継者選びについて、まずは、 就任プロセスをおさらい:

ステップ(1)大統領が適切と思った人間を任命
ステップ(2)上院(Senate)のJudiciary Committee(司法委員会)で公聴会が開かれ、任命された人物の過去を洗いざらいにし。質問攻めにする。
ステップ(3)上院議会全体でオープン・ディベート。議論が続きます
ステップ(4)議論が無事終れば(←これ大事。終わらない場合もある)、投票に進む。半数のYESがあれば承認。承認とれなければステップ(1)に戻る。

次に、Obama大統領の現在のお立場復習。

「レイム・ダック」(lame duck)という表現がよく使われます。後継者が決まって、その人が正式に就任する前の現職者、つまり「もう終わりが見えている」政治家のことを言います。日本語では「役立たずの死に体」とも訳されています。

Lame duckイメージ図:

大統領は4年の任期を最大2回、と憲法で決まっているので、Obama大統領はもう終わりが見えてます。政権交代は2017年1月なので、まだまだ先の話ですが、Obama大統領はもう「Lame duck」だと、よく言われます。

逆にObama大統領にとってはレガシーをしっかり歴史に残す最後の1年。気合いが入っていると思います。

ところが 今は 、何をやるにも 敵方に囲まれ、自分が思ったことをやりにくい状況にあります。予算にしても各種法案にしても、議会の承認が必要ですが、上院(senate)も下院(house)も共和党が過半数を握っているので、民主党のObama大統領はことごとく反対にあいやすく、苦労が多いです。(← そのせいもあって、白髪が増えた感じがします。)

いつも逆風と戦わされるObama大統領。無事に判事就任へのステップ(1)〜(4)をクリアできるのでしょうか。上院で「いいね」ボタンを押してもらえるよう、事前根回しとか、あの上院議員はこの候補者だったらOKそうだとか、あの人だとダメとか、スタッフ達は事前ヒアリングや情報収集に大忙し、と予想します。(Netflixドラマの「House of Cards」の世界。)しかもまったく予定になかった事態なので、関係者の皆様におかれては大変に ご苦労様です。

Scalia判事が抜けたことで、リベラル派が強まった最高裁。Obamaが任命するのは中道・リベラル寄りになると思うのですが、それだと共和党・保守派勢力が強い上院から反発が予想されます。

そうは言っても8人になってしまった最高裁で4-4に意見割れする時とか、空席を残すことで生じる不都合も気になります。

なので、頑張って党派心(「Partisanship」ってやつ)を乗り越えて、Obama大統領の任命者の誰かをOKするんじゃないかな、と思ってました。また、Obama White Houseもうまいこと後ろから采配をふるうだろうな、と希望を持ってました。

でも色々調べてるうち、長帳場入りの末、もしかしたら本当に次の大統領まで持ち越すのかも、と心配になってきました。

Congressional Research Centerという議会直結のリサーチ機関があって、調査結果レポートは©著作権フリーのpublic domain(当然)。それによると、過去の最高裁判事任命・就任の内訳はこんな感じ:

大統領に任命された人の合計:160人
上院でOK:116人
上院でOKされたけど何らかの理由で就任せず:8人
上院からNG:36人

つまり、NG率は22%と意外に、高い。。。

否認決議という直接的NGに加え、NGに「導く」手法もあります。たとえば、任命された人が辞退する、或いは大統領が任命をひきあげる、というドラマも結構最近の例としてあったのです。

ドラマの主役はAbe Fortas(フォータス)判事。

Fortas氏 はJohnson大統領(Kennedy暗殺後に副大統領から昇格した人です)の大の親友でした。Johnson大統領の2期目最後の年(つまり今のObama大統領と同じような立ち位置)に任命され、最高裁入りしました。(1968年)

その直後 、最高裁の主判事(Chief Justice)が辞任。それを埋めるべくJohnson大統領は一番新参者で末席のFortas判事を推しました。(主判事になるためには同様のステップ(1)-(4)を踏みます。)

Fortas氏を主判事にすることに上院が反対し、あの手この手で議論が長期迷宮入りしました。これが「Filibuster」という、議論を延々引き延ばす工作です。(日本の「牛歩戦術」に似ています。)

議論が終わらないと、ステップ(4)の投票に進めないのです。なので、実質プロセス中断ですね。

上院のプレッシャーに負け、Fortas氏は主判事への任命を辞退し、末席判事に戻りました。

その後、Fortas氏にお金がらみのスキャンダル判明。Johnson大統領からNixon大統領に政権が変わるのを待って(1969年1月)、最高裁から完全に退職しました。(1969年5月)

Fortas氏の後継 としてNixon大統領は候補者を二人も任命したが、上院承認を得られませんでした。三人目でやっとOKをもらい、最高裁判事が9人体制に戻りました。この時点でFortas氏辞任から1年以上経っています。(1970年6月)

今回もこんな任命劇が展開される可能性は。。。否めない気がします。逆にすかっと一発で私の同級生だったSrinivasan氏が就任するかも知れないですが。 (And that would be great.  :) )

アメリカの政治は何だかドラマチックで、エンタメ性強いですよね。見てるだけでも楽しいです。

読んでいただき、ありがとうございました。
次はもっと軽い話題でいきたいと思います。


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