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ローカルブランドからグローバルブランドへ

泉利治

私の町にあるシャツブランドの店がニューヨークに出店したことが新聞に報じられた。
 
“メーカーズシャツ鎌倉”だ。1993年創業というから、今年でちょうど20年になる。このブランドを創業時から知っていたので応援したい気持ちも働いて、ボタンダウンのシャツはこのブランドを愛用していた。注目していた大きな理由はセオリー通りの基本戦略ゆえである。したがって、当初その戦略いわゆる「差別化集中戦略」をとっている限りは成功するのでないかと思っていた。
 
当時、仕事も絡めて毎年のようにロンドンで出かけたが、その度にジャーミン・ストリートにある“ターンブル&アッサー”に立ち寄り手ごろなシャツやネクタイなどを買っており、日本にもこのような専門店があっても成り立つであろうと思っていたからよけいだ。
 
また、そのころにブランドの基本戦略をマイケル・ポーター教授の3つの基本戦略から説明しようとして、4象限にさまざまな業界ごとに基本戦略が明確な代表的な企業を選び出し、それぞれの戦略、マーケティング、コミュニケーション、経営トップの言動などを検証していた時期でもあった。とくにアパレル業界のグローバルブランド戦略を研究する際に差別化集中戦略を説明する段になって、それに相応しいブランドが見当たらず日本市場ではまったく知られていない“ターンブル&アッサー”をあてはめて説明していたのだが、知名度がないので説明にかなり苦労した。そのときに漠然とこのようなビジネスモデルは日本でも成り立つであろうと思っていたので、創立まもないメーカーズシャツ鎌倉のビジネスモデルはうまくやれば成功するに違いないと思ったのであった。
 
「差別化集中戦略」とは特定の狭い商品分野のみのビジネスで会社を成り立たせていく経営手法であり、今回の例ではシャツ分野に特化するということである。本来シャツなどは総合衣料ブランドでは1アイテムであるが、そこだけに特化することにより、細かいニーズに対応できるという強みが生まれる。総合衣料ブランドではシャツなどは利益が薄いので、コートやスーツなのどの重衣料に力を注ぎシャツなどはおまけみたいな事業になってしまう。仮にシャツのニーズがあったとしてもそれに対応できるだけの体制がないので、そこで無理をしても赤字事業部を生み出すだけになってしまうからだ。
 利が薄いシャツのビジネスでもやり方一つで儲かるし、ニューヨークに出店できるというのが“メーカーズシャツ鎌倉”のケースである。
 ”VAN”で修業をした社長は創業の理由をこう話す「着たいシャツがない。欲しいものは1万円以上もして、自分の給料では買えない」…そこで自分でも着たいような品質が良くて、シャツの基本をしっかりと押さえており、しかも手ごろな価格で買えて、選択肢が十分な品揃えがあるブランドがあったらよいだろう、とそれが創業の志である。
 
このような差別化集中戦略は意外と利益率も高く、長続きするものである。私は京都が好きで年に何回か出かけるのだが、京都が好きな理由の一つに100年以上も続いている老舗が多いことがある。店によっては応仁の乱でも我が店は燃えなかったなどと豪語するようなところがあるのでその継続期間は推して知るべしである。確かにそこの商品は高く、買いに行く時間が遅くなったりすると売切れてしまう店が多い。かなり、売り手指向のビジネスをやっているのだが、買い手のほうも代替えはないからそれはそれで、買いに来たのが遅い自分が悪かったからだと、妙に納得させて引き下がってしまうという、心理構造になってしまう。ここでは東京の傲慢な消費者のエゴなども引っ込むのである。
 
なぜ?京都の店は長続きするのだろうと考えたのだが、そのヒントをメーカーズシャツ鎌倉が教えてくれた「商品は良くても、値段が高かったり在庫を抱えたりすると経営が傾く。売れる商品を売れる分だけつくり、消費者が買いたい価格で売ればいい…」と言うことらしい。確かにそれを読むとなんとなく応仁の乱を乗り切った事業をやりつづけた会社の社長の言葉のような気がしないではない。
 
それは一番わかりやすい経営の基本かもしれない。たしかにシャープなどの事例を見ると、売れるかどうかわからない商品を、過剰に作り、そのための設備投資を借金でつくる。その結果がああなってしまったのだということなのだが、そのやり方を否定するわけではないがその危うさは子どもでもわかる。
 
メーカーズシャツ鎌倉の創業者の貞末氏はサラリーマンとして倒産を5回経験したことから学んだのが前記の経営哲学なのだが、それだけ修羅場を経て学んだものだけに実践的な確かさがある。その確かさとは会社を持続させるという点においてである。シャープは一時潰れるとか?買収先を探したがあまりの巨額な債務で引き受け手がなかったなどともいわれた。シャープの失敗は予測を誤ったことにつきるのだが、私は根本的な理由は基本的な経営哲学のミスにあると思っている。つまり、シャープは自分のやろうとしたことを成せるだけの企業能力がなかったのだ。結果として品がない言い方だが経営判断と博打を混同してしまったのではないかと思っている。
 
