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不思議なこと ④

 随分前に、伊勢のイルカ島に行った時のことだ。

 私はとてもイルカが好きだ。イルカに会えるのを楽しみにしていた。イルカ島には丸いプールがあり、その中でイルカが泳いでいた。プールの周りは、手すりあるだけで、近くでイルカを見ることができるようになっていたと記憶している。プールの1カ所に人だかりができていた。見てみると、イルカがプールの縁に近づいて、横向きになり、ヒレでお客さんと握手をしていた。係の人もいないので、イルカが自分の意思でサービスしているようだった。

 私もぜひイルカと握手がしたいと思い、人だかりに近づき、最後尾らしき人の後ろに並んだ。前の人たちも、幸せそうにイルカに握手をしてもらっていた。かわいい。
 私の番がきた。握手をしてもらおうと、プールの手すりから手を出した。そのとたん、横になっていたイルカが向きを変えた。イルカはこちらを向き、ヒレを出さずに、顔を出してきて、私の手を甘噛みしてきたのだ。甘噛みなので、痛くはなかったけれどびっくりした。よしよしすると、今度こそ、ヒレを出してくれた。念願の握手ができた。その後、イルカは体勢を変えると、また甘噛みをしてきた。今までと違う動きのイルカに、人の視線が集まってきた。何となくバツが悪くなり、イルカにお礼を言ってその場を離れた。名残惜しかった私は、プールの違う位置からイルカを見ようと思い、反対側へと移動した。
 プールの反対側に移り、イルカを見ていた。まだたくさんの人が握手を求めて並んでいた。ふと、イルカがこっちに向かって泳ぎ始めた。私の前に止まり、顔を突き出してきた。手を出すと、また甘噛みしてきた。本当なら、ずっと触れ合っていたかったけれど、向こう岸には握手を待つ人の列があり、こちらを見ていた。これでは、順番を守らないマナー違反の人みたいだ。名残惜しい気持ちを抑えて、私はイルカプールから離れた。

 イルカがなぜ甘噛みしたのかはわからない。好意だったと思いたい。私のあふれる「好き」の気持ちが伝わったのなら、うれしい。少し不思議で、とっても幸せな思い出だ。

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