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トミー・バハマ

泉利治

トミー・バハマというブランドの店が今春銀座にオープンする。“アイランド ライフスタイル”をコンセプトにしている、またブランドステートメントにもなっている。名前を聞いただけでイメージがパッと広がったのでネーミングが抜群に良かったのだろう。アメリカ発のこのブランドを私が初めて体験したのはハワイだからハワイ発かと思ったがどうも違うらしい。アイランド ライフタイルはその名の通りバハマ諸島からその発想をえたようだ。そこをベースとしたライフスタイルであろうと思われる。このブランドについてその源泉に大変興味を持った。このブランドが提唱するライフスタイルの発想がどんなものかを推理してみようと思ったのである。
 
手がかりはまずネーミングにある。Tommy BahamaのTommyはThomas,Thompsonの愛称だ。したがって人の名前であろう、それも愛称だ。一般的にはそのブランドネームはそのブランドを立ち上げた人の名前であることが比較的多い。ラルフローレン、サンローラン、ジパンシー…みなそのブランドを立ち上げたデザイナーである。同じトミーであるブランド「TOMMY HIILFIGER」は創業者トーマス・ヒルフィガーの名前だ。
 
ではTommy Bahamaはどうか、トミーは愛称であろうし、バハマは苗字であろうか?Bahamaは地名である。しかし地名が人の姓になることが多いのでそのような人がいるかもしれない。しかし、ネットの少ない情報からするとこのブランドは1992年創立のアメリカのブランドで創設者はトニー・マーゴリス、ボブ・エムフィールド、ルシオ・ダラ・ゴスペリーの3人で、ブランドコンセプトは“アイランド ライフスタイル”で「リラックスした大人のウィークエンドスタイル」ということで現在、世界65ヶ国以上に1000店舗展開しているようである。1996年フロリダに第一号店がオープンしたとのことだから、バハマ近辺の若者3人が創業したことは推察できる。
 
現在のブランドホルダーは米国系のブランドコングロマリッドのオックスフォード・インダストリーで2003年に買収したようだ。ここはLVMH(ルイヴィトン・モエヘネシー)のようなあらゆる分野の高級ブランドを支配しているアパレルブランドのグループである。この3人の若者はブランドの売却で相当なお金を手にしたことだろう。これでかれらは本当のアイランド ライフスタイルを具現化できるようになった?
 
Tommy Bahamaというネーミングはどうも特定の人の愛称らしい。公式ホームページには「恐るべき旅行者で、9ヶ国語を流暢に話し、小麦色の肌を持ち、ウイットに富んだ男で、あるとき200ポンドのキハダマグロをココナツシェルと壊れたサングラス、スイムトランクスの紐だけで釣り上げたという伝説を持っている」とのことだが、実在の名士のような人だ。もしかすると3人の若者の憧れの男だったのかもしれない。多分、そのお金持ちの旅行者はバハマ諸島のどこかの島に住みついてリッチな毎日を気ままに送っていたのだろう。そんなモデルの人は3人の若者に限らず、豊かな暮らす現代人ならだれもが憧れるライフスタイルである。したがって、これをウィークエンドスタイルということで特定すると、市場的に着眼の良さを感じる。ウィークエンドで真の豊かさを体験したいという人は多いはずだからだ。
 
気のあった3人の若者がバハマ諸島で毎週土、日を一緒に過ごすうちに、だれかがこの時を最大にエンジョイするブランドを創ろうではないか?と言い出して出来上がったような遊び心がある。なのでブランドドメインもウィークエンド24時間の生活を支えるすべてのアイテムがあり、衣・食・住を網羅している。特別なカクテルの提案まである。勿論、パーティーに関する品々も豊富だ。もしかしたら、トミー・バハマと呼ばれていた伝説のトラベラーの毎日を具現化したのかもしれないそれらは、大変現実性に富んでいる。
 
私が驚いたのは葉巻がアイデンティティアイテムになっていることだ。特にそのアクセサリーの中にミントタブレットがあったことの具体性には感服した。「アフターシガーに」とある商品説明どおりにこれを口に含むと葉巻を吸った後のイガイガ感がなくなり快適に過ごせる。葉巻を愛好する人ならわかるであろう。世界の切手が意匠になっている葉巻用の陶器の灰皿もブランドの世界を物語るアイテムとして見事だ。非健康的なところが男らしいのだ。
 
ということで、このブランドのアイデンティティで特徴的なことは、海、葉巻、カジキマグロ…などだ。海とカジキマグロはなんとなくわかるがそこに不健康なたばこが入っていることが興味深い。商品アイテムにも葉巻に関連するグッズがあるし、店頭のディスプレーにも葉巻とそのアクセサリーが効果的にブランド個性を演出している。

…カジキが巨大クルーザーの後ろにたれ流している針に食いついたようだ。トミーは固定されたロッドの前に座り、体をこれまた巨大なハーネスでしっかりと固定する。これから、何時間になるかわからないカジキとの決闘が始まるのだ、トミーはおもむろに少々長いロンズデールシガーに火をつけた。このくらい長くないと自慢の髭を焼いてしまう。まだ、ヒキはない、どんな奴か?リールを回す勢いからするとかなり大きい。トミーは海の中に消えていく葉巻の煙を目で追った…

