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父と子のインサイド・ヘッド

土曜日

久しぶりに息子と2人で映画を観に行った。

映画館には、バスと電車を乗り継いで、40分くらいかかるのだけど、僕が意識しすぎなのか、それとも息子がもう11歳になるせいなのか、その間、なんだか会話がギャクシャクしているような気がしたのだ。

いや、実際には、バスの中では、息子は彼が今、ハマっているフォートナイトの話をひたすら嬉しそうに話してくれたのだけど、乗り換えた電車の中で、彼だけひとり座らせて、その前に僕が手すりを持って立つというポジショニングになった途端、急に息子は無言になり、僕が話しかけても、あまりちゃんと答えてくれなくなったのだった。

まあ、今、振り返ると、この位置関係だと、かなり大きな声を出さないと相手に声が聞こえないから、周りの人の迷惑にならないようきっと彼は配慮したんだろうな、って分かるのだけど、このときの僕は急にノリが悪くなった彼を前に完全に途方に暮れてしまった。

しかも、無言のときの彼の表情が、まるで苦虫を噛み潰したような、なんとも形容しがたい表情だったから、余計に、ね。

だから、電車を降りてから、僕はいろいろと、でも内心は恐る恐る、彼に話しかけて、最初はリアクションが薄かった彼も、徐々にギアが上がってきたのか、映画館に入る頃には普段の感じに戻って、僕もようやくホッとしたのだった。

けど、きっとこれから彼が大きくなればなるほど、きっと僕との会話もどんどん減っていって、どんなに僕が心配したところで、毎日、彼が何を考えて、何を悩んでいるのかも分からなくなっていくんだろうなあ。

そんな風に、そう遠くない未来の二人のことを想像しているうちにどんどん気持ちが暗くなってきた僕は、気づいたら彼以上に無口になっていた(笑)

そして、そんな精神状態で映画館のロビーのスクリーンに映し出されている映像を見ていたら、「インサイド・ヘッド」の続編の予告編が流れてきた。

ちなみに、このアニメ映画は、主人公の頭の中のヨロコビやらカナシミやらの擬人化された感情たちがいろいろと悪戦苦闘するというストーリーなのだけど、今回は、思春期を迎えた主人公に新たに、シンパイ、ハズカシ、ダリィなどの感情たちが加わったという話らしかった。

これを見た僕は、咄嗟にあることを閃いた。

そして、まさに渡りに船だとばかりに、隣に座る息子に向かって、

「ちなみに◯◯は、どの感情が多いかな?」

と質問したのだった。

すると、彼はほとんどためらうことなく

「シンパイかな~?次はハズカシ」

と答えてくれたのだった。

まだ11歳なのに、すでに思春期の、というか、彼自身が認めるとおり、厨二病に典型的な感情に支配されているのが、いかにも彼らしくて、僕は思わず吹き出しそうになってしまった(不思議とシンパイする気持ちは湧かなかった)

もちろんそれ以上に彼の内面をこんな風にきちんと把握できたことが何より嬉しかったし、こーゆーメンタリティの彼に対して僕はどんな風に接したらいいのか、それを改めて真剣に考えたいと思った。

例えば、彼は上映前に何度もトイレに行く癖があって、その日もすでに2回行っていたのだけど、「これこそまさに彼の中のシンパイの成せる技だなあ」と思ったから、息子に向かって、

「今、シンパイが働いてるねー」

と伝えると、彼はハッとしたような、そして、少し安心したような表情を浮かべていた。

そして、そのおかげかどうかは分からないけれど、いつもだったら行っていた3回目のトイレもその日は行かずに済んだのだった。

次に攻守交替で、今度は息子が僕の感情について、なぜかニヤニヤしながら話し始めた。

「お父さんはねー、まずはチョウシノリ」

「その後、そのせいで痛い目にあって、カナシミに変わる」

「そして、最後には相手を逆恨みして、イカリになるんだ」

ちなみにチョウシノリというキャラは、映画には出てきません(笑)。

しかし、この話を聞いた僕は(残念ながら)、まったく反論できなかった。

いや、それどころか

「本当に僕という人間の本質をついている発言だなあ」

と息子の観察眼の鋭さに舌を巻いていた。

それにしても、チョウシノリって・・・(苦笑)

でも、このとき、僕がいちばん気をつけなきゃいかんなあ

と本当に思ったのは、

その後に彼の口からボソリと出てきた

「あとたまにイライラも出てくるよね・・・」

という発言に対してだった。

なぜなら、その言葉を発している彼の心の中にカナシミが宿っていることを僕は見逃さなかったからだ。

というわけで、最近、息子さんや娘さんの気持ちがよく分からなくなって、ヤキモキされているお父さん、お母さんにも

そんなお子さんの本音をさりげなく引き出すために

「インサイド・ヘッド」に登場する感情たちを使う

このやり方はかなりオススメだと思います。

きっとこのやり方ならみんなあまり抵抗なく答えてくれるだろうし、同時に自分が子供からどう思われているかを確認するよいきっかけにもなると思うので。

ただし、たとえそれが僕みたいに思わず苦笑いしてしまうような内容だったとしても、みんな厳粛にその事実を受け止めてくださいね(笑)。


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