ウクライナ問題がからむと対応が異なってしまうことへの疑問

  アムルスティが28日に公表した2022年の年報で次のような点を指摘しています。
ウクライナ対応で西側の「二重基準」鮮明に アムネスティ (msn.com)(3/28)
「アムネスティのアニェス・カラマール事務総長は「ロシアのウクライナ侵攻に際しての西側諸国の見事な対応は二重基準を際立たせた。他の多くの国連憲章違反への対応を見ると、筋が通っていないことが鮮明になった」と述べた。」(上記記事より直接引用)
  いわよる西側諸国の対応からは、ウクライナ問題にかかわることと、そうでないことではあまりに対応が異なる、「二重基準を際立たせた」と私も強く感じています。
 ロシア政権による侵略、ウクライナでの様々な残虐行為・人権抑圧は全く許容できないものであり強い怒りを感じます。他の国々地域で似たようなことが行われていたとしても、ロシア政権によるこうした行為の免責理由には全くなりません。しかしなぜ他の国々地域の同様な行為には同じような批判や対応がなぜなされないか、は常に疑問に感じます。

五輪=英・ポーランドなど、ロシア・ベラルーシ選手の参加に反対(ロイター) - Yahoo!ニュース(3/28)
  ロシア・ベラルーシの「選手」のオリンピック参加を上記のように否定する意見がありますが、ではイラク戦争の時アメリカおよびそれに加担した国の「選手」をオリンピックから排除する、ということがなされたでしょうか。そうした意見すらなかったと思います。さらにこの記事の表題に出てくるイギリス・ポーランドはアメリカとともに真っ先にイラクに派兵した国です。だからといって両国が「派兵期間中のオリンピック選手派遣は控える」とは当然いわなかったし、両国の「選手」を排除すべき、などという意見もありませんでした(「アメリカやイラク派兵を行っている国の「選手」はオリンピックから排除すべき」という意見が出てもイラク侵略反対の立場からも批判がなされたでしょう。私もそうした考え方には賛成できません)。ちなみにオリンピック憲章はすでに泥にまみれているとはいえ、「オリンピックは選手同士の争うの場で国同士の争いのばではない」としています。他方で「オリンピックは平和の祭典、侵略戦争の加害国選手は排除すべき」という考え方もありえますが、の原則でいくなら、現在侵略行為を行っているすべての国の選手は排除すべきと思います。ただそうした原則をとるならロシア・ベラルーシとともに、少なくともパレスチナへの侵略を行っているイスラエル、シリアへの違法駐留しているアメリカの「選手」も排除されるべきと思います。最近盛り上がったらしいWBCも開催すべきでなかった、となります。その点はなぜ主張されないのでしょうか。ちなみに政権と「選手」「市民」は違うという基本的なこともウクライナ問題がからむと無視されてしまっているように思います。
 
 逆にウクライナ問題がからむと、これまで否定的にみられていたことへの批判が弱まったりなくなったり逆に肯定的にとらえたりしていることがあります。
 イギリスがウクライナに供与する劣化ウラン弾に関する朝日新聞の記事です。
「核を用いた兵器だ」恐怖あおるロシア 英国の劣化ウラン弾供給(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース(3/25)
 確かに劣化ウラン弾は核兵器そのものではありません。ただその使用に関してはこれまでかなり問題視されてきています。しかしこの記事のようにウクライナへの供与問題についてはこれまでの劣化ウラン弾に関する批判的な視点が退いてしまっています。またクラスター弾も禁止条約があり問題視されてきたわけですが、ウクライナが求めるとなぜかそれへの批判的視点がみられなくなります。
 軍事支援をたとえ容認する立場であっても「クラスター弾の供与を求めたり劣化ウラン弾を供与することは行き過ぎでそれはやめるべき、反対である」という意見がなぜ強くでないのでしょうか。軍事支援容認ということはそうした武器の使用もウクライナなら容認ということでしょうか?この点は軍事支援を容認する立場の方々にぜひ聞きたいところです。
 さらにNATOの拡大問題もウクライナ問題との関係で肯定的にとらえられる傾向があります。私はNATOに限らず、CSTO、SCOなどすべての軍事同盟に反対、軍事同盟の拡大は軍事的緊張を高めるものでその拡大強化は否定されるべきという立場です。NATOの東方拡大に関してもロシアの安全保障への脅威云々という以前に、軍事同盟を否定するという点から批判反対する立場です。しかしNATO拡大の問題に関してもウクライナ問題がからむと、「ロシアの脅威への対抗」ということで肯定的にとらえられる傾向があります。しかしロシア・ウクライナ戦争でNATOの軍事同盟としての性格がより「平和的になった」ということはありません。
核兵器配備容認へ NATO加盟実現なら―スウェーデン:時事ドットコム (jiji.com)(22年11/2)
  NATO拡大は、こうしたさらなる核拡散の問題も生じさせる危険性をも生み出しています。
 ロシア政権によるウクライナ侵略はいかなる背景があろうと許容できず、さらにその過程で生じている数々の蛮行も全く認められない言語道断です。その点はきちんと直視し非難すべきと思います。同時に侵略・人権抑圧はウクライナでだけ生じているのではなく、今この時にも世界各国にも生じています。それらについても同じような批判がむけられるべきと思います。「ロシア政権による行為が許されない」、はほぼコンセンサスができていると思います。そうしたコンセンサスが他の国地域での侵略・人権抑圧にも作られ、どの国の行為であれ同様に鋭く批判し許容しない、という態度がとられることを強く願います。

付記
1、オリンピック排除の問題は「ロシア・ベラルーシなどは選手が国家と密接な関係にある」という反批判も予想されます。しかし選手と国家との関係はでは他の国ではどうなのか、東京オリンピックで問題となっている広告代理店と関係をもつ選手は実は日本選手には一定存在していましたが、ではその選手は排除すべきだったのか、という問題も生じていきます。
2、ベラルーシへの核配備も当然絶対反対です。

白井邦彦
青山学院大学教授
 
 
 
 

/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?