こんな男のライフスタイルがなんとなく想像できるのがトミー・バハマなのだが?たしかにどんな男でも憧れそうなリゾートシーンである。アフリカでライフルをぶっ放して猛獣を狩るシーンより、倫理的にも抵抗はない。一方、ラルフ・ローレンが静かな山間の湖にカヌーを出して鱒を釣るか、ツィードを着て渓流でフライフィシングするのにくらべ、えらくアクティブだ。トミーは上半身裸かせいぜいTシャツだけで、下は半ズボンだ。日よけのために粗末なキャツプぐらいはかぶっているかもしれない。海の太陽の下では着るものは最小限でいいのかもしれない。
 
こういうライフスタイルを日本人が想像するにはかなりのイマジネーションを働かす必要がありそうだ。日本では葉巻を銜えてカジキマグロと格闘するイメージは想像しにくい。それはかって日本にはない道具立てと環境だからだ。スポーツフィッシングとしてトローリングが知られるようになったが、日本人のそれとトミー・バハマの想い描いているそれはかなりの違いがある。まず、葉巻を銜えないだろう…?
 
アイランド ライフスタイルでのカジキとの決闘は最大のクライマックスだ。あとは抜けるような青空の下、木陰で読書でもすることか?それともタイプライターに向かってなにかを書いている。なんとなくヘミングウェイのような人がイメージされる。「老人と海」を書いたくらいなのでカジキに関しては知悉していよう。かれが葉巻を愛好していただろうかか? 調べてみるとキューバには顔パスで入れる数少ないアメリカ人のようだったのでハバナ葉巻とまったく縁がなかったとはいえまい、といってフローズンダイキリほどヘミングウェイの代名詞になるまでにはなっていない。ただ、このブランドでカクテルは重要なアイデンティティアイテムのようだ。HPにはカクテルの紹介のページや作り方までが動画で見ることができる。トミーという愛称がヘミングウェイのことだったとしたら、“アイランド ライフスタイル”のコアコンセプトはかれだ。現にかれの長編小説「海流のなかの島々」はバハマ諸島の中のビミニ島で書かれている。現在、そこにはヘミングウェイ博物館もある。
 
ヘミングウェイはジャーナリストとして世界を回っている。スペイン、パリ、オーストリア、イタリア、キューバ、バハマ、…そしてアメリカ生まれ。9ヶ国語くらいは話すことができたかも知れない。かれは医師の父と声楽家の母との間に生まれ、かなり豊かな家庭で育っている。かれの生家に行ってみるとそれはわかる。身に着いたライフスタイルはかなり洗練されていたろう。付け焼刃ではない。そういえばべネツィアに行ったとき泊まったホテルの隣がかれが通っていたとされるハーリーズバーだった?お酒を愛したようである。海を目の前にしたそのバーはかれの好みにぴったりだ。かれの愛称は“パパ・へミングウェイ”だが?トミーとも呼ばれていたのではないかな?若いころから「パパ」なはずはない。かれのミドルネームは「ミラー」だが「トミー」と音感が近い???

ちなみにバハマ諸島とは名前は聞いていてもこの島について知っている日本人は少ないのではないか。まず場所だが、あのキューバの真上にあり米本土のフロリダとの間で諸島と付くだけあって700近い島で成り立っている。バハマは英国連邦に属する独立国である。したがって、国家元首はエリザベス女王である。これを聞くとなんとなくラルフローレン的なにおいがしてくる、あのコンセプトだ!この論考を読んでいてくれた人なら判るだろう。そう「オールド・マネー・コンセプト」だ。オールドマネーの人たちが過ごす海のライフスタイルということだ。なるほどラルフローレンにはどういうわけがマリンリゾートカテゴリーのウェアがほとんどない。それはラルフローレン自身が海をやらないからだろう。かれのリゾートは陸地だ、山、河、湖、平原などである。
 
私はトミーバハマのモデルは英国貴族ではないかとまず、あたりをつけた。最初、英国の王位を捨てたウィンザー公ではないかと思った。というのは王位を捨てたあとのかれの役職がバハマ総督だったからだ。しかし、愛称が違っていた。次に目をつけたのが第五代ロンズデール伯ヒュー・ラウザーだった。まず、愛称がトミーであり、夫婦はお互いに「ミスタ・トミー」「ミセス・トミー」と呼び合っていたようですし、葉巻の愛好家で自分の名前が付いたサイズが現在でもあるくらいだからだ。双方とも貴族であり人々が憧れるライフスタイルを身につけている。とくにロンズデール伯はスポーツ万能で英国紳士の一つの規範のようなものをつくった。ボクシングはかれによって紳士のスポーツとして世界に認められたのである。しかし、海とのかかわりというより、ダウンズを馬に乗って狐を追っていたようで、カジキマグロではなく狐や兎なのでかなり異なる。
 
したがって、ここでの結論はアーネスト・ヘミングウェイのライフスタイルがブランドの源泉ではないかということである。
 
ライフスタイルとは一つの生活スタイルで「かたち」であり様式である。昔はあらゆるものにかたちがあり、様式があった。たとえば正月の過ごし方にもかたちがあり、様式があった。それを破壊するのが進歩と錯覚しているのが現代である。しかし、皮肉なことに庶民の憧れる、「豊かさ」とはかたちや様式をもった生活によって成り立っているということが前提にある。だから、人々は真の豊かさを求めて、自身の価値観に合致したこのようなトータルなライフスタイルを求め続けるのではないか。ライフスタイルブランドは今後さらに発展するのではないかと思われる。

2013/1/14 投稿記事

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