シャープという会社は本来、大量生産で儲ける会社ではない気がするのだが?確かに液晶のパイオニアであることは認めるがシャープがつまずいた経営判断は液晶パイオニアならではの経営判断ではなく、液晶を低コストで量産することによって競争優位をつくることにあったからだ。たとえばアップルも大量に生産はするがその対象はライバルが存在しない絶対的な製品や、先行者利益が見込める製品、技術に裏打ちされたものに限られている。しかし、シャープの液晶はすでにコモディティー化しつつある技術であり、製品分野であった。そのような背景の中で利益を出すスキルも経験もシャープにはなかったはずである。液晶という技術の先行者利益を獲得するのが、シャープらしさである。液晶の大量生産で利益を獲得するのはよその企業に任せればよいのである。なまじ“亀山ブランド”などに躍らせられたのも良くなかった。技術でもって成り立っている会社がブランド力に頼るようになってはもうおしまいである。
 
大量生産から利益を生み出す能力と先駆けた技術のよって先行者利益を獲得する能力は同じ会社経営であっても180度違うので、異なった資質を必要とする。その違いを識別し、自社の本文をわきまえて行動するのが最低限の経営者の資質なのではないか。その両方を持っている会社は世界でも数少ない。日本でいえばトヨタ、ホンダくらいか?自動車の会社は競争、安全性、環境、経済などが自社に与える影響が大きく、さまざまなところに配慮しないとあっという間に成り立たなくなってしまう厳しい経営環境にある。だから、一分一秒たりとも気を抜くことができない。それゆえだろうが会社としての強靭さを持っている。切磋琢磨を怠らない文化があるからだろうかそれを乗り越えた企業はすばらしい企業能力を獲得したようだ。
 
組織をうまく動かす力をどのように身につけるのかわからないが私は会社が取るべき基本戦略によってその難易度が違うのではないかと思っている。まず一番難しいのは薄利多売を基本戦略としているグローバル企業だ。たとえば“ユニクロ”。反対に一番易しいのはプレミアム高級品を基本戦略においているような企業だ。“シャネル”や“エルメス”だ。
 
ユニクロの場合はその販売価格から利益を生み出すために組織のありとあらゆるところに目配りをして、コントロールしないといけない。つまりそれだけ「つまずく」要素がありとあらゆるところにあるからである。シャネルの場合は開発力がなによりも優先される。販売価格などはしかるべき利益を上乗せしてから決めればよいのである。要するにクリエイティビティのところだけをしっかり押さえておけばよいからである。

「メイカーズシャツ鎌倉」のビジネスは4つの基本戦略の難易度としてはシャネルの次にやさしい部類に入ると思われる。創業者は5回の倒産を経験しただけに経営者としてうまい選択をしたと思われる。できる会社とは汝自身を知っている会社のことである。1月7日で書いた家電ブランドのミーレという会社も汝自身を知った大人の会社である。完全に成熟化した白物家電の分野で独自な価値を創出している。
 
ビジネスとしてとらえると今回のメーカーズシャツ鎌倉もしかりだが、完全に成熟化した分野でありながら生活の必需品をドメインとしてそこでうまいビジネスをやることぐらい確実な選択はない。一般的に新しい価値を先駆けて開発することこそ企業の使命だ、ということも一理あるが、これほどリスキーな選択はない。
たとえば家電ビジネスとはグローバルな60億人市場でみると1パーセントくらいにしか、目を向けていないのではないか?あとの54億人は6億人の市場で飽きられた技術や製品で十分ビジネスができる市場なのだ。
家電といえるかどうかわからないが最近、テレビのゴールデンタイムで“トヨトミ”という会社の石油ストーブのCFを何回か目にした。不安定な電気に代わり昔ながらの石油ストーブが本当に重宝されているらしい。また、ここで造っている石油コンロが発展途上国では先進機器として重宝がられているという話を聞いた。落ちている石で作ったコンロに焚き木を焼べるコンロにくらべれば安定した火力、煙は出ない、屋内で使える石油コンロは本当に文明の利器らしい。もし、日本がそのような国をモノで支援しようとしたならばIHクッキングはまったく役に立たないから石油コンロこそが現実的になる。
 
パナソニックの苦境はそのように硬直した経営判断によってもたらされたのではないかと思えて仕方がない。松下幸之助の思想は何もない国土を前提にしたからこそ生まれ、そこで価値を持った。ことを考えるとパナソニックの苦境の原因もなんとなく解りそうである。

2013/1/21 投稿記事